第43話 【違和感を感じたなら君も中毒者】
雨はなおも山賊村へ降り続いていた。
純増に店員チャンスが訪れようとしていた、その頃➖➖
◇◇◇
ジュリナは荒い息を吐きながら剣を杖代わりに立っていた。肩で息をするたび、全身の傷が痛む。
黒炎も先程までの勢いはなく、小さく揺らめいているだけだった。そんなジュリナの前で、山賊達が左右へ道を開ける。
ズシン。ズシン。重い足音を響かせながら、山田カイザーがゆっくり歩いてきた。
「よう、マグロちゃん。調子はどうだぁ?ずいぶん辛そうだけどよ!」
巨大な身体がジュリナを見下ろしながら笑う。
ジュリナは剣にもたれながら睨み返した。
「…………。」
「おぉ、怖ぇ怖ぇ。噛みつかれそうだ。」
山田カイザーは肩をすくめる。一拍置いてニヤリと笑う。
「でも、ベッドの中ではやめてくれよぉ?可愛い子ちゃん ……ってかぁ!!グハハハハッ!!」
山賊達も腹を抱えて笑う。
「ギャハハハハ!!カイザー様うめぇ!!」
ジュリナは冷たい視線を向けた。
(……つまらない…早く純増様にいい子いい子してもらいたい…)そんな妄想が頭に浮かぶ。
山田カイザーはジュリナの目の前まで来る。
「そろそろ終わりだ。」首を鳴らした。
「この人数に補助魔法を掛け続けるのも疲れるんだよ。」ニヤリ。
「お前との夜の楽しみが減っちまう。ぶはっ!グハハハハ!!」
ジュリナは口元の血を拭った。
「ふふふ……。」小さく笑う。
「もう……お疲れなのですね。」
「……あぁん?」
「そんな程度では……我が主人には到底及びませんよ。」
山田カイザーは鼻で笑う。
「主人?怖くなって逃げた男のことか?」
「…違います。」ジュリナは真っ直ぐ答えた。
「純増様は逃げておりません。」赤い瞳は揺るがない。
「今も……私のために必死で頑張ってくださっています。私の力が足りないばかりに……また負担を掛けてしまっています。侮辱するようでしたら殺しますよ…」少しだけ寂しそうに微笑む。
「ぶはっ!殺すって!!グハハッ!そんな中折れ男ほっとけよ!」山田カイザーは腹を抱えて笑う。
山賊達も続く。「そうだそうだ!」
「ほら、見てみろよ!ここにはお前みたいなマグロでも遊んでくれる男が山ほどいるぜ!」
ジュリナは首を傾げた。
「ふふっ。もう一度、鏡をご覧になってから仰った方が宜しいですよ。そのお顔では、お一人でしているのがお似合いです。」
山賊達が静まり返る。「…………。」
山田カイザーの額に青筋が浮かんだ。
「……大人しくなるまで殴ってやるよ…」
拳が一直線にジュリナに飛ぶ。
ジュリナは咄嗟に腹を庇った。
ドゴォッ!!拳はジュリナの顔面へめり込む。
身体が吹き飛び、地面を何度も転がった。
「ガハッ……!」鼻血が雨へ溶ける。
山田カイザーは苛立ったように叫んだ。
「おめぇ!なんで顔を守らねぇ!!」
ジュリナはゆっくり起き上がり、腹へそっと手を当てた。
そこには➖➖『碼樽純増』刻まれた主人の名前。
「顔よりも……。」苦しそうに笑う。
「私自身よりも……。」胸を張る。
「守りたいものが……ここにありますから。」
山田カイザーは腹を抱えて笑った。
「グハハハハ!!面白ぇ女だ!!」指を腹へ向ける。
「だったらそこに俺の名前を書き直してやるよ!!」
ジュリナは血を吐き捨てながら笑った。
「あはっ。変なお名前は、お断りです♡」
「てめぇぇぇぇぇ!!原型とどめねぇほど殴ってやるよ!」
◇◇◇
一方その頃➖➖VRホール内。
店員チャンスが始まる。
データカウンターには大きく数字が表示された。
【残り5G】
店員が静かに告げる。
「もう一度ルールの説明を。五ゲームの間に、一度だけ遅れが発生します。ですが今回は無音です。勘で見抜いてください。」
純増は煙草を咥え、大きく息を吐く。
「ふぅぅぅ……これは……。」苦笑した。
「違った意味で緊張するな。」
レバーオン。一ゲーム目。リールが回る。
(…………。はぁ?わっかんねぇ!!何だこれ!!音が無いだけでこんな難しいのかよ!!…いきなり狙うか?いや…ダメなら終わり…どうする…?)
恐る恐るチェリーを狙う。チェリー停止。
「ふぅ、セーフ……。」
二ゲーム目。レバーオン。
(……やっぱわかんねぇ!どっち!?どっちなんだよ!?変な汁出て止まんねぇ!!くそっ!)
ゆっくりチェリーを狙う。またチェリー。
「ぷはぁぁぁ……セーフ。寿命縮んだわ……。」
液晶へ目を向ける。そこには腹を庇いながら殴られるジュリナ。
「くそっ……。」純増は拳を握る。
「女の子の顔に手ぇ上げるとか、親はどういう教育してんだよ……。」
三ゲーム目。レバーオン。
➖➖ウォォ ォォォン。その瞬間だった。
(……ん?)純増の指が止まる。
(今……何か違った…?)心臓が大きく鳴る。
(いや……気のせいかもしれねぇ。ここで外したら……ジュリナ。俺。二人とも終わる)
震える手。目でチェリーを追う。
(馬鹿っ!迷うな。俺は何年打ってきた。信じろ。自分の違和感を。これを信じられないなら……俺はもうスロット台と向き合う資格はないっ!!」
「行くぞぉぉぉ!!」
パン!!パン!!パン!!リーチ目を狙い三つのボタンを迷いなく押し切る。
一瞬の静寂。次の瞬間➖➖
リール上には美しいリーチ目が一直線に並んだ。
眩しいほどの五月雨フラッシュがリーチ目を染め上げる。
「…………。」純増は震えていた。
「あはっ!あはははははっ!!見たかぁぁぁ!!これが俺の実力よぉぉぉ!!」震える手で煙草へ火を付ける。
店員は深々と頭を下げた。
「おめでとうございます。見事店員チャンス成功です。では、今回の特殊効果を発表いたします。ジュリナ様、全ステータス二倍。全ての傷を完全回復。敵に掛かっている補助魔法、全解除。」
純増の目が輝く。
「おぉぉ!よかったぁ!」
「さらに、純増様には五ゲーム間ボーナス確率アップ。そしてSTタイプとさせて頂きます。ボーナス当選時は、、全てビッグボーナスとなります」
「ぶひゃゃゃゃゃっ!!」純増は立ち上がる。
「お祭り騒ぎですやん!!もう、神輿の上で踊る人ですやん!!ちょいっ♪ちょいっ♪ちょいっ♪」
小踊りする純増を見て店員は呆れたようにため息をつく。
「……喜ぶのは構いませんが。早く揃えないと、ジュリナ様が可哀想ですよ。」
「……あっ。」純増は我に返る。
「ごめん!!」そして液晶へ笑い掛ける。
「ジュリナ!!お待たせ!!さぁ、“始まる”ぞ!!」
液晶の向こうで血まみれのジュリナが優しく笑った。
『はいっ!純増様!ジュリナはもう……。』黒炎が小さく揺れる。
『早く山賊さん達を、ボコボコにしたくてたまりません♡あはっ。皆殺しでいいですよね☆』
純増がビッグボーナスを揃えた瞬間➖➖
キュインッ!!ジュリナのホールソードが虹色に輝く。
ジュリナの折れてた骨が音を立てて繋がる。裂けた傷が塞がる。
そして山賊達を包んでいた補助魔法が、霧のように消え去った。
「……なっ。」山田カイザーの笑みが初めて消える。
ジュリナはゆっくりと顔を上げた。
その綺麗な顔の紅い瞳には、もう迷いも痛みもなかった。
「ふふふ。では、第二ラウンド開始ですよ♡山田カイザーちゃん☆」
続
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