↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
43/68

第43話 【違和感を感じたなら君も中毒者】


 雨はなおも山賊村へ降り続いていた。

 純増に店員チャンスが訪れようとしていた、その頃➖➖


◇◇◇


 ジュリナは荒い息を吐きながら剣を杖代わりに立っていた。肩で息をするたび、全身の傷が痛む。

 黒炎も先程までの勢いはなく、小さく揺らめいているだけだった。そんなジュリナの前で、山賊達が左右へ道を開ける。

 

 ズシン。ズシン。重い足音を響かせながら、山田カイザーがゆっくり歩いてきた。

「よう、マグロちゃん。調子はどうだぁ?ずいぶん辛そうだけどよ!」

 巨大な身体がジュリナを見下ろしながら笑う。

 ジュリナは剣にもたれながら睨み返した。

「…………。」


「おぉ、怖ぇ怖ぇ。噛みつかれそうだ。」

 山田カイザーは肩をすくめる。一拍置いてニヤリと笑う。

「でも、ベッドの中ではやめてくれよぉ?可愛い子ちゃん ……ってかぁ!!グハハハハッ!!」

 山賊達も腹を抱えて笑う。

「ギャハハハハ!!カイザー様うめぇ!!」


 ジュリナは冷たい視線を向けた。

(……つまらない…早く純増様にいい子いい子してもらいたい…)そんな妄想が頭に浮かぶ。


 山田カイザーはジュリナの目の前まで来る。

「そろそろ終わりだ。」首を鳴らした。

「この人数に補助魔法を掛け続けるのも疲れるんだよ。」ニヤリ。

「お前との夜の楽しみが減っちまう。ぶはっ!グハハハハ!!」


 ジュリナは口元の血を拭った。

「ふふふ……。」小さく笑う。

「もう……お疲れなのですね。」

「……あぁん?」

「そんな程度では……我が主人には到底及びませんよ。」


 山田カイザーは鼻で笑う。

「主人?怖くなって逃げた男のことか?」

「…違います。」ジュリナは真っ直ぐ答えた。

「純増様は逃げておりません。」赤い瞳は揺るがない。

「今も……私のために必死で頑張ってくださっています。私の力が足りないばかりに……また負担を掛けてしまっています。侮辱するようでしたら殺しますよ…」少しだけ寂しそうに微笑む。


「ぶはっ!殺すって!!グハハッ!そんな中折れ男ほっとけよ!」山田カイザーは腹を抱えて笑う。

 山賊達も続く。「そうだそうだ!」

「ほら、見てみろよ!ここにはお前みたいなマグロでも遊んでくれる男が山ほどいるぜ!」


 ジュリナは首を傾げた。

「ふふっ。もう一度、鏡をご覧になってから仰った方が宜しいですよ。そのお顔では、お一人でしているのがお似合いです。」


 山賊達が静まり返る。「…………。」


 山田カイザーの額に青筋が浮かんだ。

「……大人しくなるまで殴ってやるよ…」

 拳が一直線にジュリナに飛ぶ。


 ジュリナは咄嗟に腹を庇った。

 ドゴォッ!!拳はジュリナの顔面へめり込む。

 身体が吹き飛び、地面を何度も転がった。


「ガハッ……!」鼻血が雨へ溶ける。

 山田カイザーは苛立ったように叫んだ。

「おめぇ!なんで顔を守らねぇ!!」


 ジュリナはゆっくり起き上がり、腹へそっと手を当てた。

 そこには➖➖『碼樽純増』刻まれた主人の名前。

「顔よりも……。」苦しそうに笑う。

「私自身よりも……。」胸を張る。

「守りたいものが……ここにありますから。」


 山田カイザーは腹を抱えて笑った。

「グハハハハ!!面白ぇ女だ!!」指を腹へ向ける。

「だったらそこに俺の名前を書き直してやるよ!!」


 ジュリナは血を吐き捨てながら笑った。

「あはっ。変なお名前は、お断りです♡」

「てめぇぇぇぇぇ!!原型とどめねぇほど殴ってやるよ!」


◇◇◇


 一方その頃➖➖VRホール内。

 店員チャンスが始まる。

 データカウンターには大きく数字が表示された。


 【残り5G】


 店員が静かに告げる。

「もう一度ルールの説明を。五ゲームの間に、一度だけ遅れが発生します。ですが今回は無音です。勘で見抜いてください。」


 純増は煙草を咥え、大きく息を吐く。

「ふぅぅぅ……これは……。」苦笑した。

「違った意味で緊張するな。」


 レバーオン。一ゲーム目。リールが回る。


(…………。はぁ?わっかんねぇ!!何だこれ!!音が無いだけでこんな難しいのかよ!!…いきなり狙うか?いや…ダメなら終わり…どうする…?)

 恐る恐るチェリーを狙う。チェリー停止。

「ふぅ、セーフ……。」


 二ゲーム目。レバーオン。

(……やっぱわかんねぇ!どっち!?どっちなんだよ!?変な汁出て止まんねぇ!!くそっ!)

 ゆっくりチェリーを狙う。またチェリー。

「ぷはぁぁぁ……セーフ。寿命縮んだわ……。」


 液晶へ目を向ける。そこには腹を庇いながら殴られるジュリナ。

「くそっ……。」純増は拳を握る。

「女の子の顔に手ぇ上げるとか、親はどういう教育してんだよ……。」


 三ゲーム目。レバーオン。

 ➖➖ウォォ ォォォン。その瞬間だった。

(……ん?)純増の指が止まる。

(今……何か違った…?)心臓が大きく鳴る。

(いや……気のせいかもしれねぇ。ここで外したら……ジュリナ。俺。二人とも終わる)

 震える手。目でチェリーを追う。


(馬鹿っ!迷うな。俺は何年打ってきた。信じろ。自分の違和感を。これを信じられないなら……俺はもうスロット台と向き合う資格はないっ!!」


「行くぞぉぉぉ!!」

 パン!!パン!!パン!!リーチ目を狙い三つのボタンを迷いなく押し切る。


 一瞬の静寂。次の瞬間➖➖

 リール上には美しいリーチ目が一直線に並んだ。

 眩しいほどの五月雨フラッシュがリーチ目を染め上げる。


「…………。」純増は震えていた。

「あはっ!あはははははっ!!見たかぁぁぁ!!これが俺の実力よぉぉぉ!!」震える手で煙草へ火を付ける。


 店員は深々と頭を下げた。

「おめでとうございます。見事店員チャンス成功です。では、今回の特殊効果を発表いたします。ジュリナ様、全ステータス二倍。全ての傷を完全回復。敵に掛かっている補助魔法、全解除。」


 純増の目が輝く。

「おぉぉ!よかったぁ!」


「さらに、純増様には五ゲーム間ボーナス確率アップ。そしてSTタイプとさせて頂きます。ボーナス当選時は、、全てビッグボーナスとなります」

「ぶひゃゃゃゃゃっ!!」純増は立ち上がる。

「お祭り騒ぎですやん!!もう、神輿の上で踊る人ですやん!!ちょいっ♪ちょいっ♪ちょいっ♪」


 小踊りする純増を見て店員は呆れたようにため息をつく。

「……喜ぶのは構いませんが。早く揃えないと、ジュリナ様が可哀想ですよ。」


「……あっ。」純増は我に返る。

「ごめん!!」そして液晶へ笑い掛ける。

「ジュリナ!!お待たせ!!さぁ、“始まる”ぞ!!」


 液晶の向こうで血まみれのジュリナが優しく笑った。

『はいっ!純増様!ジュリナはもう……。』黒炎が小さく揺れる。

『早く山賊さん達を、ボコボコにしたくてたまりません♡あはっ。皆殺しでいいですよね☆』


 純増がビッグボーナスを揃えた瞬間➖➖

 キュインッ!!ジュリナのホールソードが虹色に輝く。

 ジュリナの折れてた骨が音を立てて繋がる。裂けた傷が塞がる。

 そして山賊達を包んでいた補助魔法が、霧のように消え去った。


「……なっ。」山田カイザーの笑みが初めて消える。


 ジュリナはゆっくりと顔を上げた。

 その綺麗な顔の紅い瞳には、もう迷いも痛みもなかった。

「ふふふ。では、第二ラウンド開始ですよ♡山田カイザーちゃん☆」



            続



読んで頂きありがとうございます。ブックマーク、評価、感想などよろしくお願いします。毎日7時30分更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。