↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
42/68

第42話 【俺の中のヒーローはいつでも負けない】


 ホールでは純増が無我夢中でレバーを叩いていた。

 カコン。カコン。カコン。「早く、頼む……!」

 液晶ではジュリナがふらつきながらも必死に剣を振るっている。


 ドゴッ!!山賊の拳を受けながらも、黒炎を纏って立ち上がる。

 そのたびに➖➖ビッグボーナス。

 純増が引いたボーナスが発動し、淡い光がジュリナを包む。


「はぁっ……!」傷が少しだけ癒え、足取りが戻る。

 また山賊を斬り伏せる。

「よしっ!」純増は拳を握った。

「その調子だジュリナ!」『はい。純増様!』

 

 しかし次の瞬間。山田カイザーに強化された山賊にジュリナは再び囲まれた。

「くそぉぉぉ!」純増はレバーを叩き続ける。

「あぁぁぁぁぁ!!新装初日の新台取れて負けるとかありえねぇからぁぁぁ!!」店内に叫び声が響く。


 レバーオン。「頼む!」

 レバーオン。「なんか引けっ!」

 レバーオン。「引け引け引け引けぇぇぇ!!」

 レバーオン。「嘘でもいいからなんかフラッシュしろって!!」

 

 ➖➖ピコン。

 純増は突然休憩ボタンを押した。

 店員が首を傾げる。

「お客様?どうかされましたか?」

「ん?」純増は立ち上がる。

「トイレ。あとカフェラテとアメスピお願い。」

「かしこまりました。」


 歩きながら純増は小さく呟く。

「くっそ……。」煙草の空箱をクシャっと握りつぶす。

「もう二箱目かよ……肺が死ぬ……。」


◇◇◇


 トイレ。純増は鏡の前へ立つ。

 蛇口をひねる。ジャァァァ……

 鏡には疲れ切った自分が映っていた。


「……おい。」鏡の自分を見る。

「お前はこんなもんか?」返事はない。

「三十年もスロット打ってきてよ。ボーナス一つ好きな時に引けねぇのか?だらしねぇぞ。」拳を握る。

「気合い入れろ!小指が爆ぜるくらいレバー叩け!!左手が折れるくらいMAXBET叩けよっ!」


 パァン!!両頬を叩く。

 もう一発。パァン!!冷たい水で顔を洗う。

 濡れた手で髪をオールバックに流し、大きく息を吐いた。

「ふぅ~~……気合い注入完了。」そして苦笑する。

「……まぁ、これで引けるなら朝からやってるんだけどね。」あははっと笑い、席へ戻っていった。


◇◇◇


 席へ戻ると店員がカフェラテを差し出した。

「どうぞ。」「ありがと。」

 純増は一気に飲み干す。

 店員は純増の顔を見る。

「赤くなってますけど……何かありましたか?」

「あはは!何もなかった!!」純増は大きく笑う。


 レバーオン。カコン。打ち始める。

 店員は壁の時計をちらりと見上げた。

 その様子を見て純増が聞く。


「ねぇ。店員チャンスって時間制なの?それとも店員さんの気分?」

 店員は真面目な顔になる。

「店員チャンスは……必殺技です。」

「……必殺技?」「はい。」


 店員は胸を張った。

「ウルトラマンにはスペシウム光線。仮面ライダーにはライダーキック。キン肉マンにはキン肉バスター。」さらに胸を張る。

「そして、このホールソードには、、店員チャンス。私は、そんな誰かのヒーローになりたいのです。」

 真っ直ぐに胸を張り、揺るぎなく純増を見る。


「…………。」純増は数秒固まった。

「いやぁぁぁぁ!!何めっちゃ胸張ってんだよ!!」

 ホール中に響く純増の声。

「ヒーロー?なれるかぁぁぁ!!なってたまるかぁ!!おじさんがスロット打って、脳汁出してアヘアヘしてる瞬間に、子供が脳汁出るかぁぁぁ!!どこ目指してんだよ!!」


 店員は静かに視線を逸らす。

「夢も見れない……バカ。明日禿げろ。」小さく呟いた。

「あっ!」純増が振り向く。

「お前、今悪口言ったろ!!」

 店員も負けじと叫ぶ。

「うるさいっ!!いいから早くボーナス引いて相手を追い詰めろ!!これ以上騒ぐとカスハラで出禁にしますよ!!」

「お、おぉぉ……。」純増は肩をすぼめる。

「カスハラとか言うなよぉ……。怖いって……。ごめんて……。」


 その瞬間だった。

 カコン。ポチ、ポチ、ポチ。ピタッ。

「……。」純増の目が見開く。

「えっ。」リーチ目。ビックボーナス。

 ボーナス終了後、数ゲーム。「おっ……。」

 さらに。ポンッ。ボーナス。

 ポンッ。またボーナス。

「おっ!おぉぉぉ!?波来たんじゃないのぉぉぉ!!」


 純増は勢いよく店員を見る。

 店員は静かに親指を立てた。

 ニヤリ。次の瞬間。


 ♪ピンポンパンポーン♪ホール中へ店内放送が響く。

『店員チャァァァァァンス!!』

「来たぁぁぁぁ!!」純増が立ち上がる。


 店員は一礼した。

「お待たせしました、純増様。今回の店員チャンスは、、」一呼吸置く。

「五ゲーム間中に、遅れが発生します。」

 純増は拳を握る。

「よっしゃ!……んでどうすんの?」


 店員は静かに続ける。

「はい。今回は遅れ=ボーナスですが、、無音です。」

「…………。」純増が固まる。

「勘で遅れを察知し、リーチ目を出してください。ただし、リーチ目を狙えるのは一回のみです。チェリーをフォローした場合は無効になります」

「…………。」「……は?何か?」店員は首を傾げた。


「いや、勘で?いやいやいやいや!!」純増は頭を抱える。

「音が無いのに遅れって何だよ!!どうやって察知すんだよ!!」

「いや、だから……勘です。」店員は真顔で答えた。

「便利な言葉で全部済ますなぁぁぁぁぁ!!」

「うるせぇぇぇぇ!!わがままばっかり言ってんなぁぁぁぁぁ!!さっさと打てっ!!」バチンッ!

「え……叩いた…?嘘、俺…けっこうなおじさんだよ…。人に叩かれていい歳じゃないよ…」

 

 店員の絶叫と純増の絶叫と何かが強く叩かれた音がホール中へ響き渡った。



            続

読んで頂きありがとうございます。ブックマーク、評価、感想などよろしくお願いします。毎日7時30分更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。