第42話 【俺の中のヒーローはいつでも負けない】
ホールでは純増が無我夢中でレバーを叩いていた。
カコン。カコン。カコン。「早く、頼む……!」
液晶ではジュリナがふらつきながらも必死に剣を振るっている。
ドゴッ!!山賊の拳を受けながらも、黒炎を纏って立ち上がる。
そのたびに➖➖ビッグボーナス。
純増が引いたボーナスが発動し、淡い光がジュリナを包む。
「はぁっ……!」傷が少しだけ癒え、足取りが戻る。
また山賊を斬り伏せる。
「よしっ!」純増は拳を握った。
「その調子だジュリナ!」『はい。純増様!』
しかし次の瞬間。山田カイザーに強化された山賊にジュリナは再び囲まれた。
「くそぉぉぉ!」純増はレバーを叩き続ける。
「あぁぁぁぁぁ!!新装初日の新台取れて負けるとかありえねぇからぁぁぁ!!」店内に叫び声が響く。
レバーオン。「頼む!」
レバーオン。「なんか引けっ!」
レバーオン。「引け引け引け引けぇぇぇ!!」
レバーオン。「嘘でもいいからなんかフラッシュしろって!!」
➖➖ピコン。
純増は突然休憩ボタンを押した。
店員が首を傾げる。
「お客様?どうかされましたか?」
「ん?」純増は立ち上がる。
「トイレ。あとカフェラテとアメスピお願い。」
「かしこまりました。」
歩きながら純増は小さく呟く。
「くっそ……。」煙草の空箱をクシャっと握りつぶす。
「もう二箱目かよ……肺が死ぬ……。」
◇◇◇
トイレ。純増は鏡の前へ立つ。
蛇口をひねる。ジャァァァ……
鏡には疲れ切った自分が映っていた。
「……おい。」鏡の自分を見る。
「お前はこんなもんか?」返事はない。
「三十年もスロット打ってきてよ。ボーナス一つ好きな時に引けねぇのか?だらしねぇぞ。」拳を握る。
「気合い入れろ!小指が爆ぜるくらいレバー叩け!!左手が折れるくらいMAXBET叩けよっ!」
パァン!!両頬を叩く。
もう一発。パァン!!冷たい水で顔を洗う。
濡れた手で髪をオールバックに流し、大きく息を吐いた。
「ふぅ~~……気合い注入完了。」そして苦笑する。
「……まぁ、これで引けるなら朝からやってるんだけどね。」あははっと笑い、席へ戻っていった。
◇◇◇
席へ戻ると店員がカフェラテを差し出した。
「どうぞ。」「ありがと。」
純増は一気に飲み干す。
店員は純増の顔を見る。
「赤くなってますけど……何かありましたか?」
「あはは!何もなかった!!」純増は大きく笑う。
レバーオン。カコン。打ち始める。
店員は壁の時計をちらりと見上げた。
その様子を見て純増が聞く。
「ねぇ。店員チャンスって時間制なの?それとも店員さんの気分?」
店員は真面目な顔になる。
「店員チャンスは……必殺技です。」
「……必殺技?」「はい。」
店員は胸を張った。
「ウルトラマンにはスペシウム光線。仮面ライダーにはライダーキック。キン肉マンにはキン肉バスター。」さらに胸を張る。
「そして、このホールソードには、、店員チャンス。私は、そんな誰かのヒーローになりたいのです。」
真っ直ぐに胸を張り、揺るぎなく純増を見る。
「…………。」純増は数秒固まった。
「いやぁぁぁぁ!!何めっちゃ胸張ってんだよ!!」
ホール中に響く純増の声。
「ヒーロー?なれるかぁぁぁ!!なってたまるかぁ!!おじさんがスロット打って、脳汁出してアヘアヘしてる瞬間に、子供が脳汁出るかぁぁぁ!!どこ目指してんだよ!!」
店員は静かに視線を逸らす。
「夢も見れない……バカ。明日禿げろ。」小さく呟いた。
「あっ!」純増が振り向く。
「お前、今悪口言ったろ!!」
店員も負けじと叫ぶ。
「うるさいっ!!いいから早くボーナス引いて相手を追い詰めろ!!これ以上騒ぐとカスハラで出禁にしますよ!!」
「お、おぉぉ……。」純増は肩をすぼめる。
「カスハラとか言うなよぉ……。怖いって……。ごめんて……。」
その瞬間だった。
カコン。ポチ、ポチ、ポチ。ピタッ。
「……。」純増の目が見開く。
「えっ。」リーチ目。ビックボーナス。
ボーナス終了後、数ゲーム。「おっ……。」
さらに。ポンッ。ボーナス。
ポンッ。またボーナス。
「おっ!おぉぉぉ!?波来たんじゃないのぉぉぉ!!」
純増は勢いよく店員を見る。
店員は静かに親指を立てた。
ニヤリ。次の瞬間。
♪ピンポンパンポーン♪ホール中へ店内放送が響く。
『店員チャァァァァァンス!!』
「来たぁぁぁぁ!!」純増が立ち上がる。
店員は一礼した。
「お待たせしました、純増様。今回の店員チャンスは、、」一呼吸置く。
「五ゲーム間中に、遅れが発生します。」
純増は拳を握る。
「よっしゃ!……んでどうすんの?」
店員は静かに続ける。
「はい。今回は遅れ=ボーナスですが、、無音です。」
「…………。」純増が固まる。
「勘で遅れを察知し、リーチ目を出してください。ただし、リーチ目を狙えるのは一回のみです。チェリーをフォローした場合は無効になります」
「…………。」「……は?何か?」店員は首を傾げた。
「いや、勘で?いやいやいやいや!!」純増は頭を抱える。
「音が無いのに遅れって何だよ!!どうやって察知すんだよ!!」
「いや、だから……勘です。」店員は真顔で答えた。
「便利な言葉で全部済ますなぁぁぁぁぁ!!」
「うるせぇぇぇぇ!!わがままばっかり言ってんなぁぁぁぁぁ!!さっさと打てっ!!」バチンッ!
「え……叩いた…?嘘、俺…けっこうなおじさんだよ…。人に叩かれていい歳じゃないよ…」
店員の絶叫と純増の絶叫と何かが強く叩かれた音がホール中へ響き渡った。
続
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