第39話 【世にも奇妙な同調】
雨は静かに降り続いていた。
山賊村の少し奥の家の軒先で雨宿りしている。
純増とジュリナとカウホースは並んで立ち、その先をじっと見つめている。
ズシン。ズシン。ズシン。
重たい足音が雨音をかき消しながら近付いてくる。 先頭に立つのは、一人の大男だった。
身長は二メートル近い。雨に濡れた長い黒髪は顔へ張り付き、筋骨隆々の身体には獣の毛皮だけを羽織っている。腕は丸太のように太く、背中には巨大な斧。
一歩踏み出すたび、水たまりが跳ねた。
その威圧感に、周囲の山賊達ですら半歩下がる。
純増はその姿を見つめ➖➖
「……うわぁぁ、まさに…まんまですやん。」
「はい?」ジュリナが首を傾げる。
「いやっ!まんま悪党の親玉ですやん!」
「確かに……。」ジュリナも素直に頷いた。
すると後ろの山賊達が調子に乗って笑い始める。
「ヒャッハッハッ!!」「ここまでノコノコ付いて来るとは間抜けな奴らだ!」「ビビって声も出ねぇかぁ!」
「うわっ、赤に青に緑に黄色。どのナビから狙っていいか迷っちゃうなぁ…。高確確定…激熱!なんてね…」
そして純増は小さくジュリナへ顔を寄せた。
「ねぇねぇ、ジュリナ。」「はい?」
「親玉の名前当てクイズしない?」
「えっ?……名前ですか?」「俺は、あいつ、牙大王だと思う。」
ジュリナは真剣に親玉を眺める。
雨で張り付いた髪。ずぶ濡れの毛皮。そして真顔。
「ん〜……でしたら私は……。」
一拍置いて微笑んだ。
「濡れ鼠大王です。」「ぶっ!!」純増は思わず吹き出した。
「濡れ鼠っ!」「はい。」ジュリナは真顔で続ける。
「ビショビショで髪もぺたーっとしておりますので。」
「あははははっ!!」肩を震わせて笑う純増。
その笑い声に、親玉の額へ青筋が浮かんだ。
「てめぇらっ!何笑ってんだコラァァァ!!」怒声が村中へ響く。
「随分と俺の手下を可愛がってくれたらしいな!」巨大な斧を肩へ担ぐ。
「死にたくなかったら女と荷物を置いて、とっととぶっ飛ばされて帰れ!!」
山賊達も勢い付く。
「ヒャッハッハッ!!」「親分が来たからには終わりだ!」「お前らなんかイチコロよ!」
そして一人の山賊が胸を張って叫ぶ。
「ヒャッハァー!!この“山田カイザー様”が来たからには、お前ら無事には帰れねぇからなぁ!!」
「…………。」「…………。」
純増とジュリナがゆっくり顔を見合わせる。
数秒の沈黙。そして➖➖
「「……山田カイザー!!」」二人同時に吹き出した。
「あはははははっ!!」「くっ……!」
ジュリナまで肩を震わせている。
「ぷっ、だ、ダメです純増様っ……!名前で笑ったらダメなのに…」ジュリナはお腹を押さえる。
「それに強そうなのに……名前で全部持ってかれましたっ……!」
純増も涙を拭いながら頷く。
「分かるっ! 見た目はラスボス級なのに、急に親近感わいちゃった!」
「山田の……。」「カイザーさん……。」
「「反則っ!!」」二人は再び笑い出した。
「お前らぁぁぁぁ!!何がおかしぃぃぃ!!」
山田カイザーの怒鳴り声が雨空へ響いた。
顔を真っ赤にして怒鳴る親玉を見て、純増はようやく笑いを落ち着かせる。
「あー……笑った笑った。」目尻の涙を拭く。
「ジュリナ。」「はい。」
「そろそろやりますか。」「くくっ……はい。そうですね」
ジュリナも笑いを堪えながら頷いた。
その瞬間➖➖
純増の目がギンギンになる。
ジュリナの紅い瞳もバキバキになる。
山田カイザーは巨大な手を前へかざした。
「おいおい。」口元を吊り上げる。
「まさか二人だけで俺達全員とやる気じゃねぇよな?」
ジュリナは静かに微笑む。
「えぇ。そのつもりですが?何か?それに純増様は私を支えてくださるだけです。ですから、、実質、お相手するのは私一人です」
一瞬の静寂。そして、、
「ギャハハハハ!!」山賊達は腹を抱えて笑い始めた。
「聞いたか!一人で俺達と戦うってよ!」
「雨で頭まで濡れちまったか!」
純増は小声で囁く。
「ジュリナ。」「はい。」
「あいつら、めっちゃ自信ありそうだけど……大丈夫?」
ジュリナは迷いなく頷き優しく微笑んだ。
「問題ありません。純増様の優しさが、今も私を強くしてくださっています。」
そして大きな胸へ手を当てる。
「この力がある限り……私は誰にも負けません。」
(あぁぁぁ……。早くメッタ打ちしたいです……♡山賊さん、今度はどんなの声で泣くんでしょうか…想像しただけで何が溢れそうですぅぅぅ)
純増はそんな可愛いジュリナを見て嬉しそうに笑った。
「ふふふ、嬉しいこと言ってくれるねぇ。よし!やるか!」
(あぁぁぁ……。早くレバーオンしてぇぇぇぇ!!今度はどんな演出来るのかなぁ…どんなリーチ目?想像しただけで脳汁があふれてくるぅぅぅ)
二人の想いは、不思議なほど綺麗に重なっていた。
ただ、その理由だけはまったく違う。
ジュリナは剣を握り黒炎を手足へ纏い、大地を蹴る。同時に純増はホールソードへ飛び込んだ。
ドンッ!!雨粒を吹き飛ばしながら、大きく宙へ舞い上がる。
「うひゃぁぁぁぁ!!行ってきまぁぁぁす!!」
「うふふ。純増様。行ってらっしゃいませ♡」
純増が吸い込まれて行くのを確認する。
「山賊さん。もう、泣いても許しませんからね…。止めてくれる優しい純増様はいませんから…☆」
雨音を切り裂き、二人はそれぞれの戦場へ。
山賊村を揺るがす戦いの火蓋が、今、切って落とされた。
続
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