第38話 【俺はスロットでしか例えられない人間だ】
山賊達の案内で、馬車は山道をゆっくりと進んでいた。
先頭を歩く山賊達。その後ろを牛柄の馬が荷馬車を引き、純増とジュリナがのんびり揺られている。
空気は穏やかだった。
ジュリナは純増から渡された袋を開ける。
「純増様。これ……食べても宜しいのですか?」
「うんうん。コアラのマーチ。俺の世界のお菓子だよ。」
「では……いただきます♡」
ぱくっ。もぐもぐ。チョコジュワー。
次の瞬間➖➖
「うんまぁぁぁぁぁぁっ!!」
ジュリナの目が大きく見開かれた。
「純増様っ!!何ですかこれ!?美味しすぎるんですがぁぁぁ!!」
「おぉ、気に入ってくれた?今回、店員さんが機嫌悪くて選べなかったんだよ」純増は嬉しそうに笑う。
「あっ、それね、中に盲腸手術してるコアラがいるから。それ見つけたらめちゃラッキーだって」
「もうちょう……?」「うん。お腹のとこに傷ある」
「へぇぇぇ!見たいです」「俺も昔見つけたことある。」
「えっ?すごいです!」「その日七万負けたけど。」
「……。」「あははっ!笑って〜……」
「何一つラッキーじゃありませんでしたね……。」
「いや、ラッキーだろ?七万負けの思い出が増えたんだから。あははっ!」
二人が笑いながら喋ってると、、
「ブルルルッ。」馬が後ろに首を伸ばしてきた。
「んっ?」ジュリナは馬を見る。
「カウホースも食べたいんですか?」
「……カウホース?」純増が思わず聞き返す。
「はい!」ジュリナは満面の笑みで頷いた。
「牛さんと馬さんなので、カウホースさんですっ♡」
「名前付けたの?」「付けました!」「早っ!」
ジュリナはコアラのマーチを数粒手に乗せる。
「はい。あーん。」カウホースは器用に口を伸ばし、、
ぱくっ。もぐもぐ。そして➖➖ニカッ。
前歯をむき出しにして笑った。
「おいおい!馬ってコアラのマーチ食うのかよ!」純増は思わず吹き出す。
「純増様!カウホースさん、コアラさん気に入ってるみたいです♡」ジュリナは嬉しそうに頭を撫でる。
「おぉ、本当だ。」「よしよし。可愛いですねぇ〜。」カウホースも嬉しそうに鼻を鳴らした。
そんなほっこりした様子を見ていた山賊達は、小さく顔を見合わせる。
(……警戒心ゼロなのか。いや、よほど自信があるのか……どっちにしろ村に着くまでだ。せいぜい今のうちに笑ってろ……。)そう思った、その瞬間だった。
ガシッ。「ひぃぃぃぃっ!?」
一人の山賊が髪を掴まれた。
「な、何ですかぁぁ!?」
ジュリナが怖い顔でにっこり笑っている。
「いえ。」黒炎がふわりと揺れる。
「なんだか、お顔がムカついたので。」
「理不尽っ!?」「取りあえず殴りますねっ☆」
「何で!?いやぁぁぁぁ!!」
拳を振り上げた、その時。
「ジュリナ。無闇に暴力振るったらダメだよ。」
純増が苦笑しながら止めた。
「ですが……」
純増は煙草に火を付ける。
一口、肺奥まで吸って、吐きながら遠くを見つめた。
「俺も若い頃さ、力任せに台パンしたことあるんだ。」「台……パン?」
「うん。」また深く吸い込み、煙をゆっくり吐く。
「でもさ、残ったのは、拳に残る痛みと切なさと……」
哀愁漂う渋い顔で間を開ける。
「心強さだけだった。」
「最後だけ意味分かりません。」
「うん。俺も。」純増は真顔で頷いた。
「今言ってて思った。何で?って」
ジュリナは思わず笑ってしまう。
「ふふっ。」「だから無駄な暴力はダメ。」
「……はい♡分かりました」
ジュリナは素直に山賊の髪を離した。
山賊は涙目で地面へ崩れ落ちる。
「ひぃぃぃ!た、助かったぁ……。」
◇◇◇
そのまましばらく進むと、、
ぽつ。ぽつぽつ。と雨が降り始めた。
「おっと。降ってきたな。」純増が空を見上げる。
黒い雲が山の上を覆っていく。
「急ぎやしょう!」山賊達が駆け出した。
「村はもうすぐです!」
「よーし!カウホースさん。もう少し頑張って!」
ジュリナが優しく声を掛ける。カウホースも元気よく駆け出した。
◇◇◇
やがて山奥に、小さな明かりが見えてきた。
「見えた!」粗末な柵に囲まれた、小さな山賊村だった。
村へ入ると山賊の一人が振り返る。
「へへ……。」どこかぎこちない笑顔だった。
「ここで、ちょっと待っててくだせぇ。」
そう言うと山賊達は奥へ走っていった。
二人は軒先で雨宿りをする。静かな時間が流れた。
「ん〜……。」純増が煙草をくわえる。
「ジュリナ。」「はい?」
「漫画とか読んだことある?」「漫画はありません。」ジュリナは首を振る。
「でも、絵本ならぼろぼろになるまで読みましたよ。赤ずきんさんが一番好きでした♡」
「ふふ。可愛いなぁ。」純増は笑う。
「えへへ♡」ジュリナも照れながら笑う。
「そっか、じゃあ、今の状況を赤ずきんちゃんで例えようと思ったけど。やっぱスロットで例えるね。」
「えっ?」「めっちゃ連チャンすると、その後……めっちゃハマる。」
「…………。」ジュリナは首を傾げた。
「赤ずきんさんで例える流れじゃないんですか?」
「やっぱそこ気になっちゃう感じ?」
「はい。とても…」
「そっか…でも、俺はスロットでしか例えられない人間だ…そう、俺はそういう人間だ…」
純増は煙草を持ったまま、村の奥を指差した。
「すなわち、たぶん、こういうこと。」
「え?」ジュリナが視線を向ける。
暗い雨の向こうから、、ズシン。ズシン。ズシン。
重い足音が近付いてくる。先頭には、大柄な男。
その後ろには、武器を構えた山賊達が一直線に並んでいた。
純増は苦笑する。
「ほら、あいつら、やってんなぁ。」
ジュリナも苦笑した。
「歓迎会のお出迎え……でしょうか?」
「あはは。」純増は肩をすくめる。
「そうだったら嬉しいんだけどね。」
そう言いながら、純増はゆっくりとホールソードへ近付いた。ジュリナも静かに剣を握り黒炎を纏い始める。雨音だけが、二人の間を静かに流れていた。
続
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