第36話 【熱っつい時ほど押せないってばよ】
ホールでは純増が幸せそうにリールを回し続けていた。カコン。カコン。カコン。
「はぁぁぁ……幸せってこの瞬間なんだろうなぁ…。」
その頃、外では、ドゴッ!!「うんぎゃぁぁぁ!!」ジュリナが笑顔で山賊を殴っていた。
◇◇◇
カコン。ポチ。ポチ。挟み打ちの第二消灯。
ピタッ。純増の打つ手が止まる。
「……あっつ…」小さく呟く。
店員が首を傾げた。「お客様?」
純増はゆっくりリールを見つめる。
「おいおい……。」ニヤリ。
「あっちぃぃぃぃぃ!!」店内へ叫び声が響いた。
「挟み打ち、第二消灯、ベル、氷絵柄否定……なら?」両手を震わせる。
「あっちぃぃぃぃぢぢぢ!!」
リールを見つめたまま身体を左右に揺らす。
「押そうかな〜?」ニヤニヤ。押すフェイント。
「押さないかなぁ〜?」ニヤニヤ。腕組み。
「あぁぁぁ!!火傷しそうで押せねぇよぉぉぉ!!」頭を抱える。
店員は額に手を当てる。
「うるせぇな!早く押せよっ!リーチ目変態!」
ホール中に響くツッコミ。数秒後➖➖
「……ごほん。失礼致しました。」ネクタイを整える。
純増はニヤリと笑った。
「へへへ、店員さんもこの出目に熱くなってるんじゃないの?このリール配置。好きな人と初ベッドインする時、相手が勝負パンツだった時ぐらい熱っいんじゃないの??」
「なってません。」「ふふふ、顔真っ赤。」
「照明です。」「嘘つけ。スケベ♡」
店員は小さくため息をついた。
(分かったから、早く押せよ!)
純増はゆっくり右手を掲げる。
「では……。」深呼吸。
「初リーチ目を願いまして……。」
核ボタンスイッチを押すような勢いで叫んだ。
「ちゅっ、どぉぉぉぉんっ!!」
中リールを狙い止める。ボーナス絵柄下段停止。
左。右。全て停止した瞬間、全子役否定。ボタンを捻り回して離す。
ピカァァァァッ!!リールが眩しく輝いた。
「はいぃぃぃぃぃ!!」ガッツポーズ。
「ごっちゃんでふぅぅぅぅ!!」
すかさず一枚掛け。
とん。とん。どん。ビックボーナス。ビックボーナススタート音が鳴り響く。
「うぉぉぉぉぉ!!」純増は立ち上がった。
「素晴らしい!!」立ちながら一回転。
「上手い!!」座って一回転。
「鮮やか!!」また立って一回転。
「俺はスロット界のファンタジスタぁぁぁ!!」
店員は静かに呆れながら拍手した。
「はい。上手です。全部、ご自分で褒めてますね。」
「あははっ!この瞬間は褒められるべき男だからね。」
「あはは、そうですか。」
純増は満面の笑みでボーナスを消化していく。
◇◇◇
一方その頃➖➖
ジュリナの身体を温かな力が駆け抜けた。
「……あっ♡」ドクン。鼓動が高鳴る。
(純増様……。)身体中へ力が満ちていく。
(あぁぁぁぁぁ♡)虹色の刀身が揺らめき、黒炎がさらに激しく揺れた。
(純増様の優しさが……私の身体を駆け巡ります……。)頬が赤く染まる。
(何でしょう、この感覚……。)山賊を見つめる。
(全員皆殺しにしたくなっちゃう……。)
一瞬だけ赤い目が細くなり、笑みが深くなる。
(……ううん。)首を横へ振った。
(ダメよ、ジュリナ。)拳を握る。
(純増様の邪魔をしては……。)ゴンッ!!
「ぎゃぁぁぁ!!」
(貴女はずっと純増様のことを考えないで楽しんでしまったじゃない……。)
ドゴッ!!バキッ!!ゴッ!!
山賊の髪を掴み、そのまま耳の後ろへ拳を叩き込む。
「うぎゃああああぁぁ!!耳の後ろ嫌っ!耳の後ろ嫌っ!!」
「ま、待ってぇぇ!!」一人の山賊が泣きながら飛び出した。
「うわぁぁぁぁん!!」涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら叫ぶ。
「ごめんなさい。悪かったぁぁぁ!!俺たちが悪かったからぁぁぁ!!」
髪を掴まれてる仲間を指差す。
「そんなに殴ったら、そいつ挽肉になっちゃうよぉぉぉ!!だから許してやってください。見た目そんなだけど…いい奴なんすよっ!!」
数分後。山賊達は綺麗に正座していた。
誰一人立ち上がろうとしない。
ジュリナは首を傾げる。
「ん〜、あら……?」キョロキョロ見回す。
「もう向かってこないのですか?」少しだけ寂しそうな顔。
「私……もう少し山賊さんの血が飛び散るところ、見たかったのですが……。」
ジュリナは口が耳まで裂けそうなほど微笑んだ。
「ひぃっ……。」山賊達は一斉に青ざめた。
◇◇◇
一方その頃、ホールでは➖➖
「お客様。閉店時間です。」店員が近付く。
「ん?嘘でしょ?まだやめませんよ?まだ始まったばっかりだし…。あぁ、まさか、いっぱい出そうだから怖くなったんでしょ?まだ全然出そうだし!」
純増はリールから目を離さない。
「ですが。」店員は静かに頭を下げる。
「相手が戦意を喪失されました。戦闘終了となります。」
純増は首を横へ振る。
「いやだ。」「お客様。」
「絶対やめない。」「帰還してください。」
「ふんっ!知らない。」
「お客様!これはスロットを打つための剣ではありません。」
「へぇー?聞こえない。」レバーオンする。
「戦闘時に特殊効果を付与するための剣です。」
「関係ない!俺はずっとここにいたい。」
店員の眉がぴくりと動いた。
「……失礼します。」ガシッ。「えっ。」
店員が純増の襟首を掴む。
「おいっ!離せぇぇぇ!!やめろぉぉぉ!!服が伸びるぅぅ!!これ、何のTシャツか知ってんのか?ファミマの無地Tやぞっ!弁償だぞ!?」
ズルズルズル。その時だった。
苦し紛れのレバーオン。……トゥロン♪
純増の耳がピクリと動く。
「あっ!遅れたぁぁぁぁ!!おいっ!今、遅れたぞっ!」
必死に停止ボタンに手を伸ばす。
「この一回転だけぇぇぇ!!」「ダメです。」
「チェリー否定だけ見せてぇぇぇ!!」「ダメです。」
「なら、閉店回転数チェックだけぇぇぇ!!」「ダメです。」
「んじゃ、あの台の設定だけ教えてぇぇぇ!!」「ダメです。」
「明日の抽選何人並ぶぅぅぅぅ!!」「ここは異世界VRホールです。」
「うわぁぁぁぁぁん!!」ゴンッ!!「痛っ!」
ゴンッ!!「やめて!手は出さないで!」
ゴンッ!!「ごめん、ごめんなさい!痛い!帰るから…殴らないで!」
店員は無表情のまま純増のポケットへ何かを突っ込んだ。
「んっ?爆弾か?爆弾入れたのか?」
「うるさいっ!端数のコアラのマーチと特殊景品です。」
「そこんとこ律儀ぃぃぃ!!」
そして、ドォォォンッ!!純増は店の外へ豪快に放り投げられた。
「うわぁぁぁ!!後でチェリー否定したかだけ教えてぇぇぇ!!」
純増の叫び声とリールが自動停止した音だけがホールに響いた。そしてリールにはピタリとチェリーが止まっていた。
続
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