第33話 【二択は慎重に】
町を出てしばらくすると、巫女音が立ち止まった。
「それじゃ、私はここまでね。またサボってたらゲンコツしに来るわ〜」手を翳すと空間がぐにゃりと歪み始める。
「あははっ!暇だなぁ〜。」
「このっ!暇じゃねぇって言ってんだろ!」
ポカリ。「いって〜!女神が手出すなっ!」
純増の頭に軽い拳骨が落ちる。
「あっ!女神様!純増様を叩いちゃダメです!」
ジュリナが慌てて純増をかばう。
「だからこいつを甘やかすなって!」「えへへ。」
「いや、何で照れてんの!?」
三人は笑い合う。
巫女音は小さく息を吐くと、少しだけ優しい顔になった。
「……まぁ、気を付けなさいよ。」
「は〜い」「純増様と一緒なら大丈夫です!」
「いや、一番心配なのは純増なんだけど……。」
最後までツッコミを残し、巫女音は光の粒となって姿を消した。
「……帰ったか。」「少し寂しいですね。」
「だなぁ。でも居るとうるさいからなぁ…実家の母ちゃんみたい…」「ぷっ!」「「あははっ!」」
そう言いながら馬車はゆっくりと街道を進み始めた。
◇◇◇
心地よい風が頬を撫でる。
青い空。鳥のさえずり。どこまでも続く草原。
「純増様。風が気持ちいいですね〜。」
「うん。そうだねぇ〜。」タバコをふかしながら空を見上げる。(あぁ……スロット打ちてぇな。)
風情も景色も全部吹き飛ぶ本音だった。
「純増様?」「んっ?いや、何でもない。」
「ふふっ。」ジュリナは嬉しそうに手綱を握る。
牛柄の馬もご機嫌に鼻を鳴らした。
しばらく他愛ない話をしながら進むと、道が二つに分かれていた。
「純増様。これ……どちらでしょうか?」
「う〜ん……分かれ道か…」純増は腕を組み悩む。
老人は確か『真っ直ぐ行け。』と言っていた。
しかし目の前には左右へ伸びる二本の道しかない。
「……なるほど…あのじじぃ、俺を試しやがったな…」純増は真剣な顔になる。
「二択勝負ってことね。」「え?勝負?」
「オッケー。」ビシッ!「ジュリナ!左だ!」
「はいっ!分かりました」
ジュリナは迷いなく左へ馬を走らせた。
➖➖しかし、この選択が後に大騒動へ発展することを、二人はまだ知らなかった。
◇◇◇
しばらく進むと、ガサガサッ!!突然、茂みが揺れる。
「ヒャッハーー!!」三人の男が飛び出してきた。
「死にたくなかったら荷物置いていきなぁ!!」
ボロボロの服。モヒカン。肩にはトゲ。完全に世紀末だった。
「純増様。山賊です。」
「おぉ〜。」純増は男達を眺める。
「あははっ!世紀末みたいな山賊だなぁ。」
黄色の服。青の服。緑の服。
(ベル、リプレイ、スイカ……。あはは、高確ならいいなぁ…よし、何はともあれ戦闘だ。ふぅ……やっとスロット打てる。)
すると、ジュリナが手綱を離し馬車から飛び降りた。
「純増様はそこでお待ちください♡」黒炎が足へ纏わりつく。
「え?ジュリナ?何するつもり…?」
ドンッ!!一人目が吹き飛ぶ。
バキィ!!二人目の顎が跳ね上がる。
最後の一人の髪を掴み、、
「ふふっ♡忘れられないお仕置きしてあげますね!」
笑みを浮かべながら耳の後ろへの拳。
ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!ドゴッ!拳が何度もめり込む。純増は思わず聞いた。
「ねぇ、ジュリナ。」「はい♡どうしましたか?」
「何でそこばっか殴るの?」
「はい!ここを執拗に攻めることにより、三半規管を破壊し、平衡感覚を失わせ、合わせて精神を、、」ジュリナは満面の笑みで答える。
「ストップストップ!!」純増が全力で止めた。
「言ってることが怖いよ!」「そうでしょうか?」
「もう泣いてる! 相手もう泣いてるから!」
山賊は涙目で首を縦に振っていた。
「もう終わり!」「純増様がそう仰るのでしたら……。」ジュリナは残念そうに拳を下ろす。
「私としては、もう少し教えてあげたかったのですが。」「何を!?」「✖️✖️✖️✖️」「やめてぇぇぇぇ」山賊達は地面へ涙目で崩れ落ちた。
◇◇◇
再び馬車は走り出す。
すると、「ヒャッハーー!!」また山賊が現れた。
「おっ!」純増の目が輝く。(今度こそ!!)
剣へ近付き、中に入ろうとした瞬間だった。
「純増様。」「ん?」
「危ないです。」ひょい。「え?」
ジュリナは純増をひょいっと抱え、そのまま馬車の座席へ戻した。
「そこに座っていてください♡純増様の手を煩わせるまでもないですっ!」
「えぇぇぇぇぇ!?」「行ってきます。」
ドゴォォン!!黒炎が舞う。
「ちょっ!剣使え!」バキッ!!
「俺の楽しみ!」」ゴンッ!!
「俺の脳汁ぅぅぅ!!」メキメキ!!
山賊達の悲鳴と純増の悲鳴が草原へ響き渡るのだった。
続
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