第32話 【宵越しの金ほどシャバいもんはない】
その夜、宿の一室では祝勝会が開かれていた。
テーブルいっぱいに料理と酒が並び、純増は上機嫌でジョッキを掲げる。
「いやぁ〜! まさかあの台にジュリナぷるるんアタックでとどめ刺すとはね〜!」
「純増様!もうっ!私の胸にそんな変な名前付けないでください!」ジュリナは頬を赤く膨らませる。
「あれは純増様を助けるために必死で……。」
「いや、あれは歴史に残るレバーオン…いや、レバーパイ…レバーチチ…」「もうっ!女神様まで!?」
「いやっ!今はそんな話はいいんだっ!!」
バンッ!!巫女音が勢いよく机を叩いた。
「お前ら!明日行くんだろっ!!」
「いきなり大きい声出すなよ…ビクッとすんだろ。大きい音出していいのはジャグラーだけなの!それにまだピキッてんのかよ!?」
「当たり前でしょ!一ヶ月も同じ町にいたんだから!話し進まないだろっ!」
「メタい!女神が一番メタい!取りあえず飲め飲め!」
純増がジョッキを差し出すと、巫女音は「もう……」とぼやきながら受け取り、一気に飲み干した。
「ぷはぁ……。」「ほら、機嫌直った。」「直ってない。」三人は顔を見合わせ、思わず笑った。
和やかな空気の中、ジュリナがおずおずと口を開く。
「純増様。もし旅に出るのでしたら……馬車を買った方が楽だと思うのですが。」
「ん? あ〜……俺、馬乗れないよ。」
「私が乗れますので大丈夫ですよ。」
「じゃあ明日買いに行こうか。」「はいっ♡」
その時だった。
「あ、そうだ。」
純増は何か思い出したように、金貨の入った袋をジュリナへ差し出した。
「ふぇっ!? 何ですか?」
「ん〜……俺あんま金に興味ないんだよね。余裕あるとレバーオンがヒリつかないっていうか…脳汁ブッシャーしないっていうか…。まぁ、宵越しのこんな大金はシャバい!だからいらない!」
ジュリナは首を傾げる。
「え?」「はい、全部あげる。好きに使って☆」
「い、いけません!これは純増様が勝ち取ったお金です!」
「いや、いいって!結局ジュリナのおっぱいレバーオンにあの台は興奮しちゃってんだから」「ですが!」
「いいの、いいの。スロット打てるくらい残ってりゃ俺は十分。」「十分じゃありません!」
二人は袋を押し付け合う。
「受け取って。」「受け取れません!」
「お願い。」「お願いされても困ります!」
「受け取って。」「ですから!」
まるで恋人同士の押し問答である。
巫女音は酒を飲みながら呟いた。
「……イチャイチャしたいだけじゃん。」
やがてジュリナが折れ、小さく袋を抱きしめた。
「わかりました。でしたら、あの……旅に必要な物を買って、それでも残ったら……この町のために使ってもいいですか?」
純増は優しく笑う。
「おぉ、そうだね。どうせこの町から貰った泡銭だからね〜。激しく同意します!」
「ありがとうございます!」
巫女音は頬を赤く染めながら椅子にもたれた。
「ふぅ〜……何とか出発できそうですね……。手のかかる異世界転移だこと……。」
◇◇◇
翌朝。三人は宿屋の店主へ別れを告げる。
ジュリナが袋から金貨数枚を出す。
「ダークエルフなのに、嫌な顔せずずっと泊めて頂きありがとうございました」
「……いらないよ…」「いいえ、受け取ってください」「……ありがとう。悪かったね、最初嫌な顔しちゃって…。またいつでも来てよ!」
「はいっ!また来ます!」三人は笑顔で外に出る。
◇◇◇
そして次は町の馬車屋向かうと、ジュリナの目が一瞬で輝いた。
「純増様っ!!」「ん?」
「私、この馬さんがいいですっ!」
そこにいたのは、白黒のまだら模様。どう見ても牛柄だった。
「……牛柄の馬。」「はい。かわいいですっ♡」
純増は馬とジュリナを交互に見比べる。
「これ……牛じゃなくて馬でいいんだよね?」
店主が即答した。
「はい、馬です。」「……馬ね…ならいいか。」
「純増様。ありがとうございます!よしよし可愛いね〜」
ジュリナに撫でられ、牛柄の馬は嬉しそうに鼻を鳴らし、車を引き出した。
◇◇◇
続いてギルドへ旅立つことを伝える。
「おう!もう旅立つのか!」「次はもっと派手に暴れてこいよ!」「また酒飲もうぜ!」「その時は俺のおごり!」笑い声がギルド中へ響いた。
すると受付カウンターから呼ぶ声がする。
「純増、ギルドカード貸しな!」「んっ?いいけど…」カードを渡す。スタンプが押される。
「何これ?イッカク?」カードを見るとそこにはイッカク認定の文字。
「おいおい、この町の名前知らなかったのかよ!この町認定のギルド会員ってこと…いつでも帰ってこいよ…」「はは、ありがとう。」
ジュリナがカウンターに袋を置く。
「みんなで美味しい物でも食べてください」
中身を確認するとギルド中が歓喜した。
◇◇◇
さらに薬草の子供の元に向かう。
「あっ! お兄ちゃん!」あの少年が元気いっぱい駆け寄ってきた。その後ろには、以前寝込んでいた祖母が立っている。
「この子から聞きました。本当にありがとうございました。」
「いやいや、元気になって良かった。」
「うん!お兄ちゃんの薬草のおかげで、おばあちゃんもう歩けるんだ!」
純増は照れ臭そうに頭をかいた。
「そりゃ何よりだ。」その横でジュリナが袋を手渡す。
「美味しい物でも食べてください」
「ふぇっ!こんなにぃ!」「ありがとう。お姉ちゃん!」
◇◇◇
最後に奴隷商会を訪れる。店員はジュリナを見るなり穏やかに笑った。
「ふふ、いい顔してんな…。良かったな……いい主人に買ってもらえて。」
ジュリナは深々と頭を下げる。
「今までお世話になりました。」そして満面の笑みを浮かべた。
「はいっ! 今はとっても幸せですっ☆これ、お店のみんなで美味しい物でも食べてください」袋を手渡す。
受け取った店員は静かに目を細めた。
「そうか……。ありがとうな…みんな喜ぶよ」
その隣で純増がそっと耳打ちする。
「前言ってた……ジュリナの感想のことなんだけどね、」「はい?」
「ふわふわ、とろとろ、ジューシー……もう最高☆」
聞いた店員は肩を震わせた。
「えっ!? ……なんかずるい。」「だろ?」
二人は吹き出して笑う。
「?」ジュリナだけが首を傾げていた。
店員が店の中に戻る。店の女性が声をかける。
「あの子行っちゃったね…」
「……あぁ、肩の荷が下りた気がするよ…。“爺さんの遺言”だからな…」とぽつり。
◇◇◇
町の出口に行くと、メダルをくれた老人が腕を組んで待っていた。
「おぉ、噂は本当じゃったか!?やっぱり外へ行くのか?」「うん。」
老人は道の先を指差す。
「この道を真っ直ぐ行け。少し大きな町がある。」
「へぇ〜スロットある?」
「知るかっ!年寄りの話しは最後までちゃんと聞けっ!その町の武器屋の親父を訪ねろ。指輪の話を知っているかもしれん。」
「スロットないのかぁ…。まっ、行ってみるよ。ありがとう!」
その時だった。
「純増ー!ジュリナー!」「元気でなー!」「また遊び来いよー!」いつの間にか町の人々が集まっていた。
宿屋の店主。ギルドの受付。冒険者たち。祖母と少年。奴隷商会の店員。皆が笑顔で手を振っている。
純増は町を見渡し、小さく笑った。
「ははは……ジュリナ。ここいい町だな〜」
「はいっ!純増様に逢えましたから」
ジュリナも笑顔で頷く。
巫女音は肩をすくめた。
「私は実質、三日くらいしかいなかったけどね。」
「女神としては逆に居過ぎなんじゃないか?」
「あはは、確かに」三人は笑い合う。
ジュリナは牛柄の馬へ軽やかにまたがり、荷馬車の手綱を握る。純増はその後ろの席に飛び乗った。
「んじゃ!」大きく手を振る。
「みんな!またねぇぇぇぇぇ!!」
歓声に包まれながら馬車はゆっくりと走り出す。
新たな町へ。新たな出会いへ。
そして、王の指輪を探す旅は、ここから本当の始まりを迎えるのだった。
続
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