第30話 【日曜日カップルに女神がオコです】
ギルドを出る頃には、町はすっかり夜の顔になっていた。
酒場から漏れる笑い声。石畳を照らすランタン。
夜風が、ほんのり酒の香りを運んでくる。
「あははっ!ジュリナ。今日も楽しかったなぁ。」
純増は満足そうに伸びをした。
「はい。」ジュリナも嬉しそうに微笑む。
歩き始める。しばらく無言。
すると、自然に、二人の手が重なった。
どちらからともなく。まるで最初からそうするのが当たり前だったみたいに。
「……純増様。」「ん?」
「……いえ、何でもありません。」
「えぇ〜?気になるじゃん。」
「ふふふ、何でもないですぅ〜♡」
ジュリナは照れくさそうに笑う。
「絶対それ何か言いかけたやつじゃん。」
「絶対何でもないですぅ〜♡」
「「あははっ!」」
二人は笑いながら宿へ向かった。
◇◇◇
「こんばんはー。」宿へ入る。
受付の店主が笑顔で迎えてくれた。
「お帰りなさいませ。いつもご贔屓にありがとうございます。」
「いえいえ、こちらこそいつもありがとうございます。」
純増はショルダーバッグから袋を取り出す。
「あの、これ、お裾分け。」「これは……?」
「キノコッコです。」「……え?」
「珍しいやつみたいですよ。」
店主が袋を開く。
「お、おおおおおっ!!」顔が一気に明るくなる。
「ありがとうございます!!」
「遠慮しないで食べちゃってください。宿代の銀貨五枚ここ置いておきますね〜」宿代をカウンターに置いた。
「はい。 やった!今日は最高の日だ……。」
店主は何度も頭を下げていた。
◇◇◇
部屋へ入る。
「んんん〜〜っ!」純増は思い切り背伸びした。
「今日は疲れたなぁ。」肩を回す。
「さぁて、風呂でも入るかな。」脱衣所へ向かう。
すると、後ろから当然のようについてくるジュリナ。
「……ん?」「えっ?どうしました?」
「一緒に入るの?」
ジュリナは不思議そうな顔になる。
「えっ、はい。最初から一緒でしたよ?」
「いや……そうだけど、そうなんだけど…今は状況が違うと言うか…」純増が照れ笑いする。
ジュリナは首を傾げた。
「今日も私が洗いますね♡」
「いやいや、悪いよ、一人で洗えるから大丈夫だよ」
その一言で。ジュリナの肩が震えた。
「…………。」ぽろっ。ぽろぽろっ。溢れる涙。
「えっ?」「純増様…ひどいですぅ……もう私に飽きたんですね……。」ぽろぽろぽろっ。
「なぬっ!なんでそうなるっ!違う違う違う!!」
純増が慌てる。
「そうですよね…お金も入りましたし……安い私を面倒見てることもないですしね…。いつまでも座敷豚のように朝の起きれない私を、面倒見なくてもいいですもんね…あ、そうか、私を処分して、新しい奴隷を買うつもりなんですね……うわぁぁぁぁぁん!」
「ちょっと待てぇぇいっ!違うってぇぇぇ!!話聞いて!」純増は頭を抱えた。
「ほら、ジュリナだって今日疲れてるだろ?だから今日はゆっくり、、ジュリナは涙目のまま純増の目を見つめる。
「…………。」純増は数秒後、負けた。
「……分かった。お願いしてもいい?」
ぱぁぁぁっと。花が咲くような笑顔。
「はいっ!!もちろんです♡ジュリナにお任せください!」へそ下に書いてある“碼樽純増”の字をさすった。
◇◇◇
そして湯船からは、、
「あはははっ!ジュリナ、そこ、くすぐったいって!」
「ダメです♡我慢してください♡」
そんな笑い声がしばらく宿中へ響いていた。
◇◇◇
風呂上がり。二人でカフェラテを淹れる。
窓を開ける。夜風が気持ちいい。
純増は煙草へ火を付ける。ジュリナは、たべっ子どうぶつをカリカリ。
「ライオンさん。」カリッ。「ぞうさん。」カリッ。
「あははっ!ジュリナ、それ好きだよな。」
「はい♡純増様も食べますか?」
「じゃあ、一個ちょうだい」「はい。あーん♡」
そしてカフェラテを飲み、二人とも自然と笑顔になった。
◇◇◇
夜。
「純増様。」「ん?」
「今日、……一緒に寝てもいいですか?」
「あ、うん。いいよ」
純増が少し布団を広げ迎える。ジュリナが隣へ申し訳なさそうに潜り込んだ。少しだけ沈黙。
「純増様。」「はい」少し緊張する純増。
「……もう、“契約”はしないのですか?」
純増は一瞬だけ不思議がる。
「ん?契約?……あ、」
最初の夜。交わした契約を思い出す。
「え、……それもいいの?嫌じゃない?」
ジュリナは恥ずかしそうに笑った。
「……もちろんです♡全然嫌じゃありません♡」
ランプの灯りが静かに揺れる。
夜は静かに更けていった。
◇◇◇
そんなこんなの日々を暮らす。
軽い依頼を受け、レベルを上げ、お金を稼ぐ。
二人で美味しい料理を食べる。
ジュリナは戦うことを楽しみ、純増はVRホールでスロットを楽しむ。
すっかり町みんなとも仲良くなり、気さくに話しかけられる仲に。
そして夜になれば一緒に風呂へ入り、カフェラテを飲み、たべっ子どうぶつを半分こして、並んで眠る。
テューー♪ テテテテェ〜♪
『純増様、ジュリナ様。レベルアップ。レベル10になりました』
そんな穏やかな日々が続いた。
◇◇◇
一か月後➖➖
「ふあぁぁぁ……。」朝七時半。純増は静かに起きる。
ジュリナを起こさないようにベッドを出てカフェラテを淹れる。窓際の椅子に座り、煙草に火を付ける。
「ぷはぁ……沁みるなぁ〜」朝の一服。最高だった。
しばらくしてジュリナも起きた。
「純増様。おはようございます。今日もいっぱい寝かしてくれてありがとうございます」
「おはよう。カフェラテ作っといたよ☆」
純増が作ったカフェラテを受け取り、隣へ座る。
「今日は何の依頼にしましょうか?」
「ん〜。」純増は大きく伸びをする。
「今日はゴロゴロしたい。」
「そうですか。」ジュリナが純増の後ろへ回る。
「では。肩でもお揉みします♡」「ありがとう〜」
その時だった。目の前の空間が、ぐにゃりと歪んだ。
「ん?」純増が瞬きをする。
光の中から現れたのは➖➖
女神の巫女音だった。
「おぉ。巫女音、久しぶり。腹でも減った……」言いかけて止まる。
「なんか……めっちゃ怒ってない?」
女神が鬼の形相で震える。
「…………指輪。」小さな声。
「ん?何?どうした?」
そして、ついに堪えていたものが爆発した。
「お前らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!指輪探しに行けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」宿中が揺れた。
「何っ!日曜日のカップルみたいな生活してんだぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」
純増とジュリナはカフェラテを吹きそうになる。
こうして。幸せだった二人の一か月は、女神の怒号とともに終わりを告げた。
続
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