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第29話 【勝った日は美味いの食いたくなる】


 純増たちが町へ戻る頃には、すっかり日も落ちていた。石畳の通りには酒場の灯りが並び、賑やかな笑い声が夜風に乗って流れてくる。


「もう二十時くらいかな。」純増が夜空を見上げる。

「はい。夕飯時ですね。」

 ジュリナは隣を歩きながら、嬉しそうにたべっ子どうぶつを一匹ずつ大事そうに食べていた。

「ライオンさん、美味しいです♡」

「あははっ。まだ食べてたんだ。あんまり食べると夕飯食べれないぞ〜」


 二人は笑いながらギルドの扉を押した。


◇◇◇


 ➖➖ガヤガヤ。

 昼とは違う。酒と焼いた肉の香り。

 木製ジョッキがぶつかる音。

「飲め飲めぇぇぇ!」

「今日はいい仕事したから俺のおごりだ!」


 夜のギルドは、完全に酒場だった。

「相変わらずチェーン店の居酒屋テイストだなぁ……。」

 純増が苦笑しながら受付へ向かう。


 受付嬢が笑顔で迎えた。

「お帰りなさいませ、純増様。」

「あ、ただいま。薬草採ってきました。」

「ありがとうございます。それでは、、」


 その時だった。


「あっ!おじさん!」

 カウンターの横から、小さな男の子が走ってきた。

 しかし、純増の両手は空っぽだった。少年の笑顔が曇る。

「……薬草……採れなかったんですか……?」


「ん?」純増はきょとんとしてから、、

「あっ、ごめんごめん!」

 四次元ショルダーバッグへ腕を突っ込む。

 ゴソゴソ……ズボッ。

「はい、薬草。」カゴに山盛りの薬草が飛び出した。

「うわぁぁぁ!!」少年の瞳が一瞬で輝く。

「ありがとうございます!!」


「あ、それと。」純増はもう一つ袋を取り出した。

「これも。」「えっ?」袋いっぱいのお菓子。

「これは俺から。」少年は固まる。

「でも……」「あははっ。」純増は親指を立てた。

「全部食べなくてもいいぞ。口に合うやつだけ食べな。」

 少年は何度も何度も頭を下げた。

「ありがとうございます!!」


◇◇◇


「……ん?」その時だった。

 受付カウンターの奥にいた大男が鼻をひくひくさせる。

「……なんだ、この匂い。」もう一度深く吸う。

「めちゃくちゃいい匂いするぞ。」

 

 純増がバッグを見る。

「あぁ、そうそう。」

 バッグから切り口が焼き上がった真っ二つのキノコ魔獣を取り出した。

「今日、森で襲われて倒したんだけどさ…これ、食えるかなって思って持って帰ってきたんだ」


 ドン。カウンターの下に置いた瞬間。

 大男が椅子を蹴飛ばして立ち上がった。


「おいぃぃぃぃ!!」ギルド中が静まり返る。

「こ……これ……。」震える指でキノコを指差す。

「キノコッコじゃねぇかぁぁぁぁ!!しかも最高ランクまで育ってるぞぉぉぉ!!」


「「えぇぇぇぇ!?」」

 純増とジュリナが同時に声を上げた。


 ギルド中が一斉に集まる。

「嘘だろ!?」「キノコッコの最高ランク初めて見た!」「あぁぁぁ!香りだけで樽ビール三杯いける!!」「俺五杯!!」「酒持ってこい!!」


 もう完全にお祭り騒ぎだった。


◇◇◇


 三十分後。魔獣解体センターの職員たちが駆け込んできた。

「どいてください!最高ランクキノコッコ確認!」

 素早く測定が始まる。重さ、肉質、香り、魔力濃度。職員は資料を見比べながら計算を始める。

「……。」「……。」やがて顔を上げた。


「純増様。」「はい?」

「こちら買い取りでよろしいでしょうか?」

「え?買ってくれんの?」「はい。こちらとしては……。」資料を閉じる。

「売却可能部位だけで、金貨十五枚で買い取らせていただきたいのですが。」


「…………ふぇぇぇぇっ!?」純増が飛び上がる。

「じゅ、ジュリナ!?」「はい?」

「金貨十五枚だって!」「はい。そうみたいですね」

 ジュリナはカリカリと二袋目のたべっ子どうぶつを食べながら笑う。

「純増様がよろしいのでしたら、私は構いませんよ。」

「ほんと、じゃ、じゃあお願いします!」

「ありがとうございます。」職員は深く頭を下げた。

「残りはどうされますか?」「うーん。」


 純増は周囲を見る。酒を飲む冒険者たち。

 期待の眼差し。ジュリナを見る。ジュリナが微笑む。


「あはは……じゃあ、みんなで食べちゃう?」純増は笑った。


「「「うおおおおおおお!!」」」


 ギルド中が歓声に包まれた。


「でしたら!!私に調理させてください!」

 解体センター職員が勢いよく手を挙げる。

「え?あ、はい。任せます!」

「ありがとうございます!!必ず最高のキノコッコをお届けします!」職員は厨房へ急いで飛び込んだ。


◇◇◇


 巨大なフライパン。バターを豪快に溶かす。

 ジュワァァァァァ……。その中に大量のニンニク。

 そこへ厚切りのキノコッコ。さらにチーズ。

 最後に醤油をひと回し。


 その瞬間だった。「うわぁぁぁぁぁ……」

 ギルド中へ香りが広がる。

「じゅるり…こりゃぁ、反則だろ……。」

「腹減る……。」「酒ぇぇぇぇ!!」


◇◇◇


 完成した料理が次々にギルド内に運ばれる。

 みんなで一口食べる…、、


「…………うっっっっま!!!!」誰かが叫ぶ。

「泣ける……。」「こんなの初めて食った!」

「酒止まらねぇ!!」ギルド中が歓喜していた。


 純増も口へ運ぶ。

「………うんめぇぇぇ!何これ?」目を丸くする。

「キノコってこんな美味くなるの!?こんなんもうキノコの暴力じゃん!舌が旨味のサンドバッグだよ〜」


 ジュリナも幸せそうに笑う。

「ふぅぁぁぁぁ。純増様〜美味しすぎますね〜。あのキノコさん、こんなに美味しかったんですね♡」


◇◇◇


 もりもりとキノコッコを食べて、樽ビールを流し込んでると、純増はふと少年を見つけた。


「おーい。少年!」袋へキノコ料理を詰める。

「これ、持ってきなぁ〜」「え?」

「おばあちゃんにも食べさせてあげて。」


 少年の目に涙が浮かぶ。

「ありがとうございます!!薬草だけじゃなくご馳走まで…。本当にありがとうございます」

「あははっ!気にすんなって!俺が金無くなったら貸して〜あははっ!」「うふふ、純増様。私が払うから大丈夫ですよ☆」

 男の子は頭を下げ、大事そうに抱え夜の町へ駆け出していった。


◇◇◇


 食事が終わる頃➖➖

 一人の解体センター職員が純増へ近付いてきた。


「いやぁ……今回は下処理も完璧でしたね。ここまでのキノコッコは私も初めて食べましたよ」

「ん?下処理?」「はい。」職員は真面目な顔で説明する。


「まずキノコッコは、強く叩くことで歯応えが増します。ただ叩くだけではなく、瞬間的に力を加えなければいけません。硬くなりすぎるので。さらに、この世のものとは思えないほどの恐怖を与えることで、肉質が極限まで柔らかくなるんです。この下処理を出来るのは世界でも数名の一流食材ハンターぐらいです…」


「…………。」純増はゆっくりジュリナを見る。

 ジュリナもゆっくり純増を見る。

「……………ジュリナ?」「…………。」サッと目を逸らす。

「私……何も知りません♡」


 純増は思わず吹き出した。

「あははははっ!!いやっ、何かした人の反応じゃん!」

「してません!私は!キノコさんとあっち向いてホイしただけですぅ!」

 

 ギルド中に、また笑い声が響いた。



            続

読んで頂きありがとうございます。気が向いたらでいいのでブックマーク、評価、感想などよろしくお願いします。毎日0時30分更新予定です。

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