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第28話 【帰り道、手に残るメダルの匂い】


 ビッグボーナスを消化し終えた純増は、その後も百ゲームだけ回した。


 カコンッ。レバーを叩く。ハズレ。リーチ目の確認をする。「……よし。やめるか…」


 静かに立ち上がると、呼び出しボタンを押した。

 ほどなくしてホログラム店員が姿を現す。

「お呼びでしょうか、お客様。」


 純増は笑って両手で大きくバツを作る。

「すいません。もう終わりにします。」


「かしこまりました。」

 店員は一礼したあと、少しだけ言葉を選ぶように間を置いた。

「……一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか。」

「えっ? あ、はい。」

「なぜ、この台を選ばれたのですか?」


 店員は6台の筐体を見渡す。

「他にも優秀な台はございました。にもかかわらず、なぜその台だったのでしょう。」


 純増は少し考え、頭を掻いた。

「ん〜……。」困ったように笑う。

「特に理由ってないんですよね。」そして、照れ臭そうに続けた。

「強いて言うなら……。」自分が座っていた筐体を見る。「この台が、一番光って見えたんです。」


「……光って?」「はい。」


 子供みたいな笑顔になる。

「なんかさ、“俺、出たい!”“俺を回して”って言ってる気がしたんですよ。だから座りました。理由はそれだけです。」


 店員は数秒、純増を見つめていた。

「……そうですか。」小さく頭を下げる。

「教えていただき、ありがとうございました。」


 そして事務的な口調へ戻る。

「ちなみに、今回は全台の設定公開、および八千回転後のデータ閲覧も可能ですが、ご覧になりますか?」


「ん?いや、いいです」純増は首を横に振った。

「俺が回してませんから。」笑いながら肩を竦める。

「俺が打ち終わった後の結果って、あんまり興味ないんですよ。あははっ。」


「かしこまりました。」店員は静かに頷いた。

(……ふふ。あの人みたいなこと言って。……懐かしいですね。)誰にも聞こえないほど小さく呟いた。

 

 そして営業スマイルへ戻る。

「では、景品交換へ移らせていただきます。」


 純増は思い出したように口を開く。

「あっ、たぶん三千枚超えてると思うんですけど…三千枚だけ交換して、残りはカフェラテ二つとたべっ子どうぶつ一つは絶対……あと残り全部、子供が食べそうなお菓子でお願いします。」


 店員は一瞬だけ瞬きをした。

「……可能です。少々お待ちください。」


◇◇◇


 数分後。大きな袋いっぱいのお菓子。

 カフェラテが二本。たべっ子どうぶつ。

 そして交換した特殊景品がカウンターへ並んだ。


「お待たせしました。」

「おぉ!ありがとうございます!」

 純増は嬉しそうに受け取り、袋を肩へ担ぐ。


 出口へ向かう。自動ドアの前で店員が深々と頭を下げた。

「本日もご来店ありがとうございました。またのお越しを心よりお待ちしております。」


 純増は手をひらひら振る。

「は〜い!また来ます!」

 純増の体を光が身体を包み込んだ。


◇◇◇


 森。ホールソードから純増が姿を現す。

「ジュリナ〜。たっだいまぁ〜!」


 ジュリナが嬉しそうに頭を下げた。

「純増様、お帰りなさい♡」

「ほら!」純増が早速袋を漁る。

「ジュリナの大好きな戦利品。」

 カフェラテと、たべっ子どうぶつを差し出した。


「わぁぁ……!」ジュリナの顔がぱっと明るくなる。

「覚えててくれたんですね〜。ありがとうございます♪早速食べてもいいですか?」


「もちろん。」


 ジュリナは箱を開ける。

 カリッ。カリカリ。

「とってもおいしいです……♡」

 幸せそうに頬を緩める姿を見て、純増も自然と笑顔になる。


「純増様?」ジュリナがたべっこ動物をカリカリしながら純増の持ってる袋を見る。


「その大きな袋は何ですか?」

「あぁ、これ?お菓子。」袋を軽く持ち上げる。

「薬草を頼んでた、あの子にあげようかなって。きっと喜ぶと思って。あっ、ごめん。勝手に交換しちゃって…ノリ打ちは半分が原則なのに…」


 ジュリナは優しく微笑んだ。

「ふふ、こんな私にも気をかけて、周りの人たちにも気をかけて…。やっぱり純増様は、お優しい方ですね」

「いやいや、そんな…。ありがとう」照れ隠しに頭を掻く。


 その時だった。ふわり。香ばしい匂いが風に乗って漂ってくる。

「……ん?なんか、すごくいい匂いしない?」純増が鼻をひくつかせる。


 ジュリナが少しだけ照れながら指を差した。

「あれです。」真っ二つになったキノコ魔獣。

 こんがりと焼き色が付いている。


「おぉ……。」純増が目を輝かせる。

「焼きキノコになってんじゃん。これ持って帰ったら、また何か料理してくれるかな?」

「うふふ、価値はありそうですね。捨てるにはもったいないです。」ジュリナも頷いた。


 純増は四次元ショルダーバッグを開ける。

 焼きキノコ。薬草の入った籠。順番に丁寧に詰め込んだ。


 荷物はずいぶん多いが、このバックのおかげで重さは感じない。そして、不思議と気分も軽い。


◇◇◇


 二人は並んでカフェラテを飲む。ゴクッ。一口。

「はぁ〜……。」純増は満足そうに息を吐いた。

 煙草に火を点ける。ゆっくり煙を吐き出しながら笑う。


「ジュリナ。」「はい?」

「今日もお疲れ様☆いっぱい戦ってくれてありがとうね」

 ジュリナは少しだけ目を細めた。

「……はいっ♡純増様もお疲れ様でした☆いっぱい強化していただきジュリナは幸せです♡」

「あははっ!帰ろっか?」「はい!」

 二人は肩を並べて歩き出す。


 夕暮れの森を抜ける風は心地良く、オレンジ色の木漏れ日が足元へ長い影を落としていた。


 薬草も、お菓子も、焼きキノコも。手に残るメダルの匂いも。


 たくさんの戦利品を抱えながら、二人の足取りは軽い。まるで楽しかった一日のデートを終えた帰り道のように。笑い合いながら、二人はゆっくりと町への道を歩いていった。



            続

読んで頂きありがとうございます。気が向いたらでいいのでブックマーク、評価、感想などよろしくお願いします。毎日0時30分更新予定です。

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