第3話 【ステージチェンジ】
頬を撫でる風が心地いい。碼樽純増は大きく息を吸い込み、ポケットからタバコを一本取り出した。
カチッ。ライターの火が先端を赤く染める。
「ふぅーー〜……」紫煙が青空へ溶けていく。
「空気、美味ぇなぁ」見上げれば、どこまでも澄み渡る空。遠くには見たこともない山々が連なり、鳥の鳴き声が響いている。
「何でだろうなぁ…」純増は煙を吐きながら笑った。
「いい景色を見ると吸いたくなる」一拍置いて、さらに呟く。「あと、大当たりのあともな…」
吸い終えたタバコを携帯灰皿へしまう。
「どこでもポイ捨てはダメだろ…ヤニカスって言われるからな…」それだけは昔から決めていた。
辺りを見回す。「さて…ホールでも探すか?いや、寝るところか?……でも、やっぱホールだよなぁ…」
一本の道を見つけ、剣を腰に巻き、歩き始める。
◇◇◇
しばらく歩くと、大きな石造りの門が見えてきた。「おぉ……あった!町だ」門の両脇には槍を持った門番が立っている。純増が何事もなく通ろうとすると、一人の門番が手を上げた。
「失礼します。身分証をお願いします。」「おっ?」
純増は辺りを見回した。
「もしかして、抽選ですか?」「……はい?」
「今日、イベント?何人並んでるんです?」「並ぶ……?」
「整理券とか配ってます?」「………」
門番は隣の門番と顔を見合わせた。
「申し訳ありません。何のお話でしょうか。」
「えっ? 違うの?」純増は首を傾げる。
「身分証ってことは、入場抽選でしょ?」「違います」「一般入場しかない?」「違います」「じゃあ先着順?」「だから違います!!」門番は思わず声を荒げた。
「失礼。この町へ入るための身分証です!」「あっ、そっちか…」純増はポリポリと頭をかいた。
「いやぁ、ホールの入場かと思って。」「……ほーる?」「いや、こっちの話…なんかあったかな?」
ポケットをごそごそ探る。
「パチ屋の会員カードじゃダメだよなぁ。」
財布、小銭、レシート、ライター。携帯灰皿。その奥で、指先に一枚のカードが触れた。
「……あれ?何だこれ?」見覚えのない銀色のカード。「これで大丈夫ですか?」
門番はカードを受け取り、しばらく眺める。すると表情を変えずに頷いた。
「確認しました。問題ありません。お通りください」
「あっ、ありがとうございます。」
門をくぐりながら、純増はカードを裏返したり表にしたり眺める。
「……こんなの、いつ作ったっけ」
◇◇◇
道を歩く純増。市場的な店や、店舗型の店もある。
「あのー」通りすがりの男性へ声をかける。
「今、何時ですか?」「……あぁ、8時半になるところだな…」「えっ?もうオープンしちゃうじゃん!この地域は9時オープン?10時オープン?」
男性は不思議そうな顔をした。
「ごめんなさいね、あなたが何を仰っているのか分かりません」そのまま足早に去っていく。
「えぇ……。」純増はぽつりと呟いた。
「オープンって概念ねぇのか?」少し考える。「それじゃぁ……抽選、並べねぇじゃん。」
異世界は不便だ。そんなことを考えながら歩いていると。
ざわ……ざわざわ……人の熱気。歓声。笑い声。
心をざわつかせる音が耳へ飛び込んできた。
純増の口元がゆっくりと吊り上がる。
「おほっ!……随分と脳みそ蕩けそうな音させてくれてんじゃないの!」確かめるより先に、足が動いていた、音のする建物へ。まるで魂が吸い寄せられるように。
続
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