第25話 【設定だけじゃ見れない景色】
ボーナスを消化し終わる。純増はすぐに液晶へ向かって声を掛けた。
「ジュリナ!」『はいっ!』
「倒せそうなら、そのまま全部倒しちゃっていいぞ!」
ジュリナは嬉しそうに頷く。
『はい。分かりました、純増様!』
ホールソードを握り直し、一気に踏み込む➖➖
その時だった。倒れたキノコ魔獣へ、残る三体が一斉に群がる。
「……え?」ボリッ。バリッ。ズズズッ➖➖➖
三体は仲間だったはずのキノコを、ためらいなく食べ始めた。その身体が、みるみる膨れ上がる。
傘は一回り大きくなり、腕は太く、足は岩のように逞しく変化していく。
『なっ……!』ジュリナが斬り掛かる。
ボヨヨヨン!!またしても刃が弾かれた。
『純増様……。』少し困ったような声が響く。
『キノコさん……キノコさんを食べて、もっと大きくなっちゃいました……。』
「えぇっ!?」液晶を覗き込む。
「うわっ……。」確かにさっきより一回り大きい。
「キノコ食ってデカくなるってマ○オかよっ!」
思わずツッコミが漏れる。だが笑っている場合じゃない。
「ジュリナ!」『はい!』
「また引く! それまで持ち堪えて!」『はいっ!』
ジュリナは剣を構え直し、大きく頷いた。
◇◇◇
純増は再びレバーを叩く。
ベル。リプレイ。レア役。ボーナス。
だが回すだけ、どんどんと飲まれていく。
決定打になるボーナスが続かない。
「くそっ……毎回これじゃん。連チャンしない限り決定的にならねぇぞ…」
その時だった。ホール内へ軽快な音楽が流れる。
『ピンポンパンポーン♪店員チャーーンス!!』
「きたきた!待ってましたっ!」純増が立ち上がる。
ホログラム店員が現れる。
「お客様。今回の店員チャンスはこちらになります。」指を鳴らす。二つの選択肢が空中へ表示された。
【一台だけ設定を見る】
【全六台・三千回転後のデータを見る】
「……。」純増は腕を組む。
「一台だけ設定を見る……。」そしてもう一つを見る。「三千回転後……。」休憩ボタンを押す。時間が止まる。
◇◇◇
(設定が一台分かれば……その台が高設定なら打つ。低設定なら捨てる。単純だ。しかし、それで残り五台を試す時間は無い。残りライフ、500…。いや、店員チャンス中にも戦闘は続いている。だったら……。)純増は静かに顔を上げた。
「三千回転後をお願いします。」
「かしこまりました。」
次の瞬間。六台すべてのデータが空中へ並んだ。
グラフ。合算。ボーナス履歴。
「……。」一台ずつ見ていく。
「これは……。」右肩下がり。
「これも。」モミモミして伸びてない。
「これは……。」大ハマり連発。
そして、、「いた。」
合算110分の1。綺麗な右肩上がり。
「うん。これだな。」自然と足が向く。
しかし。途中で止まった。
(……待て。)もう一度グラフを見る。
(これは、俺が回した三千回転じゃない。誰かが回したであろう三千回転だ。)
静かに目を閉じる。
(もし、このグラフが今日一番の頂点だったら……ここから下がるだけかもしれない。)
ふっと笑う。視線を、自分がさっきまで座っていた台へ向ける。
合算200分の1。誰が見ても弱い。ホールにあっても誰も座ろうとしない。設定も期待できない。
純増は筐体へそっと手を置いた。
「……でもさ。」優しく撫でる。
「最初に俺へ笑ってくれたのは、お前だったよな。」
胸の奥が少しだけ熱くなる。
◇◇◇
「お客様。休憩終了のお時間です。」店員が静かに告げる。
「はい。」純増は微笑んで頷いた。そして、迷わず元の席へ座る。
「こちらでよろしいのですか?」
「はい。たぶん、みんなと見たい景色が違うので。」
店員が少し首を傾げた。
「見たい景色……ですか?」
純増はレバーへ手を置く。
「ふふ、設定の先です。」少し笑う。
「この台と俺にしか見えない景色が、きっとある。」
カチッ。休憩ボタンを解除する。時間が動き始めた。
◇◇◇
液晶へ向かって声を掛ける。
「ジュリナ。」『はいっ!』
「……ごめん。俺、たぶん馬鹿なことしたかもしれない。あはは、もし失敗したら一緒に逃げよう。」
ジュリナは一瞬だけ目を丸くした。
そして、花が咲くように微笑んだ。
『はいっ!“一緒に”って言ってもらえて、とっても幸せです♡』剣を構える。
『だから大丈夫です。私は純増様を信じています。』
その言葉と同時に。「えいっ!!」
ドゴォォン!!キノコ魔獣を思い切り蹴り飛ばした。
「ギィィィィッ!?」魔獣が地面を転がる。
『斬れなければ…蹴ります!』
「あははっ!ジュリナ。俺、その戦い方好きだわ!」
笑いながらレバーを叩く。
「よし!今度は、俺の番だ。」
カコンッ!リールが勢いよく回り始めた。
続
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