第23話 【6が入ってる。それだけで安心する】
四体のキノコの魔獣が、じわりじわりと距離を詰めてくる。丸い傘。尖った目。細い手足。口元だけが不気味に吊り上がっていた。
ジュリナは静かに腰のホールソードへ手を添える。
➖➖シャリン。澄んだ音と共に虹色の剣が抜かれた。
「純増様。お願いします!」
ジュリナは前を見据えたまま小さく呼ぶ。
純増は笑って頷く。
「おぉ。こちらこそよろしくお願いします。危なくなったら逃げて。無理だけはしないでね。」
そして親指を立てた。「じゃ、行ってきます!」
純増の身体が淡い光となり、ホールソードへ吸い込まれていく。光が消え、森にはジュリナだけが残った。
「……はい。」小さく微笑む。
(私を気に掛けてくれる…本当に、お優しい方)
そしてゆっくりと魔獣へ剣を向ける。
「ふぅ……。」さっきまでの柔らかな笑顔が消える。代わりに浮かんだのは、美しくもどこか狂気を帯びた笑みだった。
「せっかく純増様との楽しい時間だったのに。台無しにしてくれましたね…」
キノコたちを見つめ、一歩踏み出す。
「キノコの化け物さん。切り刻んで……菌に戻してあげますね。……ふふっ。」口元が怪しく歪む。
◇◇◇
眩い光。次の瞬間。純増はいつものホールへ降り立った。静かに目を閉じる。
どこからか聞こえるリールの回転音。メダルが触れ合う乾いた音。電子音。独特の空気。鼻いっぱいに吸い込む。
「すぅぅぅぅぅ……。」そして大きく息を吐いた。
「たっだいまぁぁぁぁ!!」両手を広げる。
「もうさぁ!ここ来ると、お母さんのお腹の中思い出すよね!」
嬉しそうに辺りを見渡し、誰も聞いていないのに語り始める。
「この音!この空気!この安心感!」大きく頷いた。
「もうここって、母体って呼んでいいでしょう!!」
「…………。」数秒の沈黙。
「……うるせぇよ。」冷たい声が飛んできた。
「早く席付けよ!」ホログラム店員が腕を組み、じっと睨んでいる。「私に仕事させろ。」
「ひぃっ!機嫌悪っ!」純増は肩を震わせた。
「悪くありません。今、お客様に悪くさせられたんです。」
「ご、ごめんなさい……。」
「そろそろ今回の説明を始めてもよろしいでしょうか。」「あ、はい。お願いします」
店員が指を鳴らす。すると島の奥から六台の筐体がゆっくり姿を現した。
「おぉ?」純増が目を丸くする。
「んっ?全部同じ台……?」
一台。二台。三台➖➖➖「全部で六台?」
店員は淡々と説明を始めた。
「前回は初来店記念でしたので、指定台をご用意しました。ですが、毎回それではお客様のレベルも”引き”も成長しません。そのため、本日より仕様を変更します。」
六台を指差す。「設定1から設定6まで。全てご用意しております。」
純増はニヤリと笑った。
「なるほどね。設定を見極めろってことか。」
「理解が早くて助かります。引きだけで勝っても構いません。設定を看破して勝っても構いません。全ては、お客様次第です。」
「りょ〜かい。」純増は肩を回す。
「いつも通りってことね。あっ、6が入ってるって分かってるだけで随分と心が楽だけどね…」
◇◇◇
一台目。二台目。三台目。純増は一台ずつ手をかざす。
(ふぅ……。これで設定が分かれば苦労しないんだけどな…でも、なぜか毎回やっちゃうんだよなぁ。)苦笑する。
(さてと、どう動く?一台全ツッパ?……いや、負けて帰ってカップ麺食うだけなら、それでもいい。)
ゆっくり六台を見る。
(でも、今は違う。)静かに息を吐く。
(俺が負けたら、俺も死ぬしジュリナも死ぬ。)
ホールの空気が少しだけ重く感じた。
(千円カニ歩きか……。設定判別に三百枚使う価値はある。いや……。あるじゃない。使わなきゃ帰れない。)
「お客様。遊戯台は決まりましたか?休憩ボタンを押さないと戦闘は止まりませんよ」店員が無表情で尋ねる。
「あ。そうだった。危なっ!」
慌てて左端の台の休憩ボタンを押す。
「じゃあ……これも何かの縁と言うことで…」左端へ座る。「今日はここからカニ歩きで行きます」
「はい。承知しました。」
◇◇◇
純増はレバーへ手を置いた。打ち始める前に液晶へ向かって声を掛ける。
「ジュリナ。聞こえる?」
画面の向こうから返事が返る。
『はい。純増様。』「待たせちゃってごめん。そっち大丈夫?」
ジュリナは剣を構えたまま答える。
『はい。問題ありません。』だが、一瞬だけ困った顔をした。
『ですが……このキノコさん。頭がぶよぶよしていて剣が通りません。』少し顔をしかめる。
『あと……剣が当たった感触がすっごく気持ち悪いです……おえっ……。』
純増は思わず吹き出した。
「あははっ!それは嫌だなぁ!」レバーへ手を掛ける。「すぐに引きまくって切れ味最高にしてやる」優しく笑う。
『はい。お願いします。』ジュリナも微笑んだ。
純増はゆっくりと深呼吸をした。
胸の奥が熱い。子供の頃の遊園地と同じ感覚。
何が起こるか分からない。だからこそ、たまらない。
「よし。勝負、始めますか。」
レバーを叩く。カコンッ!リールが勢いよく回り始めた。
続
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