第22話 【たかが一枚、されど一枚】
ギルドへ向かう道でジュリナは何度も純増の横顔を見上げていた。
「純増様……。私……何か気を悪くさせてしまいましたでしょうか……?お顔が……少し怖いです。」
純増が振り向く。一瞬だけ目を伏せ、小さく笑った。
「ごめん。」頭をぽりぽり掻く。
「ジュリナが悪いわけじゃないよ。」
少し空を見上げる。
「さっき食堂で耳に入った言葉がさ……。ちょっと聞くに耐えなくてさ…」
ジュリナは何も聞かず、小さく頷いた。
「……はい。」
◇◇◇
ギルドへ到着。昨日と変わらず酒と笑い声で賑わっていた。
「おっ!ゴブリンハンターじゃねぇか!」
「昨日はご馳走様!」「今日はドラゴンでも狩りに行くのか?」「「あはははっ!」」
「あはは、お疲れ様です。」純増は軽く手を上げるだけだった。
そのまま依頼掲示板へ向かう。
貼られている、討伐依頼。護衛依頼。採集依頼。
そして、一枚の紙を迷うことなく、静かに剥がした。
【薬草摘み 報酬・銀貨一枚】
「純増様……。」ジュリナが少し驚く。
純増は受付へ向かった。
「すみません。この依頼、受けます。」
受付嬢は目を丸くする。
「えっ? 本当にこちらでよろしいんですか?純増様でしたら討伐依頼でもっと報酬の高いものも……」
「えぇ。これを受けます。」純増はニッコリ笑った。
「……承知しました。」手続きはすぐ終わった。
◇◇◇
ギルドを出ようとした、その時。
一人の小さな男の子が籠を抱えて駆け込んできた。
純増の背中の籠を見る。
「あっ!僕の籠…」目が輝いた。
「もしかして……薬草摘みを受けてくれたんですか!?」
純増はしゃがみ込み、目線を合わせる。
「うん。君が薬草摘みの依頼主さん?」
「はい!」少年は何度も頭を下げた。
「おばあちゃんが病気なんです!薬草がいっぱい必要なんですけど……外には魔物がいて……籠は作れても取りには行けなくて…だから……。」
もう一度頭を下げる。「ありがとうございます!」
純増は優しく笑った。「偉いな。その籠も貸しな」
少年の頭をぽんと撫で、籠を受け取りジュリナに渡す。
「すぐ採ってくるから、少しだけ待っててな。」
「はいっ!!でも、僕、銀貨一枚しか無い…」
「報酬は変わらなくていいよ。どうせ二人で行くんだから」
「ありがとうございます!」少年は満面の笑みだった。
◇◇◇
町を出る。ジュリナが隣で歩きながら聞いた。
「純増様……。もしかして、これを受ける気になったのは食堂で聞いた話が理由ですか?」
純増は少し笑う。
「うん。何となくね…。あんな紙切れ一枚の依頼書でもさ、出した人はきっと困ってるんだなぁって思ってさ…」しばらく歩いてから続けた。
「ギルドの人たちにはたった銀貨一枚でも、きっと、あの子には違う。おばあちゃんを助けたい。そのために出した銀貨一枚だから。金額じゃないんだよ。その気持ちを笑うのだけは違うかなって。」
ジュリナは嬉しそうに笑った。
「やっぱり……純増様らしいです。」
純増は照れ臭そうに笑う。
「ごめんな。今日は草むしり付き合わせちゃって。」
するとジュリナは胸を張った。
「純増様!甘く見ないでください!私、こう見えて草むしり得意なんですよ!今日は純増様よりいっぱい採っちゃいますから」
「なにっ!?」純増が目を見開く。
「ジュリナ、草むしりガチ勢だったのか!負けられないな!」
「あっ!」ジュリナが笑う。そして早歩きになる。
「純増様。もう歩きながら勝負始まってますよ!」
「「あはははっ!」」二人の笑い声が森へ響いた。
「ところでジュリナ。この場所って分かる?」
地図を渡す。ジュリナは一目見て頷いた。
「はい。ここでしたら一時間も歩けば着きます。」
「さっすが〜!道案内よろしく〜。」
「はい!かしこまりました!」
◇◇◇
一時間後➖➖
「おぉー!」一面に紫色の薬草が広がっていた。
「これかな?」「はい。間違いありません。」
ジュリナが嬉しそうに頷く。
「これだけあれば今日中に籠二ついっぱいで帰れます。」
純増は袖をまくった。
「よ〜し!勝負だ!どっちが多く採れるか競走!負けたやつは…晩飯奢りなっ!」
「あっ!」ジュリナが慌てる。
「先に始めたらずるいです!」
「ぬははっ!勝負の世界は非情なのだよ!」
「むぅぅぅ!」二人は夢中になって薬草を摘み始めた。
「一本!二本!純増様!私もう二十本目ですよ〜!」
「うそっ!?速っ!ダークエルフって草むしりまで強いの!?」
「はいっ!私は何でも出来ますから!えっへん☆」
「あははっ!」森へ笑い声が響く。
夢中になって薬草を摘むジュリナは、しゃがんだり立ったりを繰り返す。そのたびに、ぴたっとした戦闘服越しの綺麗なヒップラインが、純増の目の前に行ったり来たり。
「…………。」純増は思わず手を止めた。
(いやいやいや……見ちゃダメだ…見ちゃダメだ……俺…見ます!俺、見ます!!)
ジュリナは純増の視線はまるで気付いていない。
「純増様ー!私三十本です!」
「えっ!? もうそんなに!?」慌てて薬草を摘み始める純増。(お尻見てる場合じゃない!勝負だった!)
必死に手を動かす純増を見て、ジュリナは満面の笑みを浮かべる。
「ふふっ♪ 純増様、お尻ばっかり見てると負けちゃいますよ☆」「えぇぇぇ!バレてたの!恥ずかしぃぃぃ」
「はい。純増様なら嫌じゃないのでずっと見ててもいいですけど♡」
◇◇◇
一時間後。二人の籠は薬草でいっぱいになっていた。
「ふぅ……。」純増は汗を拭く。
「結局、ジュリナの勝ちか。」
「えへへ。私の勝ちです。」満足そうな笑顔だった。
「よしっ!帰ろうか。」「はいっ。」
二人が歩き出そうとした、その時だった。ジュリナの足が止まる。
「……純増様。」「ん?」
ジュリナは前を見つめたまま静かに言った。
「どうやら……帰るのが少し遅くなりそうですね。」
ゆっくりと目が戦闘モードに入っていく。
純増も視線を向ける。
「うわぁ……うん。俺も今、そんな気がした。」
ゆっくりと脳汁が、じゅわじゅわと溢れていく。
二人の前に、木陰からゆっくりと四つの影が姿を現す。丸々とした傘。細い手足。不気味な笑みを浮かべる四体のキノコの魔獣が、じっと二人を見つめていた。
続
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