第20話 【五千枚から脳みそ焦げる】
純増たちがギルドを出ると、町はすっかりお祭り騒ぎになっていた。広場へ向かう道には屋台がずらりと並び、あちこちから威勢のいい声が飛び交う。
「安いよ安いよー! 今ならビール一杯、銅貨三枚だよー!」「こっちは銅貨二枚だ!二枚!」
「焼き串! スープ! ご飯物もあるよー!」
子どもたちは走り回り、大人たちは笑いながら酒を片手に歩いている。
「……あははっ!夏祭り〜」純増は思わず笑った。
「よし、行こう!」「はいっ! 純増様!」
ジュリナも嬉しそうに頷く。
すると純増は歩きながら革袋を開いた。
「そうだ。」中身を数える。金貨五枚、銀貨七枚、銅貨五枚。それをジュリナへ差し出す。
「はい。これ。ノリ打ちは半分が基本だから。」「……え?」さらに銀貨五枚を重ねた。
「これは祭りのお小遣いね。好きなの食べな」
「えっ!? そんな、いりません!」慌てて返そうとするジュリナ。
純増は笑って首を振る。
「ダメダメ。ちゃんと分けとかないと、あとで揉める原因になる。揉め事は大体、遅刻と金から始まることが多いんだよ」そして親指を立てる。
「だから先に分ける。これ、大事。ねっ☆」
ジュリナはしばらく純増を見つめた。
やがて小さく頷き、そっとポケットへしまう。
「……ありがとうございます。大事に使わせて頂きます。」
「いやいや。」純増は照れくさそうに笑った。
「こっちこそ、ありがとう。」
そして隣を見る。「ほら、巫女音。」
銀貨五枚を差し出した。巫女音は固まる。
「……人からお小遣いを貰う神。」深いため息をつく。「女神会議で絶対いじられます……。」
「あははっ!」純増は腹を抱えて笑う。
「女神も会議とかあるんだ!」
「ありますよ!誰を地獄に落とすとか…」
「私たちのこと議題にしないでくださいね……。」
◇◇◇
三人は屋台を回った。
焼き鳥、串焼き、焼きとうもろこし。
ビール、ジュース、甘い菓子。
「これうまそう!」「純増様!こっちもあります!」「巫女音、それビールだよ?」「神にも飲みたい日があります」
三人は笑いながら買い物を楽しみ、やがて広場へ到着した。中央では巨大な鉄板が並び、豪快に肉が焼かれている。
ジュウウウウッ!!肉汁が炎へ落ち、香ばしい匂いが町中へ広がる。
「レアー!ミディアムー!レディースエンウェルダーン!通な人は生ぁぁぁぁ!!」解体センターの職員が大声で叫ぶ。
「銀貨一枚でゴブリンステーキ食べ放題だぁぁぁ!!無くなり次第終了!無くなる前に食ってけー!!」
純増たちも列へ並んだ。
「あっ!」職員が純増に気付く。
「ゴブリンハンター様!お代なんかいらねぇ!好きなだけ持ってけ!」
純増は笑って首を振った。
「いやいや。」銀貨三枚をテーブルへ置く。
「祭りはみんなで作るもんだから。俺たちも払うよ。」
職員は少し笑った。「……ありがとよ。」
◇◇◇
三人は席へ座った。純増はナイフを入れる。
「……おっ。」スッと刃が入る。「柔らかっ。」
まずは塩だけを少し振る。「素材の味、確認っと。初ゴブリン頂きます!」
一口。モグモグ。「…………。」
次の瞬間。「あははははっ!!うめぇぇぇぇぇぇ!!肉が甘ぇ!!ウルフギャングもびっくり!」
ジュリナも一口。「ふぐぅぅぅ!」目を潤ませる。
「美味しいですぅぅぅ!!」夢中でもう一枚。
「純増様!またゴブリン殺したくなっちゃいますね☆」
「おいっ!可愛いお口で物騒なこと言うなって…」
純増は苦笑する。「巫女音は?」
巫女音も黙々と食べていた。
「…………初めて人の食べ物を食べました。」フォークを置く。
「私……女神に生まれたことを、今後悔しています。これ、美味すぎっ!」
「「「あははっ!ゴブリン最高!!」」」
それから三人は無言になった。
ひたすら食べる。どんどん皿が積まれる。
純増、五皿。ジュリナ、十二皿。巫女音、二十一皿。
「……。」純増は積み上がった皿を見る。
「食べ放題で良かった……。」
◇◇◇
食後。純増は少し離れた場所で樽ビールを飲みながらタバコへ火を点けた。夜風が心地いい。「ふぅ……。」
そこへ、一人の老人が樽ビールを持って歩いてきた。
「あれ?この前、メダルをくれたおいちゃんじゃない?」「おっ、久しいの〜。あの後、出たか?んっ?「ダメ!全飲まれ〜あははっ!」純増は笑った。
「あははっ!当たり前じゃ!あれが当たったとこ見たことないわっ!でもお前さん、ゴブリン倒したとは驚いたわい。」
「いや…」純増は首を振る。
「倒したのは俺じゃないんだよ、ジュリナ。俺の相方なんだよね」
老人は頷く。そしてグビッと一口飲んで静かに聞いた。
「お前さん……きっと“引きの指輪”を探しておるんじゃろ?」
「なんで、指輪のことを…」純増の表情が変わる。
老人は遠くを見る。
「顔見れば分かる。引きを探してるんじゃろ…?儂も若い頃探した。何でも引き寄せる、不思議な指輪。はは、でも、結局見つからんかった。」少し笑う。
「じゃが!この世界のどこかには、必ずある。」純増を見る。「諦めるな…」その一言だけ残し歩き出す。
数歩進んでから振り返る。
「まぁ、この町には無いけどな!あははは!早く違う町で探した方がいいぞ!」豪快に笑いながら去っていく。
純増も笑った。「あはは……教えてくれて、ありがとう。」
◇◇◇
席へ戻ると。
「あっ。純増さまぁ〜…ろこ行ってらんれふかぁ〜?もう一皿たべるれすかぁ〜?」ジュリナは頬を赤くしていた。
巫女音も同じだった。
「へへへ、神は酔いません……でも世界が回ってます……。これは悪魔の仕業です…ひっくっ!」
「あはは、お二人さん完全にもう出来上がってるから…」純増は苦笑する。
「さぁ、今日は帰ってもう寝るか。」
◇◇◇
二人を肩に抱え、宿へ向かう途中➖➖
「おや?」見覚えのある男とすれ違う。
奴隷商だった。
「あっ!これはこれは、お客様!隣のマグロちゃんはいかがでした?」
「あははっ!“ゴブリン”倒してくれたよ。」
奴隷商は目を丸くした。そして純増は笑った。
「紹介してくれてありがとね。」
革袋から金貨を一枚取り出す。
「これ。たまにはさ、店のみんなにゴブリンステーキ食べさせてあげて。“パンとスープ”だけじゃ可哀想だから。」
どこかバツが悪そうな顔をする。そして深く頭を下げる。「……ありがとうございます。みんな喜びます。」
◇◇◇
三人は宿へ戻った。部屋へ入るとベッドにジュリナを寝かす。「すぅ……。」ベッドへ倒れ込むと即寝。
巫女音も、、「あのね、女神は……睡眠も……」会話の途中で寝た。
「みんな早っ。」純増は笑う。
コーヒーを淹れる。窓際に行き、タバコへ火を点ける。窓の外では、まだ祭りの笑い声が聞こえていた。
「ふぅ……。」煙をゆっくり吐く。
「やっぱ……。」今日一日を思い返す。
「五千枚の価値は……脳みそ焦げるなぁ。」
その時だった。
「むにゃ……。」ジュリナが寝返りを打つ。
「純増様……。ゴブリン……もう一皿……いいれすかぁ?」「ぷっ、夢の中でも食ってんのかよ。」
純増は小さく笑い、コーヒーを一口飲んだ。
長い一日が、静かに終わっていった。
続
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