第19話 【ゴブリンイベントがあっつい日】
町の入口へ戻ってきた純増は、大きく伸びをした。
「ふぁぁぁぁ……無事帰ってきたぁ」
背中ではジュリナがすやすやと寝息を立てている。
「すぅ……すぅ……。」
その様子を見ていた女神は、くるりと踵を返した。
「それでは私はこれで、、」
「あっ、ちょっと待って女神。」純増が呼び止める。
「暇ならもうちょっといてよ。」「……はい?」
「今から換金して飯奢るからさ。」
女神は眉をひそめた。
「貴方……。」「ん?」
「私のこと“友達”だと思ってません?」
「えっ?」純増は首を傾げる。「違うの?」
「違うだろっ!」女神は思わず声を荒らげた。
「神、神です!口見て口。か、み、分かる?神様なんです!それに、いつまで“女神”って呼ぶつもりですか!」びしっと自分を指差した。
「私は巫女音です!」
「あぁ、ごめんごめん。名前ちゃんとあったのね…」
純増は笑いながら頷く。「巫女音ね。」
「はい!“友達”ならそう呼んでください」
「んで、巫女音は人間の飯は食えるんでしょ?」「…………。」数秒の沈黙。
「……食べられますけど。」「よし。食いに行こう!」「貴方…話聞いてました?」
その時、背中から小さな笑い声が聞こえた。
「……ふふふ」ジュリナが寝ぼけながら微笑んでいる。
「あはは。そんじゃ、ギルド行くか。」純増も笑った。
◇◇◇
ギルドへ入ると、中は賑やかだった。
だが、純増たちの姿を見た途端➖➖
「おっ?ゴブリンハンター様のお帰りだぞ!」
数人の冒険者が笑う。
「どうした?何も持ってねぇじゃねぇか!」
「怖くて逃げてきたのかぁ?」「あははは!小便漏らしてねぇだろうな!」別の男も笑った。
「おいおい!マグロは怖くて一人じゃ立てないのかって!」「「「あははははっ!!」」」
ギルド中が笑いに包まれる。純増は何も言わなかった。静かにショルダーバッグを床へ置く。
「ちょっと失礼。」バッグのチャックを開く。
ズズズ……何かが引きずり出される。
ドォォォンッ!!二メートルを超える巨大ゴブリンが床へ転がった。
・・・・・・。・・・・・・。
ギルドから音が消えた。
ジョッキを持っていた男の手が止まる。受付嬢の笑顔も固まる。カードを配っていた冒険者も動かない。
純増だけが口を開いた。
「依頼のこれ……換金できます?」
誰も返事をしない。純増は少し困ったように頭をかいた。
「あっ、それと、こいつ仕留めたの、ジュリナだから。」ゴブリンの死体を指差して静かに言う。
「俺はゴーサイン出しただけ。」一呼吸置く。
「だからもう……。」純増は微笑む。
「ジュリナのことマグロって呼ぶの、みんなやめてあげてよ…。ねっ。」
その時、受付の男性が我に返る。
「……おい!!」大声が響いた。
「何ぼさっとしてんだっ!!」部下たちがビクッとする。「依頼者の魔物解体センターを呼べ!!」
「は、はいっ!す、すぐに!!」職員たちは慌てて飛び出していった。
ギルドには再び静寂だけが残る。
その空気の中、巫女音がぽつりと呟いた。
「……貴方。」「ん?」
「結構、格好いいんですね。」
純増は照れ臭そうに笑う。
「あはは、いやぁ、この世界だと、たまたま決まるみたい。」
その背中ではジュリナが安心しきった寝顔で眠っていた。「すぅ……すぅ……。」
◇◇◇
しばらくして、解体センターの職員が駆け込んできた。
「どれだ!?」巨大ゴブリンを見る。
「…………。」巻尺を取り出す。頭から足先まで丁寧に測る。
「こりゃ……。」紙へ数字を書き込む。何度も計算する。
「想像以上だ……。」腕を組み、少し考え込む。
「ん〜ん、頼まれてる分を出しても、三分の一は腐っちまうな。」
そして突然、大声を上げた。
「よぉぉぉし!!」ギルド中が振り向く。
「今日はゴブリン大セールだ!!」拳を突き上げる。
「銀貨一枚!!食い放題だぁぁぁ!!」
職員たちを見る。
「お前ら!!広場へ火を起こせ!!町中へ知らせろ!!今日は祭りだぁぁぁ!!」
「「「おおおおっ!!」」」一斉に人が飛び出していく。薪を運ぶ者。鉄板を準備する者。町中へ叫びながら走る者。まるで祭りの始まりだった。
その様子を見送る純増が呟く。
「……ゴブリンって食えるの?」
この騒ぎでジュリナが目を覚ました。
「ん……。ゴブリンですか?」目をこすりながら答える。
「はい。ゴブリンのお肉は一般では滅多に食べられません。私も食べたことはありませんが……。」少し目を輝かせる。
「でも、そのお肉は牛さんや豚さんより美味しいと言われています。」
「へぇ。そりゃ楽しみだな」純増は笑う。そして巫女音を見る。
「食い放題でもいい?」巫女音は呆れたようにため息をついた。
「ここまで期待させておいて……。牛丼だったら怒りますよ?」
純増は吹き出した。
「ぷっあははっ!牛丼なのバレてた?嘘嘘、ちゃんと焼肉奢るつもりだったよ。よしっ、広場行こう!」
「純増様、私のこと下ろしてもらって大丈夫です。もう歩けそうです」
「んっ?無理しなくて大丈夫だよ?」
「あ、その、たぶんなんですけど…私、ずっとおしり丸出しです…」
「嘘……ごめん。気付かなかった…。後でお尻でない洋服買いに行こうね」
ジュリナが下りて服を直した、その時だった。
「ちょっと待ってくれ!」
ギルド職員が革袋を持って歩いてくる。
「今回の報酬です。」革袋を差し出す。
「……それと」少し頭を下げた。
「悪かった。笑ってしまって…ありがとう。また依頼を受けてくれると助かる」
純増は革袋を受け取り、小さく首を振る。
「ううん、俺じゃないですよ。」ジュリナを見る。
「謝るなら、この子に。ジュリナは何も悪いことしてないんですから…」
職員はジュリナへ向き直る。
「……すまなかった。」
ジュリナは少し驚いたあと、ふわりと微笑んだ。
「いいえ、気にしないでください…」優しく首を横に振る。
「……私たちの“先祖”が悪いのですから。」
その微笑みは穏やかだった。けれど、その微笑みとその一言には、長い長い歴史の重みが静かに滲んでいた。
続
読んで頂きありがとうございます。気が向いたらでいいのでブックマーク、評価、感想などよろしくお願いします。毎日0時30分更新予定です。




