第18話 【端数のお菓子は戦利品】
眩い光がゆっくりと消えていく。
純増は剣の中のVRホールから現実へと意識を戻した。
その瞬間だった。テューー♪ テテテテェ〜♪
剣から軽快な電子音が鳴り響く。
『純増様、ジュリナ様。レベルアップ。レベル2になりました』「おっ!」純増は思わず笑顔になる。
「ジュリナ!レベルアップだってよ☆異世界満喫中ぅぅ!」
振り返ると、そこには体育座りで小さく丸くなっているジュリナの姿があった。
「……ジュリナ?」返事がない。
「お疲れ……って、どうした!?どこか痛いのか!?」慌てて駆け寄る。
ジュリナは膝へ顔を埋めたまま、小さく聞こえないぐらいの声で呟いた。「……怖かった……です…」
「えっ?」純増は耳を近付ける。「ごめん、もう一回。」
次の瞬間。「うわぁぁぁぁぁぁん!!」森中へ響くような大声だった。
「怖かったですぅぅぅ!!死ぬかと思いましたぁぁぁ!!」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら泣きじゃくる。
「うぐぅぅぅ!私のせいで……純増様まで危ない目に遭わせるところでしたぁぁぁ!!」
さっきまでゴブリンへ狂気の笑顔を向けていた人物とは、とても思えない。
純増は少しだけ目を細めた。
「……ありがとうね。」「えっ……?」
「怖いの我慢して戦ってくれて。」
ジュリナはきょとんとしたまま涙を止める。
純増はポケットから小さな箱を取り出した。
「はい。これ食べなよ」「……?」箱を開ける。
「当たりの味、するから。」
「当たりの味?……いいんですか?」「もちろん。」
ジュリナは恐る恐る一枚口へ運ぶ。
カリッ。もう一枚。カリカリ。その表情が少しずつ変わっていく。
そしてまた一枚。カリッ。
「……ふぐっ。ライオンさん…」涙目のまま笑った。
「純増様ぁ〜、これすっごく美味しいですぅぅぅ!!」夢中になって食べ始める。
「何ですかこれぇぇ!!」
「今日の戦利品。当たりの味するでしょ?」
「はい。本当に当たりです!美味しいですぅ!全部食べてもいいですか?」
「あははは!いいよっ!全部食べちゃいな」純増は思わず吹き出した。
「あははっ!戦ったり、泣いたり、笑ったり、忙しいな。」
ジュリナも照れくさそうに笑う。
◇◇◇
「さて。帰ろっか。」純増は立ち上がった。
「……はい。」ジュリナも立とうとした。
「よい、しょ……」ふらっ。「おっと」
ジュリナの身体が大きく傾く。純増は咄嗟に支えた。
「無理するなって。」そう言うと、ジュリナの前へしゃがみ込む。「ほら。」背中を向けた。
「乗りなよ。おんぶしてってあげるよ」
ジュリナは目を丸くする。
「えっ!? そんな!」首をぶんぶん振る。
「純増様の背中になんて……そんな失礼なこと出来ません!」
「ふふ、やっぱりそう言うと思った…」純増は笑う。
「それじゃあ、、ご主人様命令です。」
ジュリナが固まる。
「俺の背中に乗って。寝ちゃっててもいいからさ」
「……。」少しだけ迷ってから、小さく頷く。
「……はい。ご主人様の命令とあれば。」
遠慮がちに背中へ身体を預ける。
ふわり。そして、ぶにゅん。
(………これ、役得ってやつだな。)純増は心の中だけで頷いた。
「あれ?……純増様。今、何か言いました?」
「いや!」慌てて首を振る。
「何でもない!何も言ってない!」
ジュリナは少し笑った。「ふふっ。」
そして思い出したように言う。
「そう言えば純増様。ゴブリンの死体はどうしましょう?依頼書には『死体を納品』と書いてありました。」
「えっ?そうなの?」純増は後ろを振り返る。
二メートルを超える巨大なゴブリン。
「んー、運ぶには、これ……デカすぎない?」
◇◇◇
その時だった。空間がぐにゃりと歪む。
「どうやら…初戦は無事に勝利したようですね。」聞き覚えのある声。
「おぉ、また来たのか?女神ってのは暇だなぁ。」純増は苦笑いする。
女神はじとっと睨んだ。
「ふ〜ん、……次はどこの異世界へ飛びたいですか?」
「えぇえっ!冗談!嘘。ごめんなさい!!」純増は即座に頭を下げた。
そのやり取りを見て、ジュリナは純増の背中へぎゅっと抱きつく。
「ダメです!純増様を飛ばすなら……私も一緒です!」必死な声だった。
女神はため息をつく。
「……随分と懐かれましたね。」
そして何かを思い出したように指を鳴らした。
「あっ!そういえば言い忘れていました。」
純増が持っているショルダーバッグを指差す。
「そのバッグ、四次元収納バッグへ変更してあります。」「え?四次元?」「えぇ、そのゴブリンも収納できますよ。」「マジで?」
純増はバッグをゴブリンへ近付け、押し込む。
すると、ズズズッ……巨大な身体が吸い込まれていく。
「うおっ!怖っ!」
頭、胴体、腕、脚。スルスルと全部入った。
バッグは何事もなかったように元の大きさのまま。
「いゃぁ……これ便利だなぁ…。元の世界で持ってたら億万長者だろうなぁ…。まぁ、それでもスロットは打つが…」純増は素直に感心した。
「あっ、そうだ。」純増は女神を見る。
「女神、暇ならさ…」「暇じゃありません。」
「いや、まだ何も言ってないけど…」
「どうせ送れと言うのでしょう?」
「あはは。バレてた?」図星だった。
「俺たちのことそのワープ魔法で町まで送ってくれない?」
女神は深いため息をつく。
「……本当に、そんな暇ではないんですが…」
「お願いします☆」純増は笑顔で両手を合わせた。
数秒の沈黙。
「はぁ、……仕方ありません。」
女神が手を空間に翳し回す。空間がゆっくり歪み始めた。
「さぁ、行きましょうか」「あははっ!ありがとう!」
純増はジュリナを背負ったまま光の中へ飛び込む。
身体がぐにゃりと歪み➖➖次の瞬間。
二人は町の入口へと立っていた。
初めての依頼。初めての勝利。
そして少しだけ縮まった、二人の距離。
そんな温かな余韻を胸に、純増たちはゆっくりと町へ向かって歩き出した。
続
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