第15話 【一回引けると安心する】
純増はゆっくりと淡々とレバーを叩く。
カコンッ。リールが軽快な音を立てて回り始める。
「ふぅ……。」左、右、中。リズムよく停止ボタンを押していく。小役。ハズレ。また小役。ベル、リプレイ。レア役。チェリー、スイカ。
派手な演出はない。ただ音と光で演出していく。
それでも純増の頬は少しずつ緩んでいく。
十回転。二十回転。三十回転。
そして➖➖➖純増の中で何が弾けた。
「うぉぉぉぉぉぉっ!!」突然、ホール中へ奇声が響いた。「ちゃっまんねぇぇぇぇぇ!!」純増は椅子から少し腰を浮かせる。
「ちゃまんないんですけどぉぉぉ!!」胸を押さえながら叫ぶ。
「はぁはぁ、脳汁止まんねぇぇぇぇぇっ!!」
ホログラム店員が肩をビクッと震わせた。
「……キモ」小さく呟く。
(ふふふ、でも、始まりました……。)
筐体横の小さな液晶が光る。そこには森で戦うジュリナの姿が映っていた。
「ジュリナ!」純増は嬉しそうに手を振る。
「そっちどう!? 俺もう脳汁に溺れて昇天寸前!」
ジュリナはゴブリンの棍棒を紙一重でかわしながら答える。
『はい、純増様!』剣を振る。しかし弾かれる。
魔法を放つ。それも棍棒で掻き消される。
『身体が……軽いです。』再び棍棒をかわす。
『私の力が上がっていくのを感じます!』
(……戦えてる。)ジュリナは自分でも驚いていた。
(初めて戦うのに……。)足が勝手に動く。剣筋も自然と身体が動けている。
(でも……。)剣が弾かれる。
(攻撃が通らない……。)距離を取りながら考える。
(どうすれば……。)
◇◇◇
一方その頃➖➖
「最高ぉぉぉぉぉ!!」純増はレバーを叩き続けていた。子役。レア役。取りこぼしゼロ。無駄のない流れる様な目押し。
その様子を店員が静かに見つめていた。
「お客様。一杯目はサービスです」
純増の横へカフェラテを差し出す。
「おっ!」純増は目を輝かせた。「ありがとう!いただきます」一口飲む。「うまっ!」満足そうに頷く。
「ちなみに打ちながら紙巻きタバコって吸える?」
「はい。喫煙可能です。」「うひゃーー!」
純増は笑顔になる。
「最高じゃん!」椅子へ深く腰掛けタバコに火を点ける。「この空間永遠に打てるわ。」
店員はその笑顔を見つめていた。
(……本当に楽しそう。)
その姿は、どこか懐かしかった。そしていつかの誰かを純増に重ね合わせた。
(まるで……あの人を見ているようですね…)
そして店員の瞳へ、純増の今回のデータが浮かぶ。
➖➖解析開始。
攻略率 100% 目押し精度 100%
技術介入 100% 引き評価 D
「………」店員は少しだけ目を見開いた。
(技術だけなら……あの人を、もう超えている)
画面を見つめる。
(ですが…引きは平凡。どこにでもいる一人の打ち手。それなのに、ライフの減少量は驚くほど少ない)
「ふふ……」店員は小さく微笑む。
「私の楽しみが、一つ増えましたね」
◇◇◇
その瞬間だった。ゴブリンが地面を蹴る。
「ギュアアアッ!!」一瞬の隙。ジュリナの視線が剣の液晶へ向いた。
次の瞬間➖➖ドゴォッ!!
「がっ……!」棍棒が腹部へ直撃する。身体が吹き飛び、大木へ叩き付けられた。
バキバキッ!!枝が折れる。
「ごほっ……!」息ができない。血が口からこぼれる。鼻からも赤い雫が流れた。
液晶越しに見ていた純増の顔色が変わる。
「ジュリナ!!大丈夫か!!」思わず立ち上がる。
ジュリナは鼻血を指で拭った。荒い息。それでも笑う。
『はい……。問題ありません。純増様、申し訳ありません。少し気を逸らしてしまいました』
ゆっくり立ち上がる。
『まだ、やれます。引き続きサポートよろしくお願いします』
純増はレバーを強く叩く。
「無茶すんな!今引くから!バフが乗り切るまで逃げてろ!」
ジュリナは首を横に振った。
『いいえ。純増様ばかりに負担はかけられません。』
ゴブリンを見据える。『それに……。』
口元がゆっくりと吊り上がる。
『こんな下等なゴミみたいな者にダークエルフの血を流されるなんて……いっぱい酷い目に遭わせないと……私の気が収まりません!』赤い瞳が細くなる。
「……ちょっと言葉怖いって!」純増は引きつった笑みを浮かべた。
◇◇◇
その時だった。第三停止ボタンを押す。
画面に何も揃ってない。純増はボタンを離さない。
「……!予告音が鳴ってたはず…」純増の瞳が見開く。
次の瞬間➖➖ボタンを捻りあげて離す。
リール上部から、眩い光が滝のように流れ落ちた。
何も揃っていない。それでも、純増は確信していた。
「来た!あははっ!奇しくも俺が生まれて初めて引いたボーナスと同じ!ナイアガラからのリプレイ否定かよっ!こりゃもう、脳汁バッシャバシャ!!」
素早く一枚掛けへ切り替える。
レバーオン。左リール。ビタッ。三連ボーナス図柄が停止した。口角が大きく吊り上がる。
「これ……!」中を狙い定めて押す。
テレレレレン↑ テレレレレン↑ タララララン♪
右、ズドンッ!!ボーナス図柄が中央ライン一直線に揃う。
「これこれぇぇぇぇぇぇぇっ!!この瞬間に!!俺は生きてんだよぉぉぉぉぉっ!!ジュリナっ!!反撃開始だ!」
◇◇◇
その瞬間➖➖ジュリナの身体がドクンッと脈打った。全身へ力が駆け巡る。剣を握る手へ圧倒的な力が宿る。ゴブリンへ踏み込む。ザシュッ!!
初めて。ゴブリンの胸へ赤い線が走った。
「ギュアアアアアッ!!」苦痛の叫びが森へ響く。
ジュリナは静かに微笑む。
「だから……」剣先をゆっくり向ける。
「私の前では、その臭い口を塞ぎなさいと言っているでしょう…もう私、怒ってるんだから…」
その笑みは美しく、どこまでも危険だった。
続




