第14話 【初打ちと初恋は似てる】
眩い光に包まれた純増は、ゆっくりと目を開けた。
➖➖その瞬間だった。
♪ジャッ♪ジャッ♪ジャッジャカジャジャッ♪ジャジャジャジャジャ〜ン♪
耳に飛び込んできた懐かしい旋律。軍艦マーチだった。店内には色とりどりのネオンが輝き、何列ものスロット台が並んでいる。
天井からは店員の威勢のいいマイクパフォーマンスが響き渡る。
「ジャンジャンバリバリ!ジャンジャンバリバリ!本日もご来店ありがとうございますっ!!」
さらに鼻をくすぐるのは、コーヒーとタバコが混ざった、どこか懐かしい香り。純増はその場で恍惚の表情で立ち尽くした。
「……なんだよ」胸の奥が熱くなる。
「……あの頃のまんまなのかよ。」脳の奥から、ジュワリと脳汁が溢れてくる。
足元を見る。一玉だけ、パチンコ玉が転がっていた。思わずしゃがみ込み、拾おうと手を伸ばす。
だが、指は何も掴めない。「……やっぱ触れないか。」純増は苦笑した。
「子供の頃、こういうの拾って駄菓子と交換してたなぁ……。……って、何歳から俺、ホール通ってんだよっ!」自分で言って、自分で笑う。
その笑みは、どこか懐かしさを帯びていた。
しかし、胸の鼓動は、もう限界だった。
打ちたい。脳汁出したい。ただ、その一心。
そこへホログラムの店員が営業スマイルで近付いてくる。
「いらっしゃいませ〜!本日もご来店、誠にありがとうございます。」深々と一礼する。
「本日、お客様に遊技していただく機種はこちらになります。」
パァンッ!目の前へ一台の筐体が現れた。
「こちらは完全Aタイプになります。子役、レア役、ボーナスを引くことでライフを獲得していただきます。また、遊技中には不定期で《店員チャンスイベント》が発生いたしますので、どうぞお楽しみください。」営業スマイルのまま両手を広げる。
「それでは!張り切ってどうぞ!!」
純増は店員を見る。
「……もう打っていいの?」「はい。」
「本当に?」「はい。」
「嘘なしで?」店員の笑顔が消えた。
「いいから……とっとと打てよ、この豚野郎。てめぇ裏連れてくぞ!」」「ひぃぃぃぃぃっ!!」
純増は肩を跳ね上げた。
「店員さん怖ぇぇぇぇ!!そこまで昔を再現しなくていいから!!」慌てて席へ座る。ゆっくりと筐体へ手を伸ばした。
優しくそっと撫でる。まるで長年会えなかった恋人へ触れるように。
「……知ってたのか?」小さく呟く。
「“何のことでしょうか?”」
「ふふふ、とぼけんなって……俺が初めて脳汁を垂れ流して、本気で恋して打った台にそっくりなんだよ…」目を閉じる。
「あの音も。あの光も。あの瞬間も。全部。」
純増は打っていた頃の記憶を頭の中に駆け巡らせる。
そして静かに目を開く。完全に目がキマっていた。
瞳がギラギラと光った。口角がゆっくり吊り上がる。顔にはうっすらと脂が浮き始める。
「あ、あ、ジュリナ…聞こえる?」『はい…聞こえます』
「準備OK?」『はい…いつでも行けます』
純増はニヤリと笑う。
「それでは…」レバーへ手を添えた。
「打たせていただきまぁぁぁぁぁぁぁすっ!!」
ガコンッ!!レバーが叩かれた瞬間➖➖
純増ギラギラの目とジュリナのバキバキの目が交差し、一つになる感覚を覚えた。
◇◇◇
森。二メートルを超える巨大なゴブリンが咆哮を上げる。
「ギュアアアアアッ!!」その目の前には、一人のダークエルフ。ジュリナは静かに虹色に輝くホールソードを構えた。その赤い瞳には、いつもの穏やかさはない。
獲物を見つけた肉食獣のような、鋭い光だけが宿っていた。ゴブリンが棍棒を担ぎ、ゆっくりと歩み寄る。
ジュリナは小さく笑う。
「あまり臭い口を開かないでください」冷たい声だった。
「下卑た下等種族が」剣先を真っ直ぐ向ける。
「私はダークエルフ」一歩踏み出す。
「かつて、この世界を統べた種族です!言葉も持たぬ下等種族が…生意気に高い所から見下ろさないでください…ムカついちゃいます!」
その笑みは美しく、掌からは小さな黒い炎出し、そしてどこまでも狂気を孕んでいた。
続
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