第12話 【五千枚の価値】
朝食を終えた純増とジュリナは、町の中心部にある冒険者ギルドへ向かっていた。
石造りの大きな建物。剣や槍を背負った冒険者たちが次々と出入りしている。入口へ近づいた、その時だった。
「……おい」「マグロだ……」「ちっ、縁起が悪りぃ……今日は依頼受けるのやめるか」ひそひそとした声が耳に届く。
ジュリナの肩が小さく震えた。すると純増は何も言わず、その手をそっと握る。「純増様……」
純増は笑った。「さっ、行こう」一歩踏み出す。
「気にすることない」ジュリナが不安そうに見上げる。
「後ろ指さされるのは、君があいつらより前にいる証拠」にっと笑う。「前だけ見てれば、後ろは気にならない☆」
ジュリナは目を丸くした。
「……ありがとうございます。」
「あっ、それとさ。」「はい?」
「“ご主人様”って呼ぶの、そろそろやめない?」
「えっ……。」「名前で呼んでほしいな」
少し困ったように考えたジュリナは、小さく頷く。
「……はい。分かりました……純増様」
「……まぁ、本当は様もいらないんだけど」純増は苦笑する。「そこは、おいおいってことで!」
二人は笑いながらギルドへ入った。
◇◇◇
中は思っていた以上に賑やかだった。
酒を飲む者。依頼書を睨みつけ眺める者。武器の手入れをする者。
純増は辺りを見回しながら呟く。
「ふふ、なんかゲームそのまんまだな」
受付へ向かう。
「すいません。登録したいんですけど」
受付嬢は営業スマイルで頷いた。
「ご登録ありがとうございます。身分証をお願いします。」
純増は女神から渡された身分証を差し出す。
名前を書き、簡単な説明を受け、数分後。
「はい、登録完了です」「これで終わり?」
「はい。そこのカウンターでいつでも依頼を受けられます」「めっちゃ簡単だな……。パチ屋の会員カード作るより楽だったよ」純増は笑う。
ジュリナも嬉しそうに微笑んだ。
「よかったですね。純増様」
◇◇◇
二人は依頼掲示板の前へ向かう。
壁一面に貼られた依頼書。純増は一枚一枚眺めていく。
「へぇ〜……色々あるんだな。」
その横でジュリナが一枚の紙を手に取った。
「こちらはどうでしょうか?」「ん?」
「薬草採取です」純増が報酬を見る。
「かごいっぱいで銀貨一枚。」一瞬考える。
「銀貨一枚……」頭の中で勝手に換算が始まる。
(五十枚か…)「すいません。却下です」紙を戻す。
「えっ!?」「五十枚じゃ夢がないし…脳汁も出ない…」ジュリナは意味が分からず首を傾げた。
◇◇◇
しばらく依頼書を見ていたその時だった。
一枚の依頼書が純増の目に飛び込んできた。
【Wanted!! ゴブリン討伐】【報酬 金貨十枚】
純増の目が光る。「……金貨十枚」(五千枚か…)
「よし!」依頼書を剥がした。「これ行くか。」
ジュリナは目を丸くする。
「ふぇっ!?ゴ、ゴブリンですか!?」顔が青くなる。「私……戦ったことがありませんよ……」
純増は静かに頷く。
「うん。俺も…。喧嘩もしたことない!」
「えっ?すっごい胸張る…」
純増は剣を軽く叩いた。
「でもさ、この剣がある。なんとなくだけど、大丈夫な気がする……最悪、危なくなったら全力で二人で逃げよう!走れなかったらおんぶするから!」純増は笑いながら言った。
ジュリナも少しだけ笑った。
「はい。純増様がやると言うなら……」胸へ手を当てる。「私は最後まで着いて行きます。」
◇◇◇
二人は受付へ向かう。「これ、お願いします。」
カウンターの男は依頼書を見る。純増を見る。ジュリナを見る。
そして➖➖➖
「ぶっ!」吹き出した。周囲が振り返る。
「どうした?」「何受けた?」
カウンターの男が依頼書を見せる。
「ゴブリン討伐……ぷっ!」
一瞬静まり返り➖➖➖
「ぶははははは!!」ギルド中が笑いに包まれた。
「鎧も着てねぇ男と!」「マグロがか!?」「ゴブリン狩りだってよ!!」「今日一番笑った!」
受付の男も腹を抱えている。
「お、おい……笑ってやるなよ……」笑いを堪えながら言う。「こ、こいつら……本気なんだぜ……くっ……くくく……」
純増は静かに依頼書を見つめたまま尋ねる。
「受付はこれで終わりですよね?」笑い声が少し止まる。「もう行っていいですか?」
受付の男は咳払いをした。「あ、あぁ。」
笑いを堪えながら地図を差し出す。
「これが目撃場所だ。ちゃんと受理もした。……頑張れよ。ぷっくっ!」「ありがとうございます。」
純増は頭を下げる。ジュリナも小さく頭を下げた。
◇◇◇
ギルドを出る。しばらく歩いたところで、ジュリナが俯いた。
「……すみません…私がダークエルフだから……純増様まで笑われてしまいました……」
純増は真っ赤な顔で何かを我慢してる。
そして突然、「あははははっ!!」腹を抱えて笑い出した。
ジュリナが驚く。「えっ!?」
「ジュリナ!あいつら見た!?」「へ?」
「あの格好!」身振り手振りを交えて笑う。
「全員ゴツい鎧着ちゃってさ!しかもヒゲなんか蓄えちゃって!関羽かっての!!劉備でも守ってろって!あいつらあれが本気ならきっちぃーー!」
ジュリナの口元が少し緩む。
「コスプレ大会かと思ったよ!あははははっ!!俺も前田慶次のコスでもして行けば良かったか?あははっ!」
つられてジュリナも吹き出した。
「あははっ!」笑ってしまう。純増も笑う。二人で笑う。その笑顔は、さっきまでの空気を全部吹き飛ばしてしまった。
ジュリナは笑顔のまま呟く。
「……なんだか、純増様と一緒なら……ゴブリンも簡単に倒せそうな気がします」純増を見つめる。
純増は親指を立てた。
「うん。あいつらが“もう笑えないように”頑張ろっか!」「はい!」
二人は地図を広げ、ゴブリンの待つ森へ向かって歩き出した。
異世界での、最初の戦いが始まろうとしていた。
続
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