第11話 【モーニングって神だよね】
朝の陽射しを浴びながら、純増とジュリナは宿を出た。
「ん〜!」純増は大きく背伸びをする。
「異世界二日目!今日も元気に……」そこで横を見る。「ジュリナ、お腹空かない?」「いえ、私は大丈夫です……」
その瞬間だった。グゥゥゥゥゥ……。見事な腹の虫が鳴いた。純増は一瞬だけ目を丸くし、吹き出した。
「あははっ!ペッコペコじゃん!」ジュリナは耳まで真っ赤になる。
「も、申し訳ございません……」「謝ることじゃないって!」純増は笑いながら手を振る。
「腹減るのは生きてる証拠!朝ご飯食べに行こう!」
「……はい。」ジュリナは小さく頷いた。
◇◇◇
二人は町を歩く。朝市が開かれ、焼き魚や焼き立てのパンの香りが漂っている。しばらく歩くと、一軒の食堂が目に入った。
店先には大きく、【モーニングやってます!】と書かれている。純増の足が止まった。
「……モーニングやってます?だと?」目を細める。
「この世界は規制かかってないのか?」
「……?」ジュリナは意味が分からず首を傾げる。
「あはは、昔のパチ屋じゃあるまいし……。今やったら抽選何百人並ぶんだよっ!」
純増は一人で納得し、一人でツッコむ。
「あっ、ごめん。いや!何でもない!」
気を取り直して看板を見る。
「よし!」ニヤリと笑う。「ここにしよう!きっと何かある!」
◇◇◇
二人は店へ入る。木の香りが漂う、落ち着いた店内だった。二人は席へ案内される。純増が椅子へ腰掛けると、ジュリナは当然のように床へ正座した。
「えっ!?いやいやいや!」純増は慌てる。
「ジュリナ!椅子!椅子!」
ジュリナは困ったように顔を上げた。
「ですが……奴隷が主人と同じ椅子へ座るとダメだと怒られていましたので……」
純増は苦笑する。「俺は怒らない。絶対に」
椅子を軽く叩く。「隣来てよ」「……はい」
ジュリナは遠慮がちに腰を下ろした。どこか落ち着かない様子で背筋を伸ばしている。
純増は店内を見回す。壁には今日のおすすめが貼られていた。
【モーニング海鮮丼】
「ほぉ?あれのことだったのか……脳汁ワードで俺を誘き寄せたってことね…」純増は一人で腕を組み、感心する。
「俺はてっきり朝食ボーナスラッシュでも仕込まれてるのかと……」「……?」ジュリナはまた首を傾げた。
「ごめんごめん。」純増は笑って店員を呼ぶ。
「すいませーん!」「はい!」
「モーニング二つお願いします!」「かしこまりました!」店員は元気よく厨房へ向かった。
注文を終えると、ジュリナがおずおずと口を開く。
「ご主人様……」「ん?」
「私は……少しのパンとスープだけで十分です……いつもそうでしたから…」
「……あははっ!もう頼んじゃったから」純増は笑いながら親指を立てる。「だから今日は遠慮禁止!」
「ですが……」「美味しいものは、一緒に食べた方が美味しいんだ」
ジュリナは純増を見つめ、小さく頷いた。
「……ありがとうございます」
◇◇◇
しばらくすると、海鮮丼が運ばれてきた。
「お待たせしました!」丼いっぱいに盛られた新鮮な魚。湯気の立つ味噌汁。朝とは思えない豪華な食事だった。
「いただきます!」「……いただきます。」
二人は箸を伸ばす。ジュリナは恐る恐る刺身を口へ運んだ。
「……えっ?」動きが止まる。もう一口。
「……おいしい。」さらにもう一口。目が大きく見開かれる。「えっ!?」思わず頬を押さえた。
「うんまぁぁぁぁぁ!!」
その声に店内の客が一斉に振り向く。ジュリナは慌てて口を押さえた。
「も、申し訳ございません!」
純増は大笑いした。「あははっ!そうそう!その顔!」嬉しそうにジュリナを見る。
「やっぱり可愛い子は笑った方がいい!もっと気楽に笑って生きていこう!」
自分の丼を指差す。「気に入ったなら、ほら、これも食べな!」「えっ……あっ、はい!いいんですか?」「いいよ!俺、朝あんまり食べないし」「ありがとうございます!」
ジュリナは嬉しそうに笑って、海鮮丼を口いっぱい頬張って食べた。その笑顔は、純増が初めて見る心からの笑顔だった。
◇◇◇
食事を終え、純増が会計を済ませる。
二人は店を出た。少し歩いたところで、純増は財布の中を確認する。
銅貨数枚。ちゃんと数えて、もう一度数える。
静かに財布を閉じた。そーっと財布を開く。
「……減ってる…そうだよな…計算的にはピッタリ無くなってるよな…。スリにあったわけじゃないよな…」肩を落とす。ジュリナが心配そうに覗き込む。
「どうされましたか?ご主人様」
「いや……大丈夫なんだけどさ…ジュリナ、お金稼げる所って知らない?バイトでも何でもいいんだけど」
ジュリナは少し考えた。「バイト……?」
聞き慣れない言葉だったが、意味は何となく理解したらしい。
「それでしたら、この町にはギルドがあります。簡単な登録で依頼を受けられると思います。私は登録されてますので場所と大体の流れはわかりますよ」
純増の顔が明るくなる。
「よし!そこ行こう!道案内お願い」「はい。分かりました」拳を握り、歩き出す純増。その横をジュリナが嬉しそうについて行く。
(うひぃぃぃ……。)純増は心の中で悲鳴を上げていた。(金稼がないと今日の宿もねぇぇぇ!!)
異世界生活は、今日も財布との戦いから始まるのだった。
続
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