第10話 【来店時は誰よりも紳士であれ】
眩い光に包まれた純増は、ゆっくりと目を開いた。
「おぉ……。」目の前に広がっていたのは、巨大なホールだった。何列にも並ぶスロット台。煌びやかな照明。聞こえてくるメダルの音。純増は思わず両手を広げる。
「こ、これ…、ホールじゃねぇかぁぁぁっ!!」一台、一台と見て回る。
「お前……」筐体を優しく見つめる。
「どんなスタート音なんだ?」隣の台へ移る。
「ストップ音は?」さらに別の台。「確定音は?」目を細め、うっとりと呟く。「はぁぁぁ……愛おしい♡」だが、どの台にも触れることはできない。
「なんだよ…触れねぇのかよ……くそぉ……」純増は台を見つめたまま肩を落とす。「生殺しかよ……打ちてぇ……」
その時だった。「……あの〜」後ろから声がした。
振り返ると、ホログラムのような女性店員が立っていた。
「お客様が、この剣の持ち主でよろしいでしょうか?」「あっ、はい。たぶん…」
「はい。確認できました。」店員は営業スマイルを浮かべ、一礼する。
「私はこの空間のサポート係です。現在、お客様のレベルは1。今打てる台はこれになります」
目の前に一台だけ光る台が現れる。
「レベルが上がるごとに、遊技可能な機種が増えていきます」
「ほぉ、マイスロみたいなもん?」
「……口を二チャァっとさせないでください。」
「あっ、ごめん!」慌てて口を押さえる。「まだ歯磨いてなかった」
「……そうですね…とても気持ち悪かったです」店員は真顔で頷く。
「ホールへ来店される際は、なるべく清潔な状態でお願いいたします」
「ごめんなさい。気を付けます」純増はホールでは素直だった。
「では続けます」店員が指を鳴らす。数字が空中へ映し出された。
LIFE 1000
「お客様の所持ライフは1000から始まります。」
「ライフ?」「はい。遊技を行うとライフを消費します。戦闘終了後、残ったライフは換金可能です。持ち越しは出来ません。ライフ五十につき銀貨一枚」
純増の頭の中で一瞬で計算が始まる。
「……千なら二十銀貨…か。換金率は等価でOK?」
「はい。レベルが上がるほど、最大ライフも増加します。」「なるほどね。端数は?」
「端数はお客様がいた世界の物と交換出来ます。レベルが上がる毎に交換出来る物も増えます」
「それっ!あっつぅぅぅぅ!」
店員は最後に少しだけ表情を引き締めた。
「最後に一つだけ。ライフがゼロになった場合……お客様は死亡します」
純増の笑顔が止まる。
「当然、持ち手であるジュリナ様にも特殊効果は付与されません。この剣自体に切れ味はありませんので、結果、逃げられない場合、お二人とも命を落とします」
数秒の沈黙。純増は真顔で聞いていた。
そして、、「……打っていい?」
店員は頭を抱えた。
「まだ、開店前です。持ち手が戦闘中でなければ遊技は開始できません。先程、お客様をスキャンさせて頂いたので、次回来店時は内装も変わっています」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」純増は膝から崩れ落ちる。「なんだよそれぇぇぇ!打たせろよぉぉぉ!」
店員の額に青筋が浮かぶ。
「……キモっ」「えっ?キモ?キモって言った?」
「閉店時間です。」「えっ?」
「もう、お帰りください」蛍の光がVR世界に流れる。
「やめろ!こんな音楽流すな…いや、まだ、、」
「とっとと早く戻れ、このカス!!」
ドゴォッ!!見事な回し蹴りが純増の腹へ突き刺さった。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!!打たせてぇぇぇ!!」
◇◇◇
目を開けると、宿の部屋だった。
「いててて……」目の前に女神が腕を組んで立っている。
「どうです?剣の使い方、分かりましたか?」
純増はゆっくり立ち上がる。
そして、ジュリナの前まで歩いた。
そっと、剣と手を差し出す。
「……ジュリナ」彼女は不思議そうに見上げる。
「俺とこの剣で戦ってくれ。頼む」深々と頭を下げた。
ジュリナは一瞬だけ目を丸くした。
そして、ふわりと微笑む。
「はい!ご主人様の望むままに」
彼女はその手と剣を握り返した。
その瞬間、女神は小さく笑い、歪みの中に入って行った。
「ふぅ、ようやく本当のスタートですね。私は帰ります。後はお二人で旅をして下さい。……どんな旅になることやら…ふふふ」
続
読んで頂きありがとうございます。気が向いたらでいいのでブックマーク、評価、感想などよろしくお願いします。毎日0時30分更新予定です。




