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勇者になれなくても世界を救う  作者: 久瑠美 雷華
第四章 新たな旅への序章
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第五十話 少しずつ変わる村

 魔族の村へ滞在するようになって、数日が過ぎた。


 最初の頃。


 村の空気は、決して穏やかとは言えなかった。


 特にカインへ向けられる視線は強い。


 人間。


 その存在だけで、警戒される。


 カイン自身も、それを理解していた。


 だからこそ。


「……何か、できることありませんか」


 彼は、毎日のように村人へ声を掛けていた。


 


「おーいラグナ!そっち持ってくれ!」


「おう!」


 畑では、ラグナが大きな荷車を押していた。


 重たい土袋を軽々運ぶ姿に、魔族たちも少し驚いている。


「人間なのに力あるな……」


「鍛えてるからな!」


 ラグナは笑いながら土袋を担ぎ上げた。


 その横で。


 カインは木箱の前に座り込み、種を分けていた。


 細かな作業。


 怪我の残る身体でも、なんとかできる役割。


「これは乾燥させた方がいいと思います」


 村人の一人が怪訝そうに見る。


「なぜだ」


「湿気ると芽が弱くなるので……」


 カインは少し緊張しながら説明する。


「人間の村では、土に灰を混ぜたりもしてました」


 村人たちは顔を見合わせた。


 半信半疑。


 だが、完全には無視しない。


 村長が言っていた。


『様子を見る』と。


 だから皆、少しだけ耳を貸していた。


 


 別の日。


 カインは壊れた農具を前にしていた。


 柄の折れた鍬。


「これ……直せるのか?」


 魔族の老人が聞く。


 カインは頷いた。


「たぶん」


 木を削り、紐を締め直す。


 慣れた手つきだった。


「昔、村でやってたので」


 しばらくして。


 修理された鍬を老人へ返す。


 老人は恐る恐る握り――


 目を見開いた。


「……使える」


 カインは少し安心したように笑った。


 その時だった。


「ねぇ」


 小さな声。


 振り返ると、魔族の子どもが立っていた。


 以前なら、人間であるカインへ近づこうともしなかった子だ。


 子どもは、おずおずと聞く。


「それ、どうやって直したの?」


 カインは少し驚く。


 そして、優しく笑った。


「見る?」


 子どもは小さく頷く。


 その日から。


 少しずつ、子どもたちがカインの周りへ集まり始めた。


 挿絵(By みてみん)


「うわぁ……」


 エルのハープの音色が、村へ広がる。


 村の広場。


 子どもたちと老人たちが集まっていた。


 フィリアも、その隣で小さな笛を吹いている。


 柔らかな音。


 争いとは無縁の時間だった。


「エルって、ほんとすごいわね」


 フィリアが呟く。


 エルは苦笑する。


「歌うことしかできないだけよ」


「そんなことない」


 フィリアは静かに言った。


「みんな、安心した顔してる」


 実際。


 村の空気は、以前より少しだけ柔らかくなっていた。


 挿絵(By みてみん)


 村の外。


 結界を抜けた森。


 ルミナスとリオンは、食料を探す魔族たちの護衛をしていた。


 ガサリ。


 茂みが揺れる。


 ルミナスが即座に前へ出る。


 現れたのは、小型の狼型魔物。


 唸り声。


 だが。


 ルミナスは剣を抜かない。


 地面を蹴る。


 一瞬で距離を詰め、その顎を打ち上げる。


 魔物がよろめく。


 その隙にリオンが光を放った。


 淡い光。


 魔物は怯えたように後退し、そのまま森の奥へ逃げていく。


 戦いは、一瞬だった。


 護衛していた魔族たちが息を呑む。


「……勇者」


 小さな呟き。


 ルミナスは静かに剣を収めた。


「大丈夫ですか?」


 その言葉に、魔族たちは小さく頷く。


 最初は距離のあった彼らも。


 少しずつ、ルミナスたちへ話しかけるようになっていた。


 


 夕方。


 畑仕事を終えたラグナが、小屋の外へ座り込む。


「つっかれたぁ……」


「お疲れ様」


 フィリアが水を渡す。


 ラグナは一気に飲み干した。


 その時。


 少し離れた場所で、子どもたちの笑い声が響く。


 視線を向ける。


 そこには。


 子どもたちに囲まれながら、農具の修理を教えるカインの姿があった。


 ぎこちない。


 でも、楽しそうだった。


 ラグナは小さく笑う。


「……馴染んできたな」


 フィリアも、その光景を見つめていた。


 目が、少し潤んでいる。


「うん……」


 小さな返事。


 ずっと怖かった。


 拒絶されると思っていた。


 けれど。


 ほんの少しずつ。


 村は変わり始めていた。


 その時。


 後ろから声がする。


「……フィリア」


 振り返る。


 そこには、村長が立っていた。


 フィリアの表情が少し強張る。


 だが。


 村長は、カインと子どもたちを見る。


 しばらく黙って。


 それから、小さく呟いた。


「……変な人間じゃな」


 ラグナが吹き出した。


「それはそう」


 フィリアも、思わず笑ってしまう。


 村長はそんな二人を見て、小さく息を吐いた。


 まだ、完全ではない。


 不安も、恐れも残っている。


 それでも。


 この村は今。


 ほんの少しだけ、前へ進み始めていた。

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