第四十一話 再び魔王城へ
王都へ辿り着いた頃には、空は夕暮れに染まり始めていた。
赤い光が石畳を長く照らしている。
行き交う人々の間を、四人は静かに歩いていた。
以前ここへ来た時よりも、ルミナスは多くの視線を受けている。
白い肌。
長い金髪。
そして、以前よりもずっと落ち着いた空気。
誰もが無意識に目を向けてしまう。
だがルミナスは、もう戸惑わなかった。
真っ直ぐ前を見て歩いている。
王城へ到着すると、兵士たちがすぐに道を開けた。
「勇者様」
以前よりも深い礼。
その呼び方に、ルミナスはまだ少しだけ慣れない。
だが否定もしなかった。
玉座の間。
巨大な扉が開く。
王は、静かに彼らを待っていた。
「……戻ったか」
低く落ち着いた声。
ラグナが軽く手を上げる。
「おう」
王は四人を見る。
その視線が、最後にルミナスで止まった。
「決めたのだな」
問い。
短い一言。
だが、その意味は重い。
ルミナスは静かに頷いた。
「はい」
王座の間が静まり返る。
「私は、もう一度魔王城へ向かいます」
「魔王ナタージャと、話をしに」
王は何も言わない。
ただ、その目で続きを待っている。
ルミナスは続ける。
「私は、多くのものを見ました」
「人間も」
「魔族も」
「争いも、悲しみも」
静かな声。
けれど迷いはない。
「だから私は、自分で選びます」
その言葉に、王の眉がわずかに動いた。
討つのか。
討たないのか。
ルミナスは、それを言わない。
だが。
王には分かった。
最初に会った時の少女ではない。
あの頃のルミナスは、“答え”を探していた。
今は違う。
自分の意志で、答えを選ぼうとしている。
王はゆっくりと目を閉じる。
そして、小さく息を吐いた。
「……そうか」
短い言葉。
だが、その声はどこか穏やかだった。
「お前の目は、以前と違う」
ルミナスは静かに王を見る。
王は玉座に深く腰掛けたまま続ける。
「ならば、もう余計な言葉は要るまい」
少しだけ笑う。
「行ってこい」
「お前たちの選択を、見届けよう」
ラグナがニッと笑った。
「おう!」
エルは胸に手を当て、小さく礼をする。
リオンも深く頭を下げた。
ルミナスは最後に静かに頷く。
「……はい」
夜。
四人は再び、魔王城への道を歩いていた。
遠くに見える巨大な黒い影。
空へ突き刺さるような城。
以前ここへ来た時より、不思議と恐怖は薄かった。
代わりにあるのは、静かな緊張。
ルミナスは城を見上げる。
「……来ましたね」
ラグナが剣を肩に担ぐ。
「今度は止められねぇな」
エルが苦笑する。
「最初から止まる気なかったでしょ」
リオンはロザリオを握り直した。
「……行こう」
魔王城の門は、静かに開いていた。
まるで待っていたみたいに。
四人は中へ入る。
その瞬間。
空気が変わる。
冷たい。
けれど、殺気はない。
城内には、魔族たちがいた。
以前と同じように。
広間にも。
廊下にも。
武器を持った魔族たちが倒れている。
いや。
眠っている。
「……今回も寝かされてるのかな」
リオンが呟く。
「来ることが分かってたんだろうな」
ラグナは慣れた様子で先を進む。
魔族たちは穏やかな顔で眠っていた。
苦しそうではない。
まるで、ただ静かな夢を見ているみたいだった。
ルミナスはその横をゆっくり歩く。
敵ではない。
守るべき存在。
もう、その認識は揺らがない。
長い廊下を進む。
大扉が見えてくる。
以前も辿り着いた、最奥。
空気が重くなる。
ラグナが剣の柄を握る。
リオンが息を飲む。
エルは静かにハープを抱きしめた。
ルミナスだけが、まっすぐ前を見ていた。
大扉が、ゆっくりと開く。
広い玉座の間。
赤い絨毯。
高い天井。
そして。
その最奥。
玉座に座る、一人の女。
長い黒髪。
妖艶な紅い瞳。
五百年を生きた魔王。
ナタージャ。
彼女は静かに四人を見下ろしていた。
そして。
ルミナスを見た瞬間。
ほんの少しだけ、目を細める。
「……来たか」
静かな声。
だが、その響きだけで空気が揺れる。
ルミナスは一歩前へ出た。
ナタージャを見つめ返す。
もう、逃げない。
そして魔王は、ゆっくりと笑った。
「なるほど」
「その目……ようやく答えを見つけたようじゃな」
魔王と勇者が目を合わせる。
勇者の目に迷いは感じられなかった。




