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勇者になれなくても世界を救う  作者: 久瑠美 雷華
第三章 ルミナスの旅路
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第三十八話 壊さずに守るために

挿絵(By みてみん)


 村の外れ。


 小さな森の中。


 木漏れ日が揺れていた。


 葉の擦れる音と、遠くで流れる川の音だけが静かに響いている。


 ラグナは大木にもたれ、剣を地面に立てていた。


 エルは草の上に寝転がり、ハープをぽろん、と鳴らしている。


 リオンは近くの切り株に座り、ロザリオを指で弄っていた。


 そして。


 ルミナスは、少し離れた場所で空を見上げていた。


 風が金髪を揺らす。


 長い髪が、陽の光を受けて淡く光っていた。


「……静かですね」


 ルミナスが呟く。


「だな」


 ラグナが答える。


「この森、昔からこんな感じなんだよ」


「ラグナが剣ぶん回してた場所だけどね」


 エルがくすっと笑う。


「うるせぇな」


「木とかいっぱい斬ってそう」


「斬ってねぇ!」


「ほんとに?」


「ほんとだって!」


 リオンが小さく笑う。


 穏やかな時間だった。


 旅の途中とは思えないくらい。


 戦いも。


 争いも。


 魔王も。


 全部、遠く感じるほどに。


 その中で。


 ラグナが、ふと口を開いた。


「……なぁ、ルミナス」


 ルミナスが振り向く。


「はい」


 ラグナは少しだけ視線を逸らした。


 珍しく、言葉を選ぶみたいに。


「どうするか、決まったか?」


 風が吹く。


 葉が揺れる。


 その問いの意味を、全員が分かっていた。


 いずれ。


 自分たちは、再び魔王城へ行く。


 そして。


 ナタージャと向き合う。


 討つのか。


 討たないのか。


 ルミナスは、すぐには答えなかった。


 静かに目を閉じる。


 浮かぶのは、これまで出会った人たち。


 優しかった者。


 傷ついていた者。


 間違えた者。


 それでも、生きていた者。


 ――リオン。


 死霊を憎まず、助けようとした少年。


 壊れてしまった父親を見てもなお、“救いたい”を選んだ。


 ――エル。


 傷つけることが怖くて、矢を外し続けていた少女。


 それでも誰かを守りたくて、歌い続けている。


 ――ラグナ。


 何も覚えていないのに。


 それでも何かに突き動かされるように剣を振り続けた少年。


 誰かを守れる勇者になりたいと、まっすぐ願った。


 そして。


 魔族たち。


 ルナ。


 人間と共に生きていた魔族の女。


 争いを望まない者たち。


 人間と変わらない笑顔。


 人間と変わらない涙。


 ナタージャの言葉も思い出す。


『魔族も、人間も、変わらぬ』


 500年を生きた魔王。


 その目は、諦めているようで。


 それでも、どこか願っているようだった。


 ルミナスは、ゆっくり目を開く。


 その淡青の瞳は、まっすぐ前を見ていた。


「……私は」


 小さな声。


 けれど、迷いはない。


「最初は、分かりませんでした」


 風が髪を揺らす。


「魔王を倒すことが、“正しい”のだと思っていました」


 ラグナたちは黙って聞いている。


「ですが」


 ルミナスは続ける。


「旅をして、知りました」


「皆、違う考えを持っていて」


「皆、傷ついていて」


「それでも、大切なものを守ろうとしていることを」


 エルが静かに起き上がる。


 リオンも顔を上げる。


 ルミナスは胸元で手を握った。


「私は……」


 その声は、少しだけ震えていた。


 けれど。


 逃げなかった。


「壊したくありません」


「人間も」


「魔族も」


「誰かの想いも」


「帰る場所も」


 一歩、前へ出る。


「全部を守りたい」


 それは、綺麗事だった。


 きっと難しい。


 きっと、無理だと笑う者もいる。


 だが。


 ルミナスは、まっすぐに言った。


「壊さずに、全てを守りたいです」


 森が静まる。


 葉の音だけが揺れていた。


 ラグナは、しばらく黙っていた。


 それから。


 ふっと笑う。


「……そっか」


 短い言葉。


 だが、その顔はどこか嬉しそうだった。


「なら、やること決まったな」


 剣を掴み、立ち上がる。


 エルも笑った。


「難しそうねぇ」


「でも、嫌いじゃないわ」


 リオンも小さく頷く。


「僕も……守りたい」


「助けたいんだ」


 ラグナは三人を見る。


 そして。


 ニッと笑った。


「よし!」


 剣を肩に担ぐ。


「じゃあ行くか!」


「どこへ?」


 エルが聞く。


 ラグナは当然みたいに答えた。


「魔王城!」


 風が吹き抜ける。


 木々がざわめく。


 まるで森そのものが、彼らの旅立ちを見送っているみたいだった。


 ルミナスは空を見上げる。


 遠い空の向こう。


 黒い影のようにそびえる、魔王城。


 そこにはきっと。


 答えが待っている。


 壊すためではなく。


 守るために。


 四人は再び、歩き出した。

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