表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者になれなくても世界を救う  作者: 久瑠美 雷華
第三章 ルミナスの旅路
PR
35/75

第三十四話 眠らない城

挿絵(By みてみん)

森を抜け、さらに進むと――


景色は、ゆっくりと色を失っていく。


草は短く、木々はまばらになり。


やがて現れるのは、崩れかけた石の壁。


「……ここ、か」


ラグナが呟く。


目の前には、朽ちた城。


かつては人が行き交い、声が響いていたであろう場所。


今はただ、静かに“残っている”。


「……ここが」


エルの声は、少し震えていた。


「リオンの……」


「うん」


リオンは短く頷く。


その表情は、いつもと変わらない。


けれど――


どこか、静かすぎた。


門へと近づく。


そこには、一体の死霊。


大きな体。


鎧は崩れ、ところどころ透けている。


膝を立てて座り込み、俯いたまま動かない。


初めて見た者には、“置かれたままの亡骸”にも見える。


エルが、ぎゅっとルミナスの袖を掴む。


「……こ、怖い……」


ルミナスは動じない。


ただ、観察している。


「……死霊です」


淡々とした声。


ラグナは、門の前で足を止めた。


そして。


「……よう」


軽く、声をかける。


それだけ。


それだけなのに――


死霊の手が、ゆっくりと上がる。


顔は上げない。


言葉もない。


ただ、通せ、と言うように。


ラグナは軽く顎を引いた。


「行くぞ」


四人は門をくぐる。


その瞬間。


空気が変わる。


冷たいわけではない。


だが、“止まっている”ような空気。


時間が、ここだけ足踏みしている。


城の中へ。


足音がやけに響く。


石の床。


崩れた柱。


そして――


あちこちに、死霊。


立っている者。


壁にもたれている者。


座り込んでいる者。


だが。


誰も、動かない。


こちらを見ている者もいる。


けれど、襲ってくる気配はない。


エルが小さく呟く。


「……なんで、襲ってこないの……?」


リオンが、少しだけ振り返る。


「僕がいるから」


その一言。


短い。


けれど、確かな理由。


エルはそれ以上何も言えず、ただ頷いた。


ラグナは、前を見たまま歩く。


慣れている。


ルミナスは、その様子を観察していた。


死霊。


敵意のない存在。


そして、それを抑えるリオン。


「……興味深いですね」


小さく、呟く。


やがて。


城の奥。


崩れた廊下を抜けた先。


開けた場所に出る。


そこは、庭園だった。


手入れはされていない。


草は伸び、石は崩れ、水は枯れている。


だが――


どこか、形だけは残っている。


そして、その奥。


ぽつんと、一つの墓。


リオンが、足を止める。


「……ここ」


静かな声。


三人は、何も言わずに後ろで止まる。


リオンはゆっくりと歩き出し、墓の前にしゃがみ込んだ。


手を合わせる。


目を閉じる。


風が、わずかに吹く。


言葉は、聞こえない。


けれど――


伝えていることは、分かる。


“生きていること”


“ここに来たこと”


“仲間がいること”


時間が、ゆっくりと流れる。


ラグナは腕を組み、少し離れて立つ。


エルは静かに見守り、ルミナスはその姿をじっと見つめている。


やがて。


リオンが目を開けた。


「……行こうか」


振り返る。


その顔は、いつもと同じ。


けれど、ほんの少しだけ軽くなっていた。


――


城の中を戻る。


途中、比較的崩れていない一室に入る。


壁は残り、屋根も落ちていない。


風も、直接は入ってこない。


「……ここなら、休めそうだな」


ラグナが言う。


「うん」


リオンが頷く。


エルはほっとしたようにその場に座り込む。


「……怖かったぁ……」


本音が漏れる。


ラグナが軽く笑う。


「顔に出てたぞ」


「出るよ!」


エルが抗議する。


そのやり取りに、少しだけ空気が戻る。


ルミナスは、部屋の中を見渡す。


静かな空間。


死霊の気配は、ここには薄い。


「……ここは、安全です」


確認するように言う。


リオンが小さく頷く。


「うん。ここは……昔、使ってた部屋だから」


その言葉に、ラグナがちらりと見る。


だが、何も聞かない。


まだ、その時ではないと分かっている。


四人はそれぞれ、腰を下ろす。


静かな休息。


外とは違う、止まった時間の中で。


リオンは、少しだけ視線を落とした。


そして。


小さく、息を吐く。


――次に語るべきものがあると、


自分でも分かっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ