表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者になれなくても世界を救う  作者: 久瑠美 雷華
第三章 ルミナスの旅路
PR
30/75

第二十九話 再会の音

挿絵(By みてみん)


 森の入り口は、変わらずそこにあった。


 けれど――


 初めて立つ者にとっては、明らかに“異なる場所”。


「……ここ、ですか」


 ルミナスが静かに呟く。


 空気が重い。

 肌に触れる温度が、わずかに違う。


 見えない境界が、確かにそこにある。


 リオンがやわらかく答える。


「うん。この先が魔族の森だよ」


「……そう、ですか」


 ルミナスは小さく頷いた。


 その横で、ラグナは森の奥を見据えている。

 迷いも、躊躇いもない視線。


 エルは一歩前に出て、くるりと振り返った。


「ここでね、ちょっと待ち合わせ!」


「……待ち合わせ、ですか?」


 ルミナスは首を傾げる。


「どなたと?」


 ラグナが短く言う。


「来りゃ分かる」


「……教えては、いただけないのですね」


 わずかに間を置いて、そう返す。


 リオンも、ただ微笑むだけ。


「きっと、すぐだよ」


 三人とも、詳しくは語らない。


 その態度に、ルミナスはほんのわずかに考え込む。


 ――隠している。


 だが、敵意はない。


 むしろ、どこか楽しみにしているような。


「……よくわかりませんね」


 小さく、独り言のように呟く。


 エルは気にした様子もなく、ハープを構えた。


「じゃあ、呼ぶね」


 指先が弦に触れる。


 一音。


 澄んだ音が、森へと流れていく。


 ルミナスの瞳が、わずかに揺れる。


「……音で、呼ぶのですか」


「うん。約束だから」


 旋律が続く。


 風に乗り、奥へと伸びていく音。


 ラグナが低く言う。


「来る」


 断定だった。


 リオンも頷く。


「うん、きっと」


 ルミナスは三人を見た。


 疑いのない表情。


 根拠よりも、“信じている”という感覚。


 ――非合理的です。


 そう思う。


 だが同時に――


 どこかで、似たものを見た気がした。


 思考が、わずかに過去へ触れる。


 人間の男と、魔族の女。


 あの時も――


 理解できない距離で、二人は並んでいた。


 敵対するはずの存在が、


 まるで当然のように言葉を交わしていた。


 あの時感じた、名の付けられない違和感。


 それと、同じものが――


 今、目の前にある。


「……また、ですか」


 小さく、呟く。


 そのとき。


「……!」


 ルミナスが、気配を捉える。


 速い。


 一直線に、こちらへ向かってくる。


「来ます」


 静かに告げる。


 だがラグナは動かない。


「分かってる」


 むしろ、わずかに口元が緩む。


 次の瞬間。


 草をかき分け、小さな影が飛び出した。


「――っ」


 ルミナスの目が細まる。


 感じる気配。


 ――魔族。


 しかも、子ども。


 警戒が走る。


 だが――


「……来たか」


 ラグナの声は、驚くほど自然だった。


 影が止まる。


 息を整えながら、顔を上げる。


「……はぁ……っ」


 そして。


「……来たよ」


 まるで、約束の続きを告げるように。


 ルミナスの思考が、一瞬止まる。


 リオンが前に出る。


「ルナ」


 名を呼ぶ。


 ルナは、嬉しそうに頷いた。


「うん」


 エルが駆け寄る。


「ほんとに来てくれたんだ!」


「音、聞こえたから」


 自然な会話。


 ためらいのない距離。


 ラグナが軽く言う。


「遅ぇ」


「走ってきたんだけど」


「見りゃ分かる」


 そのやり取りに、空気の壁は存在しない。


 ルミナスは、それを見つめる。


 ――魔族です。


 間違いなく。


 それでも、三人は構えていない。


 敵としても、異物としても扱っていない。


「……どういう、関係なのですか」


 思わず、口にする。


 ルナの視線が向く。


 一瞬の警戒。


 だが、リオンがやわらかく言う。


「大丈夫だよ」


「この子はルミナス。僕たちの仲間なんだ」


「……仲間」


 ルナは、ルミナスをじっと見る。


 それから、小さく頷いた。


「……そうなんだ」


 簡潔な受け入れ。


 ラグナが続ける。


「前に助けた」


「それで、また会う約束した」


 それだけ。


 説明は、最小限。


 だが、それで十分だと言わんばかり。


 ルミナスは沈黙する。


 ――やはり、同じです。


 あの時と。


 理屈では説明できない関係。


 敵対の前提を、簡単に飛び越える繋がり。


 エルが笑う。


「ちゃんと来てくれて嬉しい!」


 ルナも、少しだけ笑う。


「……うん」


 その光景を見て。


 ルミナスの胸に、わずかな揺らぎが生まれる。


 否定はできない。


 だが、理解もできない。


「……魔族は」


 思わず、言葉が漏れかけて――


 止まる。


 “敵”と断じるには、


 目の前の存在はあまりにも静かで、


 穏やかだった。


 風が吹く。


 森の境界で、


 人間と魔族が並んで立つ。


 ルミナスは、その光景から目を離さない。


 そして、静かに思う。


 ――私の認識は、不完全なのでしょうか。


 答えは出ない。


 けれど。


 あの時と同じ違和感が、


 今度は、はっきりと形を持ち始めていた。


 ルミナスはゆっくりとルナを見る。


 その視線は、先ほどよりもわずかに深い。


 観察するように。


 確かめるように。


 そして――ほんの少しだけ、


 理解しようとするように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ