表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者になれなくても世界を救う  作者: 久瑠美 雷華
第二章 魔王と勇者
23/24

第二十二話 王の前で明かされるもの

 王城は、王都の中心に静かにそびえていた。

 白い石で積まれた壁は、街の喧騒とはどこか違う“重み”を纏っている。


 広場の賑やかさが嘘のように、門をくぐった瞬間、空気が引き締まった。


「……やっぱ、ちょっと緊張するな」


 ラグナがぽつりと漏らす。


「さっきまでパン食べてた人の台詞じゃないよね、それ」


 エルが小声で笑う。


 リオンは静かに辺りを見回していた。


「でも、ちゃんと報告しないとね」


 ルミナスは何も言わず、ただ城の奥を見つめている。

 その瞳は、街を見ていた時とは違う、少し硬い光を帯びていた。


 やがて、謁見の間へと通される。


 大きな扉が開くと、広い空間が現れる。

 高い天井、整然と並ぶ柱、そして奥にある玉座。


 そこに座るのが、この国の王だった。


 年を重ねた男。

 だがその目は鋭く、ただ者ではないことを静かに語っている。


「……よく戻ったな」


 低く、落ち着いた声が響く。


 ラグナが一歩前に出て、軽く頭を下げた。


「約束通り、報告に来た」


 王はゆっくりと頷く。


「――下がれ」


 王の一言で、側近たちは迷いなく退出する。

 やがて謁見の間には、四人と王だけが残された。


 空気が変わる。


「……さて」


 王は玉座に腰掛けたまま、ラグナたちを見据えた。


「魔王ナタージャと接触したとの報告、確かに受け取っている」


「詳細を聞かせてもらおう」


 ラグナが一歩前に出る。


「戦いにはならなかった」


 その言葉に、王の目がわずかに細められる。


「ほう」


「魔族たちは眠らされていた。あの魔王がやったことだ」


「我らを迎え入れるため、か」


「……たぶんな」


 ラグナは短く答える。


 リオンが静かに続けた。


「ナタージャは……僕たちと話をしました」


「人と魔族のこと、そして――」


 言葉を区切る。


「 “どう在るべきか”を問いかけてきました」


 王は興味深そうに頷く。


「問い、か」


 エルが肩をすくめる。


「戦う気ゼロってわけじゃなかったけどね」


「でも、 “試されてる”感じはあったかな」


 ラグナは小さく息を吐く。


「……最後に、これだ」


 視線がルミナスへ向けられる。


 王もまた、その存在を改めて見つめた。


 白い肌。金の髪。

 そして、どこか人ならざる静けさ。


「名は」


「……ルミナスです」


 少女は、自分の言葉で答える。


 王はわずかに目を細めた。


「その娘が、魔王の手によって?」


「……ああ」


 ラグナが頷く。


「目の前で“生み出された”」


 その言葉に、さすがの王も一瞬だけ沈黙した。


「……勇者、と言っていたか」


 リオンが小さく頷く。


「はい」


「ナタージャは、この子を“勇者”だと」


 王はルミナスを見つめたまま問う。


「そなたは、自覚しているのか」


 ルミナスは少し考え――


 首を横に振った。


「……分かりません」


「ですが」


 小さく息を吸う。


「私は、知りたいと思っています」


 その答えに、王は静かに頷いた。


「よい」


 短い肯定。


 そして視線をラグナへ戻す。


「魔王は、なぜその娘を託した」


「……はっきりとは言わなかった」


 ラグナは正直に答える。


「ただ――」


 あの時の光景が脳裏をよぎる。


「育てろ、って感じでもなかった」


 エルが言葉を拾う。


「外を見せろ、ってニュアンスだったよね」


 リオンも頷く。


「はい。世界を知ることを望んでいるようでした」


 王は深く考え込む。


「……不可解だな」


「魔王自らが“勇者”を生み、人に託すとは」


 その声には、疑念と――わずかな関心が混じっていた。


「罠の可能性は?」


「ある」


 ラグナは即答する。


「でも」


 視線をルミナスへ向ける。


「それでも、あそこに置いてくる選択はなかった」


 その言葉は、迷いがなかった。


 王はその表情をじっと見つめ――


 やがて小さく息を吐く。


「……なるほど」


 ゆっくりと立ち上がる。


 玉座の段を降り、一歩ずつ近づく。


 その威圧感に、空気がわずかに張り詰める。


 ルミナスの前で足を止める。


「ルミナス」


「はい」


「そなたは、何を望む」


 突然の問い。


 ルミナスは、ほんの一瞬だけ迷い――


「……まだ、分かりません」


 正直に答える。


「ですが」


 顔を上げる。


「見て、知って、考えたいです」


 王はその瞳をじっと見つめた。


 やがて。


「……よい」


 再び、その言葉を口にする。


 そして側に置かれていた箱を開く。


 中には、白を基調とした装備一式。


「これを持て」


 リオンが目を見開く。


「王様……」


「勇者であるか否かは問題ではない」


 王は静かに言う。


「その娘は、もはや無関係ではいられぬ存在だ」


 ラグナが腕を組む。


「……いいのかよ」


「正体も、目的もはっきりしてねぇ」


 王はわずかに口元を緩めた。


「だからこそだ」


「何も持たぬまま放り出す方が無責任というもの」


 エルがくすっと笑う。


「話の分かる王様で助かるね」


「褒め言葉として受け取っておこう」


 わずかに柔らぐ空気。


 だが王の視線は再び鋭さを帯びる。


「ラグナ」


「……ああ」


「その娘を連れて旅を続けるのだな」


「そうなるな」


「ならば、その責はそなたにある」


 まっすぐな言葉。


 ラグナは迷わず頷いた。


「分かってる」


 王はゆっくりと振り返る。


 玉座へ戻りながら言う。


「そなたらの報告、そして判断」


「王として認める」


 その言葉は、重く、しかし確かな許可だった。


 リオンが深く頭を下げる。


「ありがとうございます」


 エルも軽く手を振る。


「遠慮なく使わせてもらうよ」


 ルミナスは装備を見つめ――


 そして静かに頭を下げた。


「……ありがとうございます」


 王はその姿を見て、小さく頷く。


「行くがよい」


「魔王が何を考えているか――」


 一瞬、言葉を切る。


「いずれ、見えてくるだろう」


 扉が開く。


 外の光が差し込む。


 四人は振り返らず、歩き出した。


 魔王の願いの意味も、

 “勇者”という言葉の本質も――


 まだ知らぬまま。


 だが、その背には確かに何かが託されていた。


 王はその姿を、静かに見送る。


 まるで――

 未来の行方を測るように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ