↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/117

第十二話 壊さず戦う方法

2026.10.12改訂しました

 木の実を届けて受け取った旅銀は、小袋の底を少しだけ重くした。


 翌朝、三人は食料を買い足したあと、市場の一角で足を止めた。

 店先には布や革の切れ端、紐、小さな袋が並んでいる。


 エルが端切れを一枚持ち上げた。


「これ、どうかな。今の布より丈夫そう」


 ラグナも隣から覗き込む。


「厚すぎると重くなるぞ。昨日の枝、持ってるか?」


「うん」


 エルは荷物から、先を丸く削った枝を取り出した。

 焚き火を囲みながら三人で眺めた、あの枝だった。


 布を重ね、大きさを見比べる。


 リオンは別の端切れを手に取った。


「こっちは軽いね。包むものによって、変えてみたら?」


「ああ。何種類か試そう」


 ラグナは残った硬貨を数えた。


 すべてを買えるほどの余裕はない。

 三人は材料を選び直し、必要な分だけ店主へ渡した。


 続いて立ち寄った店では、獣から身を隠すために使うという、目隠し用の粉を見せてもらった。


 白い粉の入った包みを、エルが慎重に受け取る。


「これを矢で届けられたら、近付かなくても使えるね」


「ただ、風があると流れちゃうよね」


 リオンが言う。


「俺たちの方が見えなくなったら困るな」


 ラグナも頷いた。


 三人は使い方を聞いてから、小さな包みをひとつだけ買った。


 町外れに、弓の練習に使われている場所があった。


 許可をもらい、古い的の前へ材料を広げる。

 的の向こうには土手があり、人の通る道からも離れていた。


 ラグナはエルの矢を一本手に取った。


「今度は、鏃を残したまま被せるのはやめよう」


 取り外した金属の先を、布の上へ置く。


 その横に、エルが拾ってきた古い矢と、買った材料を並べた。

 リオンも腰を下ろし、使うものを三人の手が届く場所へ分けていく。


 初めに作ったのは、柔らかな詰め物を布で包んだ、丸い先端の矢だった。


 エルは受け取ると、手の中で重さを確かめた。


「……ちょっと、前が重い」


「飛ばしてみるか」


 二人が下がったのを見て、エルが弓を構える。


 矢は的へ向かった。

 けれど途中から大きく下がり、手前の地面へ落ちた。


 三人の目が、矢を追って下を向く。


「……届かなかったね」


 リオンが言った。


「うん。いつもの感じで射つと、全然違う」


 エルは矢を拾い、先端に付いた土を払った。


 ラグナが手を差し出す。


「少し軽くしてみよう」


 作り直した矢は、今度は的まで届いた。


 鈍い音を立てて当たり、その下へ落ちる。

 エルはすぐに駆け寄った。


 木が裂けた様子はなかった。

 けれど、当たった場所には浅い跡が残っている。


「……これでも、結構強いんだね」


 指先で跡をなぞる。


 ラグナも隣へ立った。


「ああ。当たれば痛いと思う」


 エルは頷いた。


 先を丸くしたからといって、何にでも気軽に当てられるわけではない。


 それでも、刺さる矢とは違う使い方ができる。

 的から矢へ視線を移し、エルはもう一度、握り直した。


「飛び方、覚えたい。もう少しやっていい?」


「もちろん」


 リオンが、拾った矢を差し出した。


 次に試したのは、粉を運ぶための矢だった。


 丸い先端を的へ当て、中身を広げる。


 考えていたときは簡単そうだった。

 だが、初めの一本は当たっても開かず、そのまま地面に落ちた。


「……丈夫すぎたか」


 ラグナが拾い上げる。


 作り直した次の一本は、飛んでいる途中で白い粉をこぼした。


「あっ!」


 細い白い筋を引きながら飛び、的の手前へ落ちる。


 エルは弓を下ろした。


「今度は、早すぎたね」


「間が欲しいんだけどな……」


 ラグナが頭をかく。

 リオンは残った材料を見比べ、口を開いた。


「一度に全部変えない方が、何が違ったか分かるんじゃない?」


 二人が彼を見る。


「同じ形で、包むものだけ変えてみるとか」


「……そうだな」


 ラグナは広げていた材料を寄せた。


 三人は一本ずつ、飛んだ距離と当たったあとの様子を確かめていった。


 エルが射つ。

 ラグナが先端を見て、リオンが前の矢と比べる。


 やがて、的に当たった一本から、白い粉がふわりと広がった。


 的の中心が、薄く隠れる。


「……できた」


 エルが呟いた。


 けれど、その白さは風に押され、すぐに横へ流れた。


「長くは隠せないね」


 リオンの言葉に、ラグナが頷く。


「でも、一瞬見えなくなれば、その間に動ける」


「じゃあ、射つ前に言うね。二人が近くにいたら使わない」


 エルは的のそばへ歩き、残った粉の跡を見た。


 当てて終わりではない。

 そこから仲間がどう動くかまで、考えなければならなかった。


 日が傾く頃、三人は地面に残った布や矢を拾い終えた。


 使えそうなものは、まだ数本しかない。

 形も重さも、完全には揃わなかった。


 それでもエルは、一本ずつ確かめて矢筒へ収めた。


「……これなら、やってみたい」


 ラグナが顔を上げる。


「いきなり全部うまくいくとは限らないぞ」


「分かってる。今日、いっぱい失敗したもん」


 エルは少し笑った。


「だから、まず一本ずつ」


 リオンが頷き、空になった材料の包みを畳んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。