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月光が照らす君が割ったのはアヤカシ者か俺の心臓か〜ありきたりな現代奇譚〜  作者: 貝月 恵芙


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第二十七話 ここにいるんですけど?

「信長さんにはいるんですか?」

佐藤さんのパエリアを堪能した次の日、奏は鬼頭の家で偶然信長に会った。

会いたいと思っていたし、会って話さないといけないとも思っていたから好都合だった。

「何?」

鈴葉とさた話を花火にしたのと同じように信長さんにも伝えた。

信長さんは特に何も言うことなく優しく笑った。

その笑顔で自分のしたことが正しかったとわかった気がしたから不思議だ。

この人に惹きつけられる理由がやはりわからない。

そんなふうになにも言わないから奏は気になったことを聞いてみた。

「使役霊です。信長さんにもいるのかなと思って。」

あぁと興味のなさそうな声が返ってきた。

もしかしてダメな質問だったかな。

「俺にはない。」

冷たい声。鈴葉とは違うが似た響きをしている。

「すまんな。役にたたんで。」

「あ。いえ。なんかおれもすいません。余計なこと聞いたみたいで。」

明らかに落ち込んだ。そして、その声は素直にそれを表現してしまったらしい。

「いや。俺が悪いな。すまん。お前にこんな言い方してもしょうがないんだよ。」

信長さんの声色はすぐに元に戻った。

「鈴葉と相模は陰陽師の家系だってことは?」

「知ってます。」

「使役霊は基本的にはその陰陽師の家系の者が使役できるものなんだ。」

「そうなんですか。」

「そう。特別の訓練とかがあるわけじゃない。それはもう魂に刻まれた遺伝みたいなもんだな。だから、それ以外のやつがもてるものじゃないんだ。」

「知らなかった。」

信長さんが今まさに言ったように訓練とかそんなので扱えるものだとばかり。

「俺はいわゆる拝み屋ってやつだからな。知ってるだろ?」

「はい。」

この手の漫画やアニメにはよく出るワードだもんな。

「でも。残念です。」

「ん?」

「おれ、ちょっと憧れてました。使役霊。」

自分にしか見えない、自分だけを守る存在。そんなの、ミーハーな言い方したらめちゃくちゃかっこいいじゃないか。絶対口には出さないけど。

「まぁ。そうだよな。」

笑い飛ばされるのかと思ってた。

「おれだって同じだった。憧れてたって表現ががっちりハマるくらい小さい頃から思ってたよ。」

遠い目になる信長さんを見て悟った。自分の努力ではどうしようもないことに打ちのめされた過去なんだこの話は。

「あんまり披露したい話じゃないけどな。寺に生まれてさ、そういう系の話をわんさか聞くんだよ。兄貴たちも親もさ。その中で使役霊の話はずっと大好きだった。特別なものだったんだよな。俺の中でいつのまにか。だってそうだろ?俺の生きてる世界と全く違う世界の話じゃなかった。俺の寺は普通のとことはちょっと違ってたから、呪いとか災とか身近にある話だった。無駄に近い世界に生きてたから余計に自分にもできるって勝手に信じちまってたんだな。」

細く、短いため息を吐く。

「だから、俺にはどうやっても使役霊を扱うことができないって知ったときのショックはな、デカすぎた。この世界から離れるつもりにもなったくらいにな。」

「そんなに?」

「あぁ。ばかだと思うだろ?でも、俺は本気だったんだよ。」

笑えるわけがない。できると信じたことがそうてなかった時の足元が崩れ落ちる経験は大きさは違えど誰にでもある。

そんなのを笑えるわけないじゃないか。

「でも戻ってきたんだ。」

何が信長さんをそうさせたんだろう。

「そうだな。なんの因果なんだか、俺にはこれしかないって。ある時思い知らされたんだよ。」

「あぁ。思い出話はここまでだ。」

信長さんの中で切り替えがされてしまったらしい。

その理由が知りたかったけど聞けずじまいだった。

「まぁそういうことだ。奏は早目に知れてよかったな。」

「うん。残念だけど。」

そういうと、奏は手元の書類に視線を戻した。

今日は久しぶりに書類整理をしていたのだ。本職はこれなのにここ数日はこの部屋にすら来れていなかった。さすがにそろそろと思いここへ直行し、作業に集中していたところへ信長さんがやってきて話が弾んでしまったという流れだ。

「お前、真面目なんだな。」

奏の仕事なりを見ながら感心した声を出した。

「真面目…ですか?」

自分ではそうは思っていなかったけど。

「こんな仕事、誰も今までやらんかったぞ。それなりにバイトたちを見てきてたけどなぁ。」

腕組みをしながら、しげしげと奏のやり遂げた書類の分類を眺める。

「こういうの嫌いじゃないんですよね。」

「そうか。いいバイトを雇ったな相模も。」

相模の名前のところにどうしても冷たさを感じてしまうのは気のせいなのだろうか。

「信長さん。」

「ん?」

なんとなく先が続けられない。

「やっぱりなんでもないです。」

「なんだよ。変なやつだな。」

奏の心をわかっているのかそれ以上突っ込んでこようとはしなかった。

「そういえば・・・。」

信長さんが話題を変えて話出そうとした時。

「痛っ・・・。」

頭が急に締め付けられるような感覚に襲われた。

「何だ・・・。」

信長さんにはこの痛みがないようだった。ただ、何かの気配を感じ取っているようで辺りを見回している。

「しまった。ついて来たのか。」

「え?ついて来た・・・って・・・。」

痛みのひかない頭が辛いが信長さんの言葉も気になる。

「すまん奏。まさかここまで来るとは。」

その言葉と共に部屋の明かりが点滅を始めた。蛍光灯が付いたり消えたりを繰り返す。

何かがこの部屋に入ってくる気配が奏にも伝わってくる。

「なんですか?何か入ってきた・・・。」

入り口のドアは閉まったまま。一体どこからこの気配はしているんだ。

「俺じゃダメなんだけどなあ。」

ため息混じりに信長さんが絶望的なセリフを吐く。

気配をだとり視線をドアとは反対側の壁に向ける。奏も自然に同じ方向を向くとそこに何かの影が張り付いていた。

「子供・・・?」

背丈からみて小学生くらいの子供に見えた。黒い影のようなものがフラフラと揺れながら浮かんでいる。

そう、地面よりも十センチくらい浮かび上がっている。

「何ですかあれ。どこから入って・・・。」

「さっきまで俺はあいつの相手をしてたんだよ。」

「相手?」

「そう。あれは霊体に見えるが死んでるわけじゃない。元の体はあるんだが中身だけがすっぽりと抜けてしまってるんだ。幽体離脱ってわかるよな。」

視線は壁から離さず奏に話しかける。

「わかります。なるほどだから死んでいるわけじゃないってこと。」

深い知識はないけどその言葉の意味するところはわかる。

「じゃああの子は病気とか?」

「さすがよく知ってるな。離脱してしてしまうのは大体眠っている時。多いのは思春期頃の女の子なんだが、この子は小学4年で男だ。」

「一体どこの子なんです?」

「この近くの病院に入院してる子でな。昨日から意識不明になってる。はっきり言ってやばい。」

声のトーンは沈んでいる。先がないってことなのだろうか。

「あんまり長くはないって医者にも言われてるそうでな。あの子の両親も覚悟はしてたらしいんだが。」

「どうして信長さんが?」

病気で意識がなくなってしまったのなら信長さんの出番ではないはずだ。

「意識の失い方がおかしいってんで呼ばれたんだよ。その病院では前に仕事したことがあったからな。体が石みたいに硬直してるって。心臓もまだ動いてるし、ただ眠っているだけなんて様子でもないからおかしいと思ったらしい。」

顎を掻きながら続ける。

「俺が見にいった時はもう離脱して時間が経っててな。あまり体から離れる時間が長いと戻れなくなる。それにこの子の体はもともと病気で弱っていたからな。すでに病室にはいないし、病院にも気配はなかったんだ。それに。」

ふうと鼻息を落とす。

「俺には生きてる幽体を何とかする力はない。俺ができることは死んでからしかない。」

やるせない声を出しながら立ち上がる。

「お前に何もしてやれないんだよ。ここに来たって俺には・・・。」

こんなにも自信を失ったような姿をした信長さんを見たのは初めてだ。

人って本当にたくさんの側面があるんだ。なんて、空気の読めないことを考えてしまった。


「やっと見つけた!!」

肩を落とす信長さんに何か声をかけようと口を開いたのとほぼ同時にバンっとドアが大きな音を立てて開かれた。

そしてさっきの声が響き渡った。

澄んだ水のような音を含んだキレのある声色で、だから余計に大きく部屋中にこだました。

「シン!こんなとこにいた!」

その人は信長さんのことをシンと呼んだ。

「翡翠・・・。なんでお前。」

目を見開く信長さんにりんはと呼ばれたその人は、

薄いグリーンとブルーが混ざったような色のワンピースをはためかせ信長さんのところまで一直線に来たかと思うと奏が見ているのもお構いなしに

「ただいま。あなた。」

そう言うと信長さんの腰に両腕を絡めつかせて抱きついた。

そばにいる幽体でさえ見えに入らなくなるほどに、その二人の光景は絵になってしまっていた。

それくらい信長さんと熱い抱擁を交わしているその人は超がつくほどに美しい人だった。

美男美女に圧倒されて奏は口が空いたままその場に棒立ちになったままだった。


場違いなおれ・・・。





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