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月光が照らす君が割ったのはアヤカシ者か俺の心臓か〜ありきたりな現代奇譚〜  作者: 貝月 恵芙


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第二十五話 黒い犬の誤算

 今日は鬼頭の家に晩ごはんを食べに行くという花火と一緒に店を出た。

 自分はどうしようかと思ったが着いて行くことにする。

 さっき花火と話をしていて、もっとこの人たちのことを知りたい自分に気がついたのだ。

 花火だけじゃない。信長さんや、犬人のことももっと知りたいとおもった。そして他にもハンターたちがいるのなら

 その人たちのことも知りたいと思う。

 自分にこんな風に感じる部分があったなんて驚きだ。どちらかというとそんなに他人に興味がないと思って生きてきたところがある。スカしているわけじゃないけど、心から他人に興味がなかったのだ。

 周りの人に距離を取られていたわけでもないのにどうしてそんな育ち方をしたのかわからない。母なんて他人に興味がありすぎて困るくらいなのに。

「それを見すぎてるんじゃない?」

 花火は奏の疑問にそう答えた。

「見すぎてる?」

「そ。お母さんのあの好奇心の強さは普通じゃないもん。一回しか会ったことない私でも記憶に鮮明に残ってる。」

 母よ。

「でもそんなのを毎日ずっと見てたらそのせいで傷ついたりしてる姿を見てきたんじゃないのかなって思って。」

「なるほどね。確かにそうかもしれない。なんか危ないことになったのも見たことあるし・・・。」

 ため息混じりに言う。

「ね。でも多分それだけじゃなくて悲しんでいる姿もたくさん見て来たんじゃないのかな。」

 チラリと奏をみて続ける。

「奏ってさ、人のことすごくよく見てると思うの。他の人は見過ごしているようなことも気がついて指摘してくれるって言うかね。だから人より受け取るものも大きくて自分でその選別を無意識にしてるって感じ。あんまり人と深く交流してしまうとその選別ができなくなって全部受け取ることになってしまう。だからあえて人を見ないようにしてきたみたいな?」

今少し過去を振り返ってみても頷けることが多くて自分でもびっくりする。

「当たってるかも。」

「そう?私ってすご!」

「こわ。」

「なんでよ!」

いつもの花火に戻った。自分では気がついていないみたいだが、花火こそさっきおれのことを語ったのと同じ性質を持っている。この数時間、ずっとその部分が見えていた。

「自分のことってよくわからないもんだな。」

「ん?」

小さく言った言葉は花火には聞こえなかったみたいだ。


坂を登って鬼頭の家の敷地内に入る。

「あれ。奏。」

ちょうど登りきったところで鈴葉に声をかけられた。

「あ。鈴葉。」

「何?あなたもここでご飯?」

これまでのとは程遠いがそれでも冷ややかな声はあまり変わっていない。昨日のやつはやっぱり特別だったのか。

「鈴葉。今帰り?」

そんなことはお構いなしに花火が声をかける。

「はい。」

花火に対してもあまり変わらない淡白な返答。

「じゃあ今からご飯だよね。一緒に・・・。」

そこまで言いかけて二人の動きが止まる。

「って感じでもないみたいですね。」

「何?どうしたんだよ。」

二人は背を向けていた鳥居の方を向き直り神経を尖らせる。

「奏はやっぱりこういう感知はまだまだね。」

「まあ最近だからね。目覚めたの。」

二人して訳のわからないことを言う。

「何がだよ。なんなんだよ。」

「静かに!」

鈴葉が鳥居の先に神経を集中させながら奏を黙らせる。

すると黒い影が鳥居の間から飛び上がり空中で一瞬止まったように見えたがすぐに地面に着地して砂煙を上げた。

その瞬間、鈴葉と花火が肩の力を抜くのがわかった。

「ちょっと!犬人!なんで持って帰ってくるのよ!」

鈴葉が切れ気味で大声を上げる。

「え?犬人って。」

砂煙が晴れて姿を現したのは一匹の黒い犬だ。口に何かくわえている。

「ちょっと待ってて。」

花火はそういうと浄化のカードを手に歩き出す。

「花火さん危ないかも。」

鈴葉は眉毛を曲げて警戒する。

「ん。」

一言そう言うと花火は犬人に近づく。

犬人だと言われているその犬は口に咥えているものが暴れるのを必死に抑えているように見える。

あれは異住人か?輪郭がなくてなんなのかがわからない。

「浄化でいいのかな?」

ゆっくりと近くまで行ってから花火が問いかける。

犬人は首を縦に振る。イエスの合図だろう。

「わかった。」

そう言うと花火は暴れる影に向かってカードをかざす。

「汝のその無念、ここで終わらせよう。我は汝のおもりを空へと押し上げん。」

前に聞いたのと同じ言葉。カードから光の玉が現れるのも同じ。

しかし、

「痛っ!」

カードを持っていた花火の手が真っ赤になっている。

何が起こったんだ?

「だから言ったのに!」

そう言うと次の瞬間には鈴葉が飛び出していく。

「花火さんどいて。」

鈴葉の手で作った空洞が真っ黒の闇を作り出していた。

ああ。

あれを使わないといけないのか。どうしてだかそんな感情が奏の心を支配する。

「この世の者有らざる全てのモノ。総じて二度と帰れぬ地の世界へと誘う。」

真っ黒の空洞から凄まじい渦を作り出し異住人を取り込む。

そしてあっという間に闇の中に吸い込まれて消えてしまった。

「鈴葉ごめん。」

乱れたスカートの皺をなおす鈴葉に花火がしょんぼりとして声をかける。

「だから言ったでしょ。そもそも犬人が咥えて戻って来てるんだから浄化なんで無理。」

「できるかなって思ったんだもん。」

カードを見つめながら花火が寂しそうに口にする。

「俺も浄化でいけると思ったんだよ。」

「犬人?!」

声が聞こえてみてみると知った姿の犬人が立っていた。

「やあ奏。」

何事もなかったように奏に笑顔を向ける。

「さっきのはじゃあ、本当に犬人だったの?」

まだ信じられない。が、この世界ではアリなのだろう。

「そうだよ。あ。見たことなかったんだね。」

なんだか照れくさそうに頬をかきながら犬人は言う。

「僕は犬と人間の間に生まれたんだ。だからどっちの姿にもなれるの。」

そんな簡単に・・・。ちょっと忘れてたけど、アニメの世界みたいだなんてまた思ってしまう。

「何が浄化できるかも・・・よ!」

鈴葉が割り込んでくる。

「私がいなかったらどうするつもりだったの?花火さんだけだったら大変なことになってたわよ。自分の獲物は自分で最後まで処理しなさいよ。」

「だから!浄化でいけると思ったんだよ。ここまでの過程でそう確信してたのに・・・。」

最後は声が小さくなる。

鈴葉の睨みに耐えられなくなったようだ。

「でもどうして浄化しようなんて思ったの?」

花火も不思議そうに聞く。

「これまでそんなことなかったよね。犬人はしっかりと除霊する方だと思ってたけど。」

「そうなんだけどさ。自分でも不思議なんだけどさっきここに帰る途中で偶然に異住人を見つけて飛びかかったら声が聞こえたんだ。」

「声?」

「そう。助けてって声。」

「何それ。」

鈴葉は呆れて鼻で笑う。

「俺もこんなの初めてでさ。で、気がついたらここに咥えて走ってきてた。」

「でも結局、浄化できるようなレベルではなかったと?」

奏が確認する。

「そうなるよね。さっきのを見るとさ。」

おかしいなと首をひねる。

「なんであんな声聞こえたんだろう。」

「変ね。」

花火も不思議そうに首をひねる。

「気のせいだったのよ。早く帰りたいって思いがそんな声を聞かせたんじゃないの?」

鈴葉だけは最初からそう決めつけているようだ。

「とにかく!やめてよね。ここの敷地の中に異住人を連れくるなんてこと。」

そう言うと踵を返して、さっさと歩いていってしまった。

「とりあえず家に入ろう。相模さんもいるだろうから聞いてみたらいいよ。」

花火の提案に犬人と奏は頷いて歩き出す。

わけがわからないことが一変に起こりすぎて頭がついていかなかった。

鈴葉に怒られてしょんぼりと肩を落とす犬人を励ましながら鬼頭の家に戻ることにした。

なんだかわからないが少し不穏な空気が流れているような気がして背筋がゾクッとした。変なことが起こらないといいけど・・・。



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