第二十四話 ドーナツがつなぐ輪の話
「じゃあ聞けたんだ鈴葉の過去。」
花火が目を輝かせてカウンターから乗り出してくる。
昨日鈴葉とした話を、報告しようと花火のドーナツ屋さんにやってきのだ。
思った以上に喜んでくれる花火のテンションの高さに少々引いてしまうくらい。
それにしても、今日もこの店はとても賑やかだ。夕方過ぎているのに店内の席はほぼ埋まっている。
「はい。ちゃんと話してくれました。」
身を乗り出す花火を少し体をそらして交わしながら答える。
「それで?」
まだ目が輝いてるけど、何を期待してんだ?この人。
「まぁ、悩み相談みたいな感じもあったので協力すると…。」
キョトンと目を丸くしてカウンター内に戻っていく花火。
「悩み相談?鈴葉が?」
信じられないといった顔でこっちを見ている。
「いや。なんというか。はっきりはここでいえないからさ。そんな感じってことで。」
鈴葉から聞いた心の叫びを簡単に他人に言うことなんてできない。たとえそれが自分よりも早く鈴葉と出会っていた花火や信長さんでもだ。
「なるほどね。」
花火も奏が言いたいことを理解したようでそれ以上は何も言わない。
「よかった。やっぱり奏なら違うと思ったんだよね。」
カウンターでグラスを並べながら安心したように穏やかな声で言う。
「よろしくね鈴葉のこと。」
真っ直ぐに奏を見つめている瞳が青いことに今気がついた。
「できることはやる。」
絶対なんてことは言えないから。今の自分にできる最大の言葉で答える。
「そうやってるとちゃんとオーナーっぽく見えるね。」
もう鈴葉の話はこれ以上してもしょうがないから。
感じたことを口にしてみた。
「なんかちょっとディスってるように聞こえるけど。」
手を動かしながら片眉を釣り上げる。
「そりゃこの店は私のものだもん。ちゃんと愛してあげなきゃ。」
店内を見回しながら言う。
「ここに来てくれる人はさ、他にも色んなお店があるのにうちを選んでくれてるんだよね。」
店内にいる人たちはみんな笑顔でドーナツやパンケーキを食べながらゆっくりと時間を過ごしている。
「席。ほとんどいっぱいでしょ。」
さっきも思ったが夕方のこの時間でもしっかりと席は埋まりつつあり、来店も止まらない。
「初めは全然こんなんじゃなかったの。」
「え?」
懐かしい景色が花火の目には映っているかのような少し遠い目をして言う。
「私、お菓子作りが昔から好きでさ。ちょっと、いや、結構自信があったの。だからこのお店をやろうって決めたんだけど。でも、最初は誰もお客さんが来ない日が何日も続いて。どんなに頑張って外で呼び込みしてもダメでさ。何十個も焼いたドーナツがほとんど無駄になるばかりで。鬼頭の家でみんなに配ったっけな。」
「そうなんだ。」
「この内装も外観もすごくこだわって作ったから大満足だったんだけど、商店街の人にすごく怒られたの。」
「怒られた?」
「ここでどうみてもうちの店は異質でしょ?こんな洋風店はさ。周りは昔ながらの日本の商店ばかりなのに。」
「そういえばそうか。じゃあどうしてここに?他にも場所はあったんじゃ。」
「もちろんそうだけどね。ここの商店街は相模さんの持ち物なんだ。だから格安でレンタルできる。」
ペロリと舌を出して笑う。
「この商店街が全部?!」
陰陽師の家系の分家だと聞いてはいたが、そんなに土地持ちなのか?だとしたら、本家っていったい。
「そうなの。すごいでしょ?だからここ以外は考えられなかったし。相模さんのおかげでこの外観の変なドーナツ屋は許可が出たってのもある。」
また自分の店を変な呼ばわりする。
「それでも客足だけは相模さんもどうすることもできないでしょ?そりゃそもそも初日から満員なんて思ってはなかったけど、何日もだとさすがにへこんだよ。」
いつの間にかドーナツの仕込みを始めながら話している。明日の分だろうか。
「でもそんなので諦めてたら初めからやってないしね。色々とやったんだ。お得に買えるようにとか色々ね。それでもほんとに増えなかった。」
「じゃあどうして今みたいに?」
「きっかけは異住人なの。」
「は?」
「異住人にね。追いかけられてた女の子がいたの。うちの店の前でちょうど転んでさ。私、今ほど異住人の感覚掴むのが上手くなくて気が付かなかったの。突然、女の子が転んだって思って慌てて外に出たらその子。超泣いてて。しかも、めちゃくちゃ震えてるし。それ見て後ろに異住人の気配感じたの覚えてる。そいつ結構凶悪化してて、浄化できるレベルじゃなかった。だから思い切り除霊したの。後にも先にも今のところ除霊したのはあれだけ。だから余計に覚えてる。その子にドーナツをあげたの。落ち着くように店の中でおしゃべりしながら一緒に食べたんだ。その子がね。次の日もその次の日も友達を連れてきてくれたの。近くの高校に通ってるらしくて、学校帰りに沢山で来てくれたの。女子高生のパワーってすごいのよ。あっという間に私のお店をみんなに教えてくれたの。彼女たちの兄弟や親とかみんなここを知ってくれて。それからすごく客足が増えた。それもすごい量で。あの時、あの子を助けられなかったら今のこの景色はなかったんだって。だからそれが私がハンターやる理由。」
「繁盛の理由だから?」
あははと花火は笑う。
「そうじゃなくて。誰かを助けてあげられる。普通の人にはできない方法で。それが嬉しいから。もちろんそれがこのお店が人気になったきっかけではあるけど、私にこの力がなかったらあの子を助けることはできなかった。あの子の笑顔を見ることもできなかったかもしれない。それを思うとやめられない。やめちゃいけないって思う。」
「ねー店長。見て見て!これめちゃ上手くない?」
店の奥からエプロンをつけた女の子が出てきた。
大学生だろうか。花火を店長と呼ぶってことは?
「亜子ちゃん。何?どれどれ?」
亜子と呼ばれた子はお店の新しいドーナツのポスターを持っているようだ。
「やば!めちゃいいじゃん!さすが分かってる!」
そのポスターを一目見て目を輝かせて花火が言う。
「当たり前じゃん!私がこの店流行らせたんだからねー。」
そう言いながら最後の仕上げだと中へ戻っていく。
「流行らせたって?」
「今のがさっき言ってた女子高生の亜子ちゃん。ここでバイトしてくれてるんだ。今は大学2回生。」
亜子が去っていったほうを見ながら花火は嬉しそうに微笑む。
「大学が決まった日にここに来てバイト志願してくれたの。うちを愛するファン1号はうちの店員なのだ!」
屈託なく言う彼女の生き方は見習う価値があると思わずにはいられなかった。
ゴーストハンターは一括りになんてとてもできない。いろんな人生を背負ってこの仕事を選んでいるのだろう。
もっと他の人達の話も聞いてみたいと思いながら目の前の人気店のドーナツを食べていた。




