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月光が照らす君が割ったのはアヤカシ者か俺の心臓か〜ありきたりな現代奇譚〜  作者: 貝月 恵芙


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第二十三話 おれの呼び名

「帰ろうか。」

やっと笑い泣きが収まり三呼吸ほどした後、鈴葉は立ち上がった。

奏も立ち上がる。

「そういえばさ。」

ずっと聞きたかったことがあった。

「なに?」

そう聞き返す彼女の声は穏やかだ。

「初めて鈴葉を見た時、街灯の上に立ってた。あれどうやってんの?あと、顔の横に火の玉みたいなのも見えてた。あれは?」

「え。奏は見えたの?」

自然と奏と名前で呼ぶ。

「見えたって鈴葉が?」

「私っていうか…うん。そう。」

なんだかはっきりとしない。

「見えたけど。」

「そうなんだ。」

なぜだか鈴葉は面白そうに口角を上げる。

「あれは私の使役霊。」

「使役霊?」

「そう。霊っていってもほとんど精霊なんかに近い霊を使役して色々助けてもらってる。」

「そんなことが出来るのか?!」

まじで漫画の世界のような単語、ましてや精霊なんてもう異世界の話!が飛び出して奏が体を乗り出してくる様子を見て

「何?そんなにテンション上がること?それにしてもあなたほんとに面白いわね。」

「さっきからなんだよ。バカにしてんの?」

「そうじゃないけど。」

そう言った鈴葉の瞳は優しい色になりだしている。

「奏はこれまで私が出会った人たちと違う気がする。だから信じた。」

ふわっと笑顔が浮かぶ。これも今までの鈴葉とは違う。

「使役霊は普通の人にはまず見えない。」

「え?」

「奏がさっき当たり前みたいに私があの場所に立っていて、鈴のことが見えてたって言って驚いた。」

「見えないって本当に?」

「うん。見えない。私の姿さえ見えないよ。でなきゃあんなところに不用意に立てない。」

確かに・・・。

「じゃあなんで?おれは見えたの?」

「それってここで働く前って言ってたよね。」

少し考えるようなそぶりを見せながら鈴葉が聞いてくる。

「そう。本当にすぐ前。だからあの時鈴葉が玄関に出てきて驚いたんだ。」

今でもはっきりと覚えているくらい衝撃的な光景だった。

「はっきり言うけど、奏は普通じゃない。だから私たちが見えてもおかしくないと思う・・・。」

まだ何かを考えている様子だったがそれ以上は何も言わない。

「おれ普通じゃないのかな。」

鈴葉の沈黙よりもそっちの方が気になった。これまでそんな風に言われたことなんてなかったし、自分でも思ったことすらなかったのに。最近はそう言われることが当たり前になってしまっている。

「いいじゃない。私たちと一緒にいる限りそれは当たり前のことで、なんならあなたの能力はありがたいんだし。」

本当にさっきまでの鈴葉とは別人のような感覚で話をしている。やっぱり根は素直でありたいと願っていたんだ。

これは思ったよりも早く彼女の生きる意味が見つかるかもしれない。

この世界に足を突っ込んだことを良かったのかもと思い始めていた。

「その使役霊って今出せるの?」

「今は無理かな。さっき思ったよりもたくさん力使っちゃんだよね。ムカついてたから。」

ペロリと舌を出して言う。

「力が弱くなっていると出せない。あの日は特に何もしてなかったし、鈴に探してもらってたから。」

「さっきから鈴って呼んでるのが使役霊の名前?」

「そう。私と一緒にいるから私の名前から取ってるの。」

「探してもらってたって?」

「異住人のこと。あの日探してのが隠れるのがうまくて。中々見つけられなくて探してもらってたの。でもあの日は見つからなかったのよね。そんなこと今までなかったのに。」

不思議そうに首を傾げる。

「探すこと自体が珍しいのよ。大抵は言われたとこに行けばいるから。」

確かにこれまでもそうだったな。

「でも花火といたときにいきなり現れたことがあったよ。結界の中なのに珍しいって言ってたっけ。」

「鬼頭の家の敷地の中は相模さんが張った結界で守られてるはずなの。それを破ってくるなんて。」

思いがけず不穏な空気が流れ始める。

「今度見せてくれる?鈴葉の使役霊。」

なんだかこの空気を変えたくなくて話題を変える。

「いいよ。明日にでも見せてあげる。」

「そういえば花火や信長さんにもいるの?」

「使役霊?どうだろう。私は見たことがないな。そもそも使役霊が扱えるのは陰陽道に通じてる人だけだって聞いたし。花火は多分違うし、信長さんは知らないな。」

なるほど。みんなそれぞれの除霊の流派みたいなものがあるってことか。

「陰陽師以外にはどんなジャンル?があるの?」

「ジャンルって言っていいのかわからないけど、僧侶とかになるのかな。エクソシストも同じくくりになると思うし。訓練を積んだ場所によって呼び名が変わるし、教わるやり方も変わる。あとはその人それぞれの特性によって違うのかも。名前がしっかりとある人たちだけじゃないからね。この業界って。」

「名前がないってどういう言うこと?」

さっきから質問だらけでせめてしまっているが鈴葉は嫌な顔一つせず答えてくれる。

「そうだな。たとえば何か武器を使う人とか。銃とかに霊力を込めて使う人とかだと多くはないからくくりの名前がないのよ。でも実際にそれで活動して活躍してる。どんな形であれ異住人を倒すことができる力がある人はみんなこの業界で生きてるの。」

「じゃあおれって何になるの?」

「奏も名前のない人たちの一人ね。」

うんうんと自分でも納得しながら鈴葉は言う。

「そもそもうちの中でも探し求められていた存在なんだから名前なんてなくて当然。」

納得だ。

「でもなんか欲しいなおれも名前。」

「自分で考えれば?」

「え?」

「だってそもそもないんだもん。自分で作ってしまえばそれがあなたの呼び名になるじゃない。」

「そうか。」

「そうよ。」

「何がいいかな。」

「知らないけど。」

なんだよ。

「そこは一緒に考えよとかにならないのかよ。」

「私そこまで暇じゃない。」

イタズラっぽくまた笑う。随分と打ち解けてくれたことに奏は素直に嬉しく思う。

これからもっと彼女に笑顔になってもらいたいと心から思いながら二人で帰り道を歩いた。






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