第25話 恋は思考を鈍らせる?
月曜日の朝、湊は教室に入ると、すでにひなたが席についているのを見つけた。
二人の間には、甘い関係が始まっていることを示す、微かな緊張感が流れていた。
「ひなた、プリント貸してくれないか?」
「いいよ」
ひなたが笑顔で渡したプリント。指が触れた瞬間、二人の視線が交差し、ひなたの頬が薔薇色に染まる。
「相変わらずわかりやすいね、二人とも」
玲奈が唐突に現れ、二人の間に割って入った。
「あれ? なんか雰囲気変わった?」
「え?」
ひなたは少し動揺した。
「なにが?」
湊は冷静に尋ね返した。
「なんか……二人とも、嬉しそうな顔してるよ?」
「気のせいだよ」
「そ、そうよ! 何も変わってないし!」
ひなたの反応は少し大きすぎて、逆に怪しさを感じさせた。
「ふーん?」
玲奈は信じないような表情だったが、それ以上は追求しなかった。
授業中、湊のスマホが小さく振動した。ひなたからのメッセージだった。
『今日、放課後大丈夫?』
『うん、図書館でいつもの時間に』
そんな二人の静かな交流は、思わぬ形で中断された。
「桐島くん」
教師が突然、湊の名前を呼んだ。
「この問題、解いてみなさい」
湊は席を立ち、黒板に向かった。通常なら簡単に解ける問題だったが、今日は頭の中がひなたのことでいっぱいで、集中できなかった。
教室内が「桐島が問題に詰まった?」とざわめく。
(湊くん……落ち着いて)
ひなたの瞳がそう告げているように感じられた。
それを見て、湊はなぜか心が落ち着いた。脳内の霧が晴れるように、問題の解法が見えてきた。
湊は問題を解き終え、席に戻った。しかし、彼自身にとっては衝撃的な経験だった。
(恋愛感情が認知能力に影響を与えるなんて……)
これは湊にとって、自分の能力の新たな限界を発見した瞬間だった。
(俺は観察者であることをやめて、当事者になった)
湊は自分の変化に戸惑いながらも、この新しい感覚を大切にしたいと思った。
放課後、湊は図書館の奥の席で待っていた。
「お待たせ……」
静かな声と共に、ひなたが現れた。
湊はそっとひなたの手を取った。
「どうだった? 今日」
「緊張した……湊くんの顔を見るたびに、土曜日のことを思い出して……」
彼女の頬が薔薇色に染まり、最後まで言えなかった。
「俺も。特にあの……最後の……」
「も、もう! 言わないで!」
ひなたは顔を真っ赤にして湊の口を手で押さえた。
「恥ずかしい?」
「うん……」
「嫌じゃなかったか?」
「ち、違うよ! 嫌じゃなかった……むしろ……好きだった」
ひなたは小さな声で言った。その言葉に、湊の胸が熱くなった。
「そっか……」
「湊くんは?」
「最高だったよ」
ひなたの顔がさらに赤くなったが、嬉しそうな表情も見せた。
「ねえ……」
ひなたが雑誌を開いた。
「夏祭り……どうしようか?」
そこには、都内や近郊の有名な夏祭りや花火大会の写真が載っていた。
「ここなんてどうだ?」
湊がページの一つを指差した。神社でのお祭りと花火大会が一緒に楽しめるイベントの写真だった。
「素敵……」
ひなたの目が輝いた。
「でも、人が多くて移動が大変かもね……」
「それはそうだな。でも……早めに動けば、大丈夫だろう」
「ありがとう……」
ひなたは嬉しそうに頷いた。




