第20話 夏のボランティアと、子供たちが見せる素顔
観覧車が地上に戻り、二人は手を繋いで遊園地を後にした。
夕暮れの街を歩きながら、湊はひなたの手をしっかりと握っていた。
突然、ひなたのスマホが鳴った。湊との甘い時間を中断されたひなたは少しすねた顔をしたが、画面を見ると生徒会長の佐藤からだった。
「もしもし? あっ、朝倉さん? 実は急ぎの相談があって……」
佐藤の話によれば、毎年夏休みに地域の児童養護施設で行うボランティア活動のリーダーが、盲腸炎で入院することになったという。
「それで、朝倉さんに代わりを……急で申し訳ないんだけど、二日後なんだ」
ひなたは湊の方を見た。彼女の目には明らかな困惑が浮かんでいた。
二日後は二人が計画していた夏祭りデートの日だった。
「湊くん、ごめん……でも、子供たちが楽しみにしてて……」
湊はひなたからあらましを聞くと、すぐに決断した。
「俺も一緒に行くよ」
港の返事にひなたは破顔して喜んだ。
ボランティア活動の当日を迎えた。
「湊くん!」
集合場所で港を見つけると、ひなたがぴょんと小さくジャンプしながら手を振った。薄水色のワンピースに薄手のパーカーという組み合わせが、彼女の清楚な雰囲気をより引き立てている。
「おはよう」
湊も思わず微笑んで応えた。
「本当に来てくれて……ありがとう」
その仕草に、湊の心臓がドクンと跳ねた。
「約束しただろ」
バスの中で、ひなたが小さな声で湊に言った。
「実は……少し緊張してる。私、子供たちと上手く接することができるかな?」
「大丈夫だ。ひなたは嘘が下手だけど、それは言い換えれば、本当の気持ちが見えやすいってことだ。子供たちは敏感だから、そんな素直なひなたの気持ちはきっと伝わる」
「湊くん……」
ひなたは感動したように湊を見た。
児童養護施設に到着すると、それぞれの役割が割り振られた。ひなたはお楽しみ会の司会進行を任され、湊は小さな子供たちのレクリエーションを担当することになった。
「じゃあ、あとでね」
「ああ」
子供たちとの活動が始まると、湊は思わぬ困難に直面した。彼の心理観察能力が、子供たちには通用しなかったのだ。
「先生! 見て見て!」
小さな男の子が描いた絵を湊に見せる。
「うん、すごいな」
「本当にすごい? 嘘じゃない?」
その質問に、湊は一瞬言葉に詰まった。子供の素直な問いかけに、嘘を見抜く能力を持つ自分が逆に見抜かれる感覚。
「本当だよ。特に、この青い部分がとても上手だ」
子供の顔が輝いた。
「ほんと? これはね、海なんだよ!」
湊は少し恥ずかしくなった。彼の観察力が通用しない相手と接するのは、新鮮な体験だった。
時が経つにつれ、湊は子供たちとの接し方を学んでいった。彼らは嘘と本音の境界が曖昧で、感情表現が素直だった。そのため、湊の能力は役立たないどころか、むしろ邪魔になることもあった。
「先生、良い子はお願いが叶うってほんと?」
小さな女の子が湊に尋ねた。
「ああ。神さまがちゃんと見てくれてるよ」
「うそ! 神さまなんていないもん」
湊は少し考えた後、膝をついて女の子と目線を合わせた。
「神さまは目に見えないけど、君の心の中にいるんだよ」
「心の中?」
「そう。みんなが笑顔になれるように、良い子の夢を叶えたいって気持ち……それが神さまなんだよ」
女の子は不思議そうな顔をしたが、やがて小さく頷いた。
「先生の心にも神さまはいるの?」
「ああ。最近やっと見つけたよ」
そんな中、別室ではひなたがお楽しみ会の司会を務めていた。湊が様子を見に行くと、彼女は子供たちの前で生き生きと話し、笑顔で接している。普段の「完璧優等生」の仮面ではなく、純粋に楽しんでいる表情だった。
休憩時間、湊とひなたは少しだけ話す機会を得た。
「上手くやれてるか?」
「ああ、意外と……子供は面白いな」
「そうでしょ? 子供たちは正直だから、こちらも素直になれるの」
ひなたは湊の変化に気づいたように、優しく微笑んだ。
「湊くんも変わったね。人に心を開くようになってくれた」
「それは……ひなたのおかげかもな」
その言葉に、ひなたの頬が薔薇色に染まった。
お楽しみ会も無事に終わり、後片付けも済んだ頃、辺りはすっかり日が傾き始めていた。




