第16話 厳格な父との対峙、そして認められた恋
演技が終わり、湊とひなたはステージを降りた。
二人が廊下に出ると、ひなたはようやく緊張が解けたように肩を落とした。
「ごめんね……父のことで」
「気にするなよ」
「でも……お父さんが来たのは意外だったな」
「うん……きっと、私の成績が下がったから心配してて……」
「父とちゃんと話せるかな……?」
ひなたが不安そうに聞いた。
「ああ、大丈夫だ。俺たちのこと、ちゃんと話そう」
片付けの最中、湊は窓の外を見て、一人の男性が校庭のベンチに座っているのに気づいた。朝倉誠一郎だ。彼は何かを熱心に読んでいる。湊がよく見ると、それは学校のパンフレットだった。
(なるほど……)
何かを確かめるように、湊は校庭に向かった。
「朝倉さん」
誠一郎は顔を上げた。
「桐島君か」
「パンフレットですか?」
「ああ……私もこの学校に通っていてね。『七つの幻影スポット』……懐かしい言葉だよ」
湊は驚いた。朝倉誠一郎が明鏡学園の卒業生だったとは。
「君たちの文化祭を見て思い出したよ。青春というものは……時に厳格さよりも大切なのかもしれないな」
その時、ひなたが駆けつけてきた。
「お父さん……湊くん……」
誠一郎は二人を見て、厳しい表情に戻った。
「話があるようだな」
「はい……父さん、私……桐島くんのことが好きなの」
「何を言っている。君はまだ恋愛をする歳ではない」
「でも……」
ひなたが反論しようとしたとき、湊が一歩前に出た。
「朝倉さん、お話させてください。俺はひなたさんのことを本当に大切に思っています」
「君は優秀な生徒だ。だからこそ、こんな無駄なことで時間を浪費すべきではない」
「恋愛は無駄ではありません。俺たちはお互いを高め合っています。ひなたさんは俺に素直さを教えてくれました。そして俺は……」
「父さん!」
ひなたが声を上げた。
「私はもう、『完璧な朝倉ひなた』を演じるのは辞めたいの!」
彼女の叫びに、誠一郎は驚いた表情を見せた。
「ずっと父さんの期待に応えようと、本当の自分を隠してきた……でも、桐島くんは私の嘘を見抜いて、本当の私を受け入れてくれたの」
「嘘……?」
「そう……完璧な優等生の嘘。本当は怖くて、辛くて、でも誰にも言えなかった……」
湊はひなたの手をしっかりと握った。
「朝倉さん、ひなたは素晴らしい娘さんです。彼女の努力と優しさ、そして強さを、どうか認めてあげてください」
誠一郎は黙って二人を見つめていた。彼の厳格な表情の奥に、何か複雑な感情が揺れ動いているようだった。
「ひなた……君はいつからそう思っていたんだ?」
「ずっと前から……でも、お父さんを失望させたくなくて……」
誠一郎は深いため息をついた。
「そうか……私は間違っていたのかもしれないな」
彼は湊に向き直った。
「桐島くん、君は本当にひなたのことを……?」
「はい。ひなたさんのことが好きです。そして、彼女を大切にします」
誠一郎はじっと湊を見つめた後、再びため息をついた。
「わかった……少し様子を見てみよう。君たちの交際を……認めよう」
「え?」
ひなたの目に希望の光が灯った。
「ただし条件がある。学業を第一にすること。そして……毎週日曜日、我が家で食事をすることだ」
湊とひなたは驚いた表情で顔を見合わせた。
「私も……君のことをよく知りたい」
誠一郎は少し照れくさそうに言った。彼の表情には、かつて見せたことのないような柔らかさがあった。
「ありがとう、お父さん!」
「感謝します」
誠一郎は小さく頷き、校門へと歩き去った。
二人だけになり、ひなたは湊に抱きついた。
「信じられない……お父さんが認めてくれた……」
湊も彼女を優しく抱きしめた。
「よかったな」
「うん……これで、もう隠れなくていいんだね」
「ああ」
夕暮れの校庭で、二人は手を繋いで空を見上げた。一番星が輝き始めていた。
「星に願い事をしない?」
ひなたが提案した。
「願い事?」
「うん。鏡月祭の最後に、明鏡学園の『幻影スポット』で星に願いをかけると叶うんだって」
ひなたは目を閉じ、小さな声で何かを呟いた。
湊も目を閉じ、心の中で願った。
(これからもずっと、ひなたと一緒にいられますように)
「何をお願いしたの?」
湊が聞くと、ひなたは微笑んだ。
「秘密……でも、きっと桐島くんと同じだよ」
星空の下、二人の新しい物語が始まろうとしていた。




