第17話 公認カップル誕生と、甘い教室の空気
文化祭の翌日、学校は片付けで忙しくしていた。
夢のような祭りの後は、現実に戻る時間。生徒たちは疲れた様子ながらも、思い出話に花を咲かせながら、教室を元の状態に戻していった。
しかし、生徒たちの間では別の話題で持ちきりだった。
「ねえねえ、ほんと? 桐島くんと朝倉さんが付き合ってるって!」
「昨日、文化祭のカップル演技は本物だったんだって!」
「朝倉さんのお父さんも認めたって噂だよ!」
廊下を歩く湊は、そんな噂話を耳にしながら教室へと向かっていた。こんな風に自分のことが話題になるのは初めての経験だった。
(こんな話題の中心になるなんて……いつもの俺らしくないな)
教室のドアを開けると、クラスメイトたちの視線が一斉に集まった。
一瞬の静寂の後、小さなどよめきが広がる。
「おはよう、湊!」
玲奈が真っ先に声をかけてきた。
「今日は彼女と登校じゃないの?」
「そういうのやめろって」
湊は少し恥ずかしそうに言った。頬がわずかに熱くなるのを感じる。
「えー? もう隠す必要ないんでしょ? 昨日の文化祭、すごかったね! 朝倉さんのお父さんに真っ向から立ち向かうなんて、湊らしくないよ!」
「……うるさいな」
湊は素っ気なく答えたが、彼の耳が赤くなっているのは隠せなかった。
その時、教室のドアが開き、ひなたが入ってきた。
その表情には何か新しい輝きがあった。髪は少し丁寧に整えられ、歩く姿勢にも自信が感じられる。
「おはよう、朝倉さん!」
クラスメイトたちが次々と声をかける。いつもより親しげで、からかうような調子だ。
「お、おはよう……」
ひなたは少し照れながらも、優しく微笑んだ。その表情には以前の緊張感が薄れ、自然な笑顔が浮かんでいた。
彼女の視線が湊と交わった瞬間、二人とも少し顔を赤らめた。
ひなたは静かに自分の席へと向かった。
「おはよう……湊くん」
彼女が初めて「湊くん」と呼んだことに、教室がざわついた。これまでいつも「桐島くん」と呼んでいた彼女の変化に、クラスメイトたちは興味津々だった。
「おはよう……ひなた」
湊も素直に返した。彼女の名前を呼ぶのは悪い気分ではなかった。
教室には、何とも言えない甘い空気が流れていた。
「おめでとう、二人とも!」
「朝倉さん、幸せそうで良かった!」
「桐島、羨ましいぞ!」
クラスメイトたちからの祝福の声が飛び交う中、ひなたは恥ずかしそうに顔を伏せていた。湊も照れながらも、静かに彼女の手を握った。
「緊張するか?」
湊が小さな声で尋ねた。
「うん……でも、嬉しい」
ひなたは小さく微笑んだ。
その時、教室のドアが開き、担任の柏木先生が入ってきた。
「おはよう、皆さん! さあ、片付けを頑張りましょう! 特に2Bのスター・カップルの二人は率先して!」
「先生!」
ひなたが恥ずかしそうに抗議した。
「なに? 私の恋愛センサーが大正解だった訳でしょ! 青春よ! 恋よ!」
クラスは笑いに包まれ、湊とひなたも思わず苦笑いした。
教室は活気づき、生徒たちは装飾や机を元の位置に戻し始めた。
作業の合間、湊の隣に玲奈が寄ってきた。
「ねえ、湊。本当に良かったね、朝倉さんと。ずっと湊のこと見てきたけど、こんなに素直な表情、初めて見たよ」
「そ、そうか……?」
「うん。湊って、いつも人の心理ばかり読んで、自分の気持ちを出さなかったから。でも今は違う。自分の気持ちを素直に出せてる」
「ありがとう……玲奈」
湊は珍しく素直に感謝した。
「え? 湊が素直に『ありがとう』? 世界の終わりかな?」
「うるさいな……」
湊は呆れたように言ったが、その表情には暖かさがあった。




