第15話 突然の闖入者と、ステージ上の告白
「ひなた!」
全員が驚いて振り向くと、そこには厳格な表情の中年男性が立っていた。
「お、お父さん……?」
ひなたの顔から血の気が引いた。
朝倉誠一郎――教育評論家として名高い彼は冷徹な目で教室を見回した。
「こんな場所で何をやっているんだ」
彼の一言で、教室は静まり返った。
「父さん、これは文化祭の――」
「黙りなさい」
誠一郎の声は低く、しかし教室中に響き渡った。
「こんな馬鹿げたことに時間を浪費してるとは思わなかった。家に帰りなさい」
「でも……」
「成績が2ランク下がったのは、こんなことに気を取られているからだろう。いい大学に行きたいなら、今からでも勉強に戻るべきだ」
ひなたの肩が落ち、彼女の目に涙が浮かんだ。教室の生徒たちは固唾を呑んで見守っていた。
湊は一歩前に出た。普段なら決して前に出ない彼が、今日は違った。
「朝倉さん」
湊の声は、自分でも意外なほど落ち着いていた。
誠一郎がゆっくりと振り向いた。その眼差しは鋭く、湊を見透かしているかのようだった。
「君は誰だ?」
誠一郎の声は柔らかいのに凄みがあった。
湊の能力が急激に反応する。ドクンと心臓が跳ね、視界が一瞬シャープになった。
(この人も……俺と同じ能力を持っているのか?)
湊は直感した。誠一郎も人の嘘を見抜ける。だからこそ、ひなたはあれほど「完璧」であることに執着していたのだ。
しかし、湊の能力がさらに深く反応する。誠一郎の眼の奥に「心配」「怖れ」「愛情」が見えた。
(朝倉さんは……ひなたを愛している。でも、どう表現すればいいのか分からないんだ)
一瞬の動揺。しかし湊は深く息を吸い、恐れを克服した。
「桐島湊です」
湊は一歩も引かなかった。むしろ前に出て、ひなたとその父親の間に立った。生徒たちからどよめきが起きる。
「ひなたさんは、文化祭のために一生懸命頑張ってきました。今日だけは、彼女に楽しませてあげてください」
「君のような優秀な生徒が、こんな無駄なことに時間を使うべきではない」
「無駄ではありません」
湊の声には、かつてない情熱が込められていた。
「学業だけが全てではありません。人との繋がりや、友情、そして……愛情も、人生には必要なものです」
誠一郎の眉が寄った。
「愛情? ひなたのことを言っているのか?」
「はい。私はひなたさんのことを本当に……大切に思っています」
教室がざわめいた。湊の告白とも取れる言葉に、ひなたの頬が赤く染まる。
誠一郎は沈黙した。彼は改めて教室を、そして娘を見た。
ひなたの表情には困惑と怯えと希望が入り混じっていた。しかし、そこには湊が初めて見る強さもあった。
「……わかった。今日一日だけだ」
誠一郎はついに言った。彼は湊に冷たい視線を向けた。
「君とは後でじっくり話す。娘の将来に何かあれば、君に責任を取らせる」
その言葉には明らかな警告が込められていた。そして、教室を後にした彼の背中からは、厳格な教育者としての責任感と、娘を思う愛情が複雑に入り混じっていた。
教室がざわめき始め、柏木先生が状況を収拾しようとする。
「え〜と、少し予定が狂いましたが……続けましょうか?」
湊はひなたに近づいた。
「大丈夫か?」
ひなたは小さく頷いた。
「うん……ありがとう」
「演技、続けられるか?」
「うん……大丈夫」
二人は再びステージに立ち、演技を再開した。しかし、先ほどまでの雰囲気とは違い、二人の間には真剣な決意が漂っていた。
湊がひなたの手を取り、静かに言った。
「俺は……お前のことが好きだ」
ひなたの目に涙が浮かんだ。それは演技ではなく、本物の感情だった。
「私も……あなたのこと……好き」
彼女の言葉は小さかったが、教室中に響き渡った。
観客からは大きな拍手が巻き起こり, 柏木先生は感動のあまり目を拭いていた。




