第14話 鏡月祭、運命のカップル演技コンテスト
文化祭当日、明鏡学園は朝から活気に溢れていた。
「鏡月祭、いよいよ開幕です!」と校内放送が流れ、生徒たちの歓声が校舎中に響き渡る。
2年B組の教室は「恋愛心理カフェ」として、すでに開店準備が整っていた。
「湊、この衣装似合ってる?」
玲奈がメイド風の衣装で駆け寄ってきた。
「ああ」
湊は素っ気なく答えた。湊も黒いベストにネクタイという正統派バーテンダースタイルという普段着慣れない衣装に緊張していた。
「いつも通りの答えね」
玲奈はくすくす笑った。
「あっ、朝倉さんが来たよ」
教室のドアが開き、ひなたが入ってきた。
彼女もメイド風の衣装に身を包み、湊は思わず見とれた。
「湊くん、その制服……かっこいいよ」
ひなたが小さな声で言った。
「朝倉も……似合ってるな」
湊の耳が赤くなる。
「二人とも照れてる~!」
玲奈が茶化すと、周りのクラスメイトからも笑い声が起こった。
「もう、からかわないでよ!」
ひなたが頬を膨らませる。
「だってふたりともわかりやすすぎるんだもん。カップルを演じるからって今からイチャイチャしちゃダメだよ! 模擬店では接客に集中してよね」
「わかってるよ」
湊は少し照れながらも、真面目な顔に戻った。
湊とひなたは互いに視線を逸らしたが、二人の心の中では同じ思いが渦巻いていた。
(今日はきっと特別な日になる)
カフェの開店時間になり、多くの来場者が訪れ始めた。
湊はドリンク係として忙しく働き、ひなたは接客係として笑顔で対応していた。二人は別々の場所で働きながらも、時折視線が交差し、小さな微笑みを交わした。
それは二人だけの秘密の会話のようで、周囲には気づかれない密やかな喜びだった。
昼過ぎ、カフェの忙しさがひと段落したところで、柏木先生が教室に入ってきた。
「皆さん、準備はいいですか? カップル演技コンテストの時間ですよ!」
教室の中央に設置された小さなステージにスポットライトが当てられた。客席からは期待の拍手が起こり、生徒たちも興奮した様子だった。
「まずは、桐島くんと朝倉さんのペアからお願いします!」
柏木先生が声を上げた。
湊とひなたは互いに顔を見合わせ、小さく頷いた。二人はステージに上がり、向かい合って立った。
教室が静かになり、すべての視線が二人に集まる。
湊は深呼吸をし、昨日練習した通りの「演技」を始めようとした。しかし、目の前のひなたの姿を見て、予想外のことが起きた。
彼女の青い瞳、わずかに震える唇、頬の薔薇色の紅潮—すべてが湊の心を揺さぶった。「演技」のはずが、本物の感情が溢れ出そうになる。
(いけない、ここは「演技」をするべき場所だ)
湊は必死に心を落ち着かせ、予定通りの台詞を口にした。
「朝倉……いや、ひなた」
湊の声が教室に響いた。
(冷静に。これは演技だ。演技なんだ。オーバーにやるんだ……)
そう自分に言い聞かせるのに、声には思わぬ感情が込められていた。
ひなたも同じように動揺している。瞳には迷いと決意が交錯し、指先がわずかに震えている。完璧優等生のマスクが剥がれ落ちそうになっている。
(俺たち、二人とも嘘がつけなくなってる……)
「俺は……お前のことが……」
湊の言葉が詰まる。喉が渇き、心臓が耳元で鳴っている。
観客たちは息を呑んで二人を見つめていた。
「好きだ」
湊はついに言い切った。それは台本の台詞だが、彼の目に浮かぶ感情は明らかに本物だった。
そして湊にはひなたの反応も完璧に見えた。彼女の頬の赤み、瞳の輝き、息遣いの乱れ――全ては「好意」という感情を表していた。演技ではない、本物の感情を。
一瞬の静寂の後、ひなたが応える。
「私も……あなたのことが……」
彼女の言葉が途切れた時、ドアが激しく開かれた。




