第13話 文化祭前夜の決意
二人は図書館のフリースペースの静かな一角で、演技の練習を始めていた。
「いよいよ文化祭、明日だね」
「よし、最後にもう一度通しで練習してみようか」
湊が言うと、ひなたも頷いた。
二人の演技は、以前の感情的な表現から、少し冷静さを残した演技へと変わっていた。湊は自分の感情を抑え、明らかに大げさな仕草を加え、ひなたもわざとらしく応える練習をした。
「こんな感じでいけば、絶対に『演技』だってわかるよね」
ひなたが小さく笑った。
「ああ、これなら大丈夫だ」
湊も同意した。
帰り時間が近づいていた。
「そろそろ帰ろうか」
「うん……」
ひなたは少し名残惜しそうに頷いた。
閲覧室を出て、人気のない廊下を歩きながら、ひなたが突然立ち止まった。
「あの……桐島くん」
「なんだ?」
夕陽に染まる廊下で、ひなたは決意したような表情で湊を見上げた。
「明日の文化祭が終わったら……お父さんに話そうと思うの」
「え?」
湊は驚いた。
「私たちのこと……もう隠したくないの」
「本当にいいのか?」
「うん。だから……明日のカップル演技を最後に……」
彼女の言葉が途切れたとき、突然廊下の角から柏木先生が現れた。
「あら、二人とも何してるの?」
「あっ!」
ひなたは驚いて湊から距離を取った。
「先、先生……」
「文化祭の練習? 明日のカップル演技、楽しみにしてるわよ〜」
「は、はい……」
「桐島くんも頑張ってね」
柏木先生は湊にもウインクし、それから先に歩き去った。
二人は顔を見合わせ、小さく安堵のため息をついた。
「びっくりした……」
「ああ。それで……さっきの話だけど」
湊が続きを促すと、ひなたは少し迷った表情をした。
「明日の文化祭の後にちゃんと話したい。大切な話だから」
「わかった」
二人は別々の方向に分かれる場所まで来た。
「じゃあ、また明日」
「うん……また明日」
人目につかない一瞬、二人の指先がそっと触れあった。
「頑張ろうね……明日」
ひなたの目には決意の色があった。
「ああ……明日が楽しみだ」
湊も真摯に返した。
それぞれの道に進みながらも、二人の心は繋がっていた。明日の文化祭。そして、その後に待つ大きな決断。
(明日は、特別な一日になりそうだな)
しかし、その胸の内には小さな不安も潜んでいた。朝倉誠一郎という厳格な教育者が、娘の恋愛をどう受け止めるのか。そして、自分はその期待に応えられるのか。




