第12話 秘密の恋人、芽生える嫉妬とすれ違い
秘密の恋人関係になってから数日、湊とひなたは学校では普通のクラスメイトを演じながらも、放課後や隠れた場所では、恋人同士の時間を過ごしていた。
ある放課後、二人は図書館の奥の静かな場所で勉強していた。
「この英文がよくわかんない」
ひなたが英文法の問題を指さして聞いた。
「ん〜、これはな……」
湊が説明を始めると、ひなたはその横顔をじっと見つめていた。彼の真剣な表情、集中した時の眉間のしわ、落ち着いた声のトーン――それらすべてが、彼女の心を躍らせた。
勉強の合間、二人はそっと手を繋いだり、小さな会話を交わしたりしていた。学校という公共の場所で、秘密の恋をするという緊張感と甘さが、二人の関係に特別な色を加えていた。
「いよいよ来週は文化祭だね」
ひなたが教科書を閉じながら言った。
「ああ……カップル演技、いよいよ本番だな」
「緊張するよ……。本番で本当の気持ちが出ちゃったら……みんなにバレちゃうよ?」
湊はその心配を理解した。事実、湊自身も彼女との練習中、あまりに自然な感情が湧き上がってきて戸惑った経験があった。
「そっか……じゃあ、演技を少し変えるか?」
「変える?」
「ああ。もう少し……お互いに距離感のある演技にしよう。もっと『演劇的』な、誰が見ても『演技』だとわかるようなオーバーな表現にするんだ」
「うん……それがいいかも」
ひなたは安心したように頷いた。
次の日の放課後、その日も湊とひなたは図書館の片隅で勉強していた。二人だけの静かな時間。
「この式の解き方わかる?」
ひなたが質問したとき、湊はそっと彼女の手に触れた。
「ここをこう変形して……」
その瞬間、図書館のドアが開く音がした。
「あ!」
二人は慌てて距離を取った。入ってきたのはクラスメイトの清水だった。
「朝倉さん、そんな所にいたのか。生徒会から資料を……」
清水の目が湊とひなたの間を行き来する。一瞬の沈黙。
「あっ、桐島も一緒だったんだ」
清水の表情に微かな疑念が浮かぶ。湊の能力が反応した。
(疑っている……気づかれたか?)
清水は二人を不思議そうに見つめた後、資料を渡してひなたに言った。
「じゃあ、またね」
去り際、彼は何かを言いたげに振り返ったが、何も言わずに立ち去った。
「危なかった……」
ひなたがため息をつく。
「大丈夫だよ。清水は何も気づいてない」
湊は自信を持って言った。しかし内心では不安が膨らんでいた。
(嘘だ。彼は確実に何かを感じている……)
翌日、清水が湊を校舎の裏に呼び出した。
「桐島、聞きたいことがある」
彼の声は冷静だったが、湊の能力は激しい感情の揺れを察知した。
「朝倉さんとお前、付き合ってるのか?」
ストレートな質問。湊は一瞬ためらったが、約束を思い出した。
「違う。ただの文化祭の打ち合わせだ」
初めて、湊は意図的な嘘をついた。自分の能力に逆らうような感覚。胸が痛い。
清水は湊の目をじっと見つめた後、小さくため息をついた。
「そうか……ごめん、誤解してた」
彼は去り際に言った。
「朝倉さんには幸せになってほしいんだ。もし何かあったら……俺に相談してくれ」
湊は返事ができなかった。他人の嘘は簡単に見抜けるのに、自分が嘘をつくのはこんなにも辛いものなのか。
その日の夕方、湊はひなたに清水との会話を打ち明けた。
「ごめん……嘘をついてしまった」
ひなたは湊の手を握りしめた。
「いいの。私たちの約束だもの」
「でもなあ……他人の嘘は見抜けるのに、自分が嘘をつくのはこんなに苦しいなんて」
「桐島くん……」
ひなたの目に涙が浮かんだ。
「もう隠れたくない。正直に言いたい。あなたのことが好きだって」
湊はどう答えたらいいのか迷いながらも、そっとひなたの肩を抱き寄せた。




