不器用な彼女
「遅くなりました!」
いのりが紙袋を抱えて戻ってくると、長谷川が自分の机の前で頭を抱えていた。
心なしか、顔が赤い。
それだけでなく、ぷるぷる震えてもいる。
「先生……!」
いのりは心臓を握られたような不安を感じ、長谷川のもとへ駆け寄った。
「先生、具合が悪いんですか?」
また熱があるんじゃ……と、額に手のひらを当てようとすると、
「違う」
長谷川は、いのりの手を邪険に払いのけた。
「これを、読んでみなさい」
「……?」
いのりは、一枚の紙を渡され、読み上げ始めた。
「先生へ。
最近、先生は冷たいです。
前のほうがよっぽど、私にスキンシップを求めてくださいました。
熱いまなざしで見つめてくださったことも、たくさんあったはずです。
それなのに、どうして両想いになったとたんに、私に冷たくなさるのですか?
意図的に距離を取られているみたいで、私は寂しいです。
どこか、私に悪いところがあったのでしょうか?
会話も事務的なことばかり。きちんと私に、言葉にしておっしゃってください。
あなたのいのりより……」
いのりは、じーっとその紙を見つめていたが、
「ああ」
ぽん、と手を叩いた。
「これ、前回の講義の、出欠ペーパーの感想欄に書いたんですよね」
それが何か? と長谷川を見る。
「……それが何か? じゃない!」
長谷川はますます頭を抱えた。
「なんかの拍子に誰かに見られたら、どうするんだ!」
「あー……。
でも、私もこのとき、テンパってて。
先生のことしか考えられなくて、コミュニケーションの方法を探ってて……。
それでたどり着いたのが、確実に読んでいただける方法だったんですよね」
「ですよね……」
長谷川は顔を覆ってしまう。
「でも、冷静になったら、私かなり危ない橋を渡ってたんですね……。
ごめんなさい、先生」
いのりは、深々と頭を下げた。




