第6(5.5話):少女の想い~志穂の場合~
朝早い時間。
今の時間はまだ5時過ぎ。
その時間に私は起きてケーキ作りの練習をしていた。
私は宮乃志穂。
今年で今通っている蓬蘭学園の付属3年になる。
私がこうして朝早くにケーキ作りの練習をしているのは単純にこの時間しか練習に充てる時間がないってだけ。
チン!
どうやら焼きあがったみたい。
上手く出来てますようにと祈りながらオーブンを開ける。
開けるといい香りがフワッと香る。
うん。焼き加減も申し分なさそう。いい焼き色。
「おや、出来たかい」
傍で御仕事に出掛ける準備が出来た義父さんが顔を見せる。
私は出掛ける前に出来て安堵しつつ、義父さんに出来上がったのを見せる。
そして試食の御願いをする。
「はい。お父さんどうですか味見して頂けますか?」
「ああ、頂かせてもらうよ。勿論採点は手加減しないからね」
「はい。その方が私の為になるのでお願いします」
私の作ったケーキを手に色々観察する義父さん。
そしてフムフムと呟くと義父さんは口に運ぶ。
この瞬間とても緊張する。
義父さんはプロの料理人で料理から甘味作りもプロ級の腕前をしている。
そんなプロである義父さんに試食してもらうのは緊張する。
義父。
私と義父さんとは血の繋がりはない。
私は母の連れ子で、母が今の義父さんと再婚した事で親子の関係となった。
もちろん私は義父さんを料理人としても尊敬しているし、忙しい朝の時間をこうして私の為に取ってくれるのもあり、私は本当の御父さんと慕っている。
優しい義父さん。私の自慢。
正直何で母の様なぐうたらな人と再婚したんだろ?と思う事ある。
まあ2人は幸せそうだから良いかと思う。
モグモグ。
ゴックン。
食べ終えた義父さん。
緊張の眼差しのままどうだったか尋ねる。
「うん。だいぶ腕を上げたね。美味しかったよ」
そう言ってくれたのに嬉しそうに笑みを浮かべる。
褒めてくれた。
その事実が嬉しさでいっぱいになる。
「良かった…その義父さん、その何か気になる事はあった?」
「そうだね……」
私は義父さんからいくつかのアドバイスを貰う。
「そんなところだろうかな。……あとは今日のは特に心が籠っていた気がするね。フフっ、気になる人を想いながら作ったのかな」
そう言われ私は真っ赤になる。
さすがプロ。ばれてる。
私はいつもケーキを作る際にはある男の子を思い浮かべながら。美味しいと言って食べてくれる風景を思いながら作っていた。特に今日からは新学期。あの人と今年も同じクラスになれるかな、とか思い浮かべていたりした。
「おやっと、そろそろ出ないと。じゃあ行ってくるよ。片付けはしっかりね」
「はい。行ってらっしゃいです」
そうして義父さんは御仕事に出掛けた。
私も片付けをしっかりこなす。
+
「それじゃ行けって来るねお母さん」
「…はぁ~い、いってらっしゃ~い」
寝ぼけ気味な間の伸びたようなお母さんの声が聞こえる。
お母さんの基本活動時間はお昼前から、7時前だとまだ眠いはず。
それでも私の声に返してくれる。
さてっと行きましょう。
私の家は島の西方の方で学園までは距離があるのでバスを利用する。
この時間帯は空いてるので座席に座れるので楽である。
バスに揺られながらふと外に視線を向ける。
うん。今年も綺麗に桜が咲いてる。
そう思いながら眺めていると、ふと、私の視界に桜の花弁とは違う、青白い花弁が過った。
(蒼標樹の花弁を見れるなんて今日は良い事がありそうね、ふふ)
この島にある一つの伝説。
そこにあるのに誰も見れない。
選ばれた人のみがたどり着ける。
そんな不思議な蒼い花の樹がこの島にはある。
学園近くの公園の奥。
そこにあると言われている不思議な樹。
その花びらを目にするだけでも幸せな事が起きると噂されていたりする。
そしてその幸せはさっそく訪れてくれた。
今年も彼と――咲良蓮君と同じクラスになれた。
私が恋をしている少年。
(よぉしっ!今年こそ、蓮君って呼んで見せるわ……呼びたいなぁ)
私は普段彼の事は『咲良君』と呼んでいる。
本当なら名前で呼びたいのだけど、どうしても緊張してしまうの。
彼も名前でいいのに、と言ってくれるけど恥ずかしさが勝ってしまうの。
とりあえずの目標は、私は彼の事を『蓮君』と、そして彼からは『さん』付けでなく呼び捨てで呼んでもらうのを目標にしよう。
あと今日、食べに来てくれるか聞いとかないと。




