第7話
「はい。今年1年このクラスの担任を受け持つ事になりました高町夕です。皆さんよろしくね」
教卓前で挨拶をしたのは、俺の父方の親戚に当たる人で、父さんの元教え子である女性だ。
俺は夕さんと呼んでいる。
夕さんは、腰まで伸ばしたすらっとしたロングヘヤーの黒髪。理知的な瞳に、眼鏡を掛けている。スタイルも良く年齢もまだ20代と言う事もあり、学園の男子学生の憧れの女性の一人だそうだ。
まあ、夕さんを振り向かせるのは無理だと思うけどね。
なぜなら、夕さんは俺の父さん一筋だからだ。
何でも、元々親戚付き合いで何度か父さんと夕さんは顔を合わせていたらしい。この頃はまだ憧れだったそうだが、大学生の頃に父さんが特別講義に来た際にその姿に惚れ込んだそうだ。
進路も、父さんの影響で科学の分野に進んだくらいだから。かなりの影響力がある。
『学園の講師も色々役立つ経験が出来るよ』と、父さんに助言され、教員免許を取得しこの学園の臨時教師となった程である。
俺と夕さんの関係上は、父さんが殆ど海外で活動しているので、その間、夕さんが俺の保護者役を受け持っている。
まあ、俺が普段夕さんの世話になる事はないけどね。
俺は一応基本な家事一般は自分で出来るしね。……と言うか、何か問題でもあれば、父さんが周りを気にせず無理を言ってでも帰国して来るからな。
しかし、なんで教師が本業に?
夕さんは父さんを目指して科学者としての顔も持っている。と言うよりそちらこそが本業のはず。
夕さんはこの島にある総合科学研究施設の職員でもあるのだ。
確かに昨年も俺のクラスの副担任を務めていたのだけど、何で今年は担任なんだ?
研究所、クビにでもなったのだろうか?
いや、有り得ないか。夕さん真面目だしな。光一の姉である灯さんより真面目だし。
灯さんも非常勤で保健の先生をしていたりする。
まあ、本業は病院の医者なので週に2回くらい出勤するくらいだけど。
「まあ、後で理由を聞けばいいか。今日は夕さん、家に寄る日だったはずだし」
疑問に思うも取り敢えずは気にせず後で訪ねればいいか。
夕さんが挨拶した後、この後は全校集会なので教室を出る。そして体育館に集合する。
全校集会は本校、付属合同で行われる。
この学園の体育館は大きめに設計されているので問題なく集合できる。
体育館には右から本校3,2年、そして付属からエスカレーターで上がった者や外部から今年入学した1年が並んでいる。
本校1年の入学式は昨日行われたようだ。
本校の制服は付属とは違う。
男子は細部が微妙に異なるが同じ学ランだが、本校は袖や裾が赤である。
付属はそれぞれ3色ある。俺達は黄色である。
女子は、付属は白いセーラー服タイプだ。前にボタンが3つあるタイプで胸元にはリボンがあり男子同様に3色ある。
本校は深めの青のワンピースタイプの制服である。
この制服は人気で、この制服を着たいと進学する生徒もいるくらいだそうだ。
そして、本校生の、その隣から付属3,2年と並ぶ。
3年のリボン等の色は黄色、2年は緑色、空席である今年入る1年は水色である。
付属の新入学式は2つ日後に行われる。なので、1年の列は空席だ。
そして全校集会が行われる。
まずは付属、本校のクラス担任の紹介、今年からの新任の先生の紹介、退職した先生の紹介……先生の紹介多くない?
その後は校長先生の挨拶。
この学園の校長は白髪の70代の男性だ。優しげな雰囲気で生徒からも人気がある。
校長の挨拶が話し始った。大抵の学園の校長とは話が長いので有名なのだが、うちの校長はありがちなグダグダ長い話はない。本当に優秀な校長である。………失礼か?
校長先生の挨拶の後、この学園の生徒会長の紹介と挨拶となる。
この学園の生徒会長は本校生から選ばれる。
そして、本校生から3名。付属生から2名。計6名が生徒会役員として選出される。
本校生の生徒会長。
本校生の副会長。
付属生の副会長。
本校、付属が一緒の校舎という事もあり、行事毎も基本合同で行う為、副会長はそれぞれから1人選ばれるのである。
あとは、書記、会計、庶務を務めるのだ。
「それでは、次は生徒会長の挨拶です。生徒会長、神無美咲さん、こちらに」
「はい!」
生徒会長である神無美咲先輩が呼ばれその長い髪を靡かせながら壇上に現れる。
その時体育館内が静まりかえる。
まるで会長の御言葉は聞き逃さない!と言わんばかりである。それだけでも会長が尊敬されているのは分かる。
俊也もやり手の先輩だ。「要チェックや!」とか言っていたな。
名字から分かる通り会長である神無美咲先輩は、燈香さんの上の姉だ。
年は燈香さんとは3つ違いらしい。
本来であれば美咲会長の学年は3年になるのだが、付属時代にとある理由で1年休学した事があり、その為今年度は2年生なのである。
容姿はその薄めの茶髪をストレートに伸ばしている。腰より下くらいまで伸びている。あとは一部後ろで結っている。会長のその瞳には悪戯ぽい、まるで猫の様なイメージを抱かせる。スタイルに関しては…スレンダーと言う言葉が当てはまるだろうか。まあ、小さ目な胸が。当然だが、美咲会長も気にしているらしく、胸の話題を振ると物凄い笑みを浮かべキレる事があるくらいだそうだ。
まあ、そんな欠点らしい部分はあるが手足は長めでモデルとして何度かスカウトされるくらい整っている。この学園のアイドルと言える人なのだ。
神無会長が挨拶の言葉を紡ぐ。
「お早う御座います皆さん。本年度の生徒会長である神無美咲です。まずは本校1年生の皆さん進学おめでとうございます。本校、付属共に無事進級おめでとうです。…私達生徒会は皆さんが学生生活において、勉学、部活動、そう言った青春をより楽しく送れるように全力でサポートさせて頂きたいと思います。…実を言いますと、私は楽しい事は好きです。ですので、楽しい学園生活を、皆さんの御力を合わせ実現して行ければと思います!簡単ではありますがこれにて私の挨拶を終えたいと思います。それでは皆さんっ、良い学園生活を謳歌しましょう!」
満面の笑みを浮かべての挨拶の後、在校生の拍手を受けながら会長は翻し舞台袖の生徒会待機スペースに戻っていく。
俺は会長に視線を向ける。
楽しいと言う言葉。その言葉に俺は“らしさ”を感じる。
視線を向けた瞬間、丁度会長と視線が合った。
会長は少し驚いた様な表情を浮かべた後、微妙に悪戯っぽい笑みを浮かべつつこちらに笑みを浮かべた。
(……やっぱり猫みたいな人だな…っ、なんだろ、この感じは?むかし、か?…)
美咲のその笑みを見た瞬間、そんな風に思う蓮であった。
蓮と美咲の関係は、親友の姉、妹のクラスメイトと言うくらいのものだ。
それ程接点はないはずなのだ。
…………
その後もそつがなく集会は終了した。
そしてそれぞれのクラスに戻る。
先に本校の生徒が退出。その後、付属生が退出する運びだ。
俺達のクラスの番になり体育館から出ると自分達のクラスに向かって歩き始める。
「はぁー!やっぱり、綺麗だよなぁ、美咲会長!」
「うん、美咲姉さん。格好良かった」
「そうね。私も憧れるわ。あのカリスマ性は」
「フフフ、楽しくなるな、あの会長が相手ならば!会長からはなにやら自分と同じ感じがするからな、今年は特に楽しみである!」
体育館から出てクラスの教室に戻る際に出た話題は先程の集会での生徒会長である神無美咲会長だった。
確かに普通とは違う魅力を持った雰囲気があった。
流石は今までの会長の中で一番人気があると評価されている事はあるようだ。
しかし、俺は最後に眼を合わせた瞬間について考えていた。
俺には付属に入学する前の1年程の記憶がないのである。
周りから聞いた話では、俺は事故に遭ったとかで、その事故の後遺症で記憶を失っていたらしい。まあ、日常生活においては問題は無いのはよかったが…
けど、その時は父さん物凄く心配した。
怪我が完治するまでは付きっきりで世話をしてくれた。
そして、怪我が治った後は、俺を一緒に海外に連れて行く!、なんて言い始めた時にはどう説得しようかと考えたほどだ。
あの時は保護者役である夕さんと、その事故の際の担当医師だった灯さんが間に入って父さんを説得してくれたおかげで、今もこうしてこの島にいる事が出来る。そしてアイツの望んだこの学園に通えているのだから2人には感謝である。
(もしかしたら、無くした記憶…その期間に会長と会っていたりするのか?それに…アイツって…誰だ?)
試しに記憶を探ってみたが該当する記憶は浮かばなかった。
痛っ。探り終えると軽く頭痛が走る。
いつもそうなのだ。
記憶を失った期間を思い出そうとするとこう言う風に頭痛が走るのだ。
「どうかしたの、蓮君?何か難しそうな顔をしてたけど?」
「ん?いや、何でもないよ。美咲会長、綺麗だったなと思い出してだけだよ」
「ええ!?…う、うん、美咲お姉ちゃん、綺麗、だよ、ね…」
「えっ?うそ…」
「なにィ!?蓮が女性に対してそんな風に考えるなんて!あの朴念仁の蓮が!?」
「ふむぅ~蓮が生徒会に着くと厄介に……いやこれはこれで」
「…失礼だな君達。特に光一」
何だか心配そうに声を掛けてくれた燈香さんに、俺は頭痛の事に触れられないように、適当に先程考えた美咲会長の事を答えたら、なんでか周りがまるで珍しいものでも見た様に驚く。特に光一が驚いていた。燈香さんと志穂さんは微妙に焦った様な困った様な表情を浮かべたように感じた。
しかし失礼な。
確かに適当に返したが、会長が綺麗だったと言うのは本音だった。
と言うか、俺をどういう目で見てるんだよコイツラ。
俺だって多少は異性に対しての感性を持ってるんだがな。まったく……
その後も雑談しながらクラスに戻る。
暫くして夕さんが教室に入ってきた。
「はい、皆さん集会お疲れ様です。この後ですが、今年一年使う教科書等の配布、新入学生の入学式の後のスケジュール、このクラスの委員長を決める。あとは、そうですね。自己紹介をしておきましょう。取り敢えずですが、まずは自己紹介から始めましょう」
その合図でまずは自己紹介が始まった。




