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第1話

俺はベッドの中で目覚めた。

爽やかな晴れの朝。窓に止まっている鳥達の鳴き声を聴きながら体を起こす。


「ほわ~よく寝たなぁ。なんか変な夢を見ていたような気がするけど…覚えてないし気にしないでもいいかな」


なんだか不思議な同じ夢を見ていたような気がしていたが、夢所以か覚めた時には覚えていないものだった。とりあえず気にしないようにと欠伸を噛み殺しながらベッドから起きる。


「さてっと、今日から付属の3年、最上級生として初めての朝だしな。始業式に間に合うように着替えるとしますか」


今日から、今通っている【鳳蘭(ほうらん)学園】の付属最上級生となる。

鳳蘭(ほうらん)学園】

この心月島にある付属(中等部)から本校(高等部)までの6年制のエスカレーター式の学校である。中高一貫校であるため校舎は同じ敷地内に存在しており、行事も付属本校一緒に執り行われるのが特徴だな。

何よりこの学園の特徴は『生徒による自治性を重視する』という校風なのである。

自由な校風が売りとしており、1年に幾つもの行事という名のイベントが盛り沢山であることから島外から鳳蘭学園(うち)に受験する者もいるくらいだ。

自由な校風故にか馬鹿をする者もいる。

イベントの度に騒いだりとかな。俺の親友にして悪友の2人とかな。

まあそこは優秀な生徒会の者達によって運営されているので問題に発展することも少ない。


俺は寝間着から付属の制服に着替えた。

鳳蘭学園(うち)の制服は、男子は紺に近い黒色の学ランタイプで上着とズボンの裾と袖の部分にその学年ごとの色が施されている。

本校の制服は【赤】一色で、付属はその年に入学した時による。色のバリエーションは【緑色】【水色】、そして今俺が着ている【黄色】である。


着替え終えると階段を下り居間に向かう。

木造の階段を降りるたびに木造特有のギシっと言う音が聞こえる。

俺の住んでいる家は所謂良き古き日本の家といった風貌である。

居間の襖を開けると畳の香りがする。

1階の殆どは畳部屋なのである。

今時畳部屋がある家は珍しいと言えるだろう。

この和風の風貌は俺の母さんが希望したらしい。

母さんはロンドン出身で、今は古き日本を、和風なモノをこよなく愛する人だった。

優しく綺麗で抱擁感のある母さんは俺の自慢でもあった。特にそのサラッとした綺麗なブロンドの長い髪に、神秘的なまるで快晴の空の様な蒼色の瞳をしていた。

母さんの血を継いだ証でもあるその蒼色の瞳を俺も受け継いでいる。

他の外見は日本人である俺の父さんの血を継いでいる。顔立や背丈も日本人らしい感じである。


俺はダイニングルームに向かうと、冷蔵庫を開ける。

朝御飯にと昨日の夕食の残り物を取り出すのと同時に冷蔵庫の中身を確認する。そして確認を終えると取り出した朝食を居間にあるコタツテーブルの上に並べる。

パンを主食に、昨日の残り物、そして飲み物にお茶をコップに注ぐと畳に敷いてある座布団に座る。そして「いただきます」と手を合わせ食べ始める。

モグモグと食べながら思うのはやはり、


「…んぅ…やっぱり1人だと静かだな……」


だった。

現在この家に住んでいるのは俺だけだ。正確には1人の一匹であるが…

先に挙げた俺の母さんは、俺がまだ小学生低学年の頃に亡くなっている。

母さんの名前は【アイナ・ユーフィリア・咲良(サクラ)】。

幼いながらに俺は母さんの早すぎる死に悲しんだ。

悲しみはしたが……どうしてだろうか、母さんはいつも俺を見守ってくれている。と感じていた。

それに母さんの死に父さんも深く傷付いていたのを感じ取っていた。だから俺が父さんを支えてあげないと、悲しんでいる場合じゃない!と幼ないながらも思った。


「ん?…電話、だ……」


制服のポケットに入れていたスマホから着信音が流れてきた。

この時間に電話してくるのは恐らく、先程丁度考えていた父さんからと思いながらスマホを取り出し画面を確認する。


≪着信♪≫

愛しの父さんですよ~♪


と表示されていた。

……これは俺の本意ではない。

父さんの名前は【咲良蒼司(さくらそうじ)】と言う。

現在海外を拠点に活動している科学者なのである。

父さんはとある理由にて、俺を自分の活動している海外に連れて行こうとしたのだが、俺はどうしてもこの島から出る気がしなかった。

俺がこの島に残る条件を父さんは幾つか提示した。

その一つが着信画面に表記されている文字だ。

これを登録してくれないなら許さないぞ!と。

正直恥ずかしいのだが、必要なのことだし、誰にも見られないならいいかな、と登録した。

父さん凄く嬉しそうな笑顔だった。

……おっと、着信が切れる前に出ないと。

何かあった!?と思われても迷惑をかけてしまうからな。

俺は着信ボタンを押すとスマホに耳を傾ける。


「おはよう、父さん」

『やあ、おはようだね、蓮!うんうん、ちゃんと起きれて感心だね。流石は父さん自慢の愛息子だね♪』

「いや、もう俺もいい年なんだから起きるくらい普通だよ。いい加減子ども扱いはやめてくれない、父さん?……と言うか、まさかそれだけの為に電話してきたの?」


うん、まあ既に分かる通り、父さんは俺を溺愛している。物凄く甘いとも言える。

いつまで経っても子供扱いをするのだ。

正直俺も来年には高校に上がる年にもなるのだ。子供扱いはやめていただきたいと思っている。


『何を言うか。蓮がいくつになろうと私の可愛い息子だ。息子を可愛がるのは親として当然なのだよ!…あと電話したのはそれだけではないよ、もちろんね』


ハア、いつまで経っても変わらないな父さんは。昔からこうなのだが、母さんが亡くなってからはより一層酷くなった気がする。


「…それで、どうしたの?何か電話で伝えることがあるの?」

『うむ。それはだね、今日から蓮も付属の最上級生となったからね。そのお祝いの言葉を伝えたいと思ったのだよ。正直言うと直接そちらに出向いて直接お祝いの言葉とか色々したいと思っていたのだがね』

「いや、ただ学年が一つ上がっただけだから、父さんのその言葉だけでも嬉しいよ。だから、無理言って勝手に抜け出してこっちに駆け付けたりは駄目だよ。研究所の人達に迷惑かけちゃだめだから…おっと、そろそろ出ないと遅刻しそうだから切るよ」

『まっ、蓮、実は――』


俺は父さんに迷惑を掛けちゃ駄目と釘を刺しながら通話を切った。

最後に何か言い掛けていた気がするけど、実際そろそろ家を出る時間になりそうだったので遠慮なく切った。

父さんは優秀な科学者で、今はアンドロイド開発に尽力しているのだ。ちなみに俺もほんの少し関わっていたりする。

その開発チームのチーフであり責任者が父さんなのだ。

そんな責任のある立場にある父さんだが、俺に何かある度に研究をほっぽり出して抜け出すのだ。

父さんは専用の高速飛行機を所有しており、その高速飛行機に乗ってこの島に帰って来る事も少なくない。

責任者が急に『息子に逢いに行きます!』と失踪するのだ。チームの同僚の方々に正直申し訳ない気持ちで一杯だったりする。まあ、チームの皆さんはそんな父を理解してくださっているのか、もし父さんが勝手に居なくなった時は俺のいるこの島にいる、と直ぐに納得するようになっている。分かり次第俺に連絡が来ることは多くないであろうか。

そんな周囲を困らせてしまう父さんだけど、俺は尊敬しているし、こう口にすると恥ずかしいのだが愛している。無論家族として。

優秀な科学者である父さんは俺の目標の一つでもあるのだ。


使った食器を水に浸けると洗面所に向かう。

歯磨きなどをした後、鞄を自室に取りに戻る。

今日は始業式だけなので午前までしかない。無論授業もないので鞄に教科書の類は入れていない。

その鞄を手にし脇に抱えると、俺はこの家で一緒に暮らしている猫の様な不思議な生き物,名前はミューと言う。

包まるように眠っている家族と言える猫?であるミューの頭を優しく撫でた。

俺がまだ幼い頃から一緒に過ごしてきた、この家で暮らす唯一の家族と言っても過言ではないのである。毛並みはふさふさとしていて撫でると気持ち良い。ふわふわとした長めの尻尾。くりっとした可愛い眼をしている。

眠っているミューのフカフカの毛触りの頭を開いている手で撫でる。

撫でると目元が笑みを浮かべる。

本当に可愛らしいのである。動物好きである俺の一番の癒しである。


「ふふ、それじゃ行ってくるね、ミュー。留守番お願いね。今日はお昼には帰って来るからね」


そう起こさない様に小声で声をかけると自室を出る。

出る際に、


みゅみゅ(いってらっしゃ~い)~』


と、ミューの声が聞こえた。

笑みを浮かべながらもう一度「行ってきます」と声にし、階段を下り玄関に向かう。

玄関で靴を履くと、扉を開け外に一歩踏み出す。


背伸びをしながら綺麗に咲いている桜に目を向ける。


ひらり~はらり…


風に揺られるように桜の花弁が舞う。その舞った花に交じり桜とは違う、まるで雪の様な神秘的な青白い花弁が一枚、視界に映った。





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