第2話
学園までの道程を歩いていく。
過ごしやすい暖かさに、視界に入る桜の花弁、新鮮な空気を吸いながら歩く。
俺の暮らすこの島の名前は【心月島】、別名を島の形が”M”の形に似通っている事から【エム島】とも呼ばれている。
本島から離れている島であるが、心月橋と言う橋で繋がっており行き来もしやすい。
島である為か、この島には鉄道関連は存在していない。交通手段はバスが殆どである。
施設関係も意外と充実しており、大きな総合病院もある。気候も安定しており、空気も綺麗な事から、この島で過ごしたいと言う者も少なくなく、特に空気が良い事から、病気の療養に来る者もいるくらいだ。
あとは俺の父さんが元々所属していた研究施設【天河技術研究所】がある。此処には俺の従姉にあたる女性が所属している。
娯楽関係も島の端に【心月パーク】と言う、都会に比べれば小さいが遊園地もあると充実している。
歩いているとこの島の中心にある大き目の公園の入り口が見えてきた。
それと同じく、付属生の制服を纏った見知った女の子の背姿が見えた。
俺はその子に近付くとその背から声を掛けた。
「おはよう、燈香さん」
「ひう!?……あっ、れ、蓮君!」
出来る限りやんわりと声を掛けたのだが驚かせてしまったみたいだ。
あと、なんだか声を掛けて来たのが俺と分かったのか、肩をビクッと驚いたようだがほっとした表情に変わった。
あとなんだか嬉しそうな感じが伝わってくる。
「あはは、ごめん、驚かせたかな?」
「う、ううん。ごめんね、驚いちゃって……それと、…おはよう、蓮君」
「うん、おはよう、燈香さん。俺も一緒に登校してもいいかい?」
「うん!私もお願いしようと思っていたから…その嬉しいです」
頬を染めながら嬉しそうに何度も頷く燈香さん。
俺達は一緒に学園までの道程を歩き出した。
この少女の名前は神無燈香。俺と同学で仲の良い異性の一人だ。
同学年だから燈香さんは付属の制服を着ている。
ボタン留の白いセーラータイプの付属制服に紺のスカート、制服の胸元にあるリボンは俺と同じ【黄色】である。
肩の下くらいまで伸ばしたストレートのオレンジ気味の髪、頭には白いヘヤーバンドを付けている。優しげな下がり気味の瞳だ。スタイルも同年代に比べて良い方である。
燈香さんとは、今通っている学園からの付き合いになる。
初めて出逢ったのは蓬蘭学園に入学した始め。つまり入学式の日だ。
少し早めに学園に着いたこともあり、あらかじめ把握はしているが実際どんなものがあるのかなと散策していたその最中だった。
花壇のあるあまり人気のない場所に一人の女の子と自分と同じ制服を着ている男子の姿があった。
女の子の困った雰囲気からあまり友好的に見えなかったので間に入ることにした。せっかくの入学式が台無しの気分になるのは嫌だなと。
そして、どうやら学園に来たのは良いけど迷ってしまっていたようだ。この学園付属と本校を含んでいるので普通の学園のより大きめの敷地を有している。俺も探索目的で歩いていたくらいだし。
お姉さんと待ち合わせしていたみたいだけどこの色とりどりの綺麗な花壇に目を奪われてこの場所に来たのはいいけど迷ったのだそうだ。そして迷い困っている時に、在校生の男がどうにも友好的な雰囲気とは言えない様子で話し掛けられ困っていた。
怯えた様子の燈香さんを見過ごせず俺は結果的に助けた。
その時に俺は、燈香さんは男性に対して苦手意識がある事を知った。
間に入った俺に対しても、初めて会うのだから見ず知らずの男子である俺に燈香さんは困惑した表情を浮かべていたな。
その時は新入生同士である事等を怖がらせない様に心がけながら話し、一緒に体育館まで行った。
『あ、あの、ありがとう、ございました…』
『気にしないでいいよ。これから一緒に学びあう者同士なんだから』
『は、はい。その、また…』
『それじゃ、また困ったことがあったら俺を呼んだらいいよ。同じ新入生同士なんだからね』
『あ、ありがとー』
体育館に着いた後は燈香さんとそんなやり取りをした後お互いの集合場所、クラスの待機場所に向かった。
まあ、何かの縁だし、また出会うこともあるかな?とか考えていたのだが、再会は一瞬だった。
なにせ一緒のクラスだったのだから。
『あれ?もしかして…』
『あはは…どうやら、一緒のクラスだったみたい、ですね』
『そうみたいだね。これから一緒のクラスメイトだしよろしくね、神無さん』
『こちら、こそ…宜しくお願いしますね、咲良君』
この縁から俺と燈香さんは親しくなり友達になった。
どことなく惹かれるものがあった。当時は漠然とそう感じたのだ。
『男の子は苦手だけど、咲良君は、その、他の男の子とは違うの―』
そう言われた時は優越感だろうか、嬉しく感じる自分がいた。
燈香さんはルックスもよく、家でも家事を担当していることもあり家庭的な雰囲気も合わさっている。
学園には家庭科部と言う部活があり、手芸から料理等を学んだりすることを目的としている。その家庭科部に燈香さんも所属している。
家事に関してはハイスペックな様でよく後輩等に頼りにされているみたいだ。
偶に部活で作ったお菓子を恵んでくれるので甘い物が好きな俺としては嬉しいものだ。しかも美味しいから尚のことである。
優しくルックスも良く家事万能という事もあり、学園では【お嫁さんにした女の子】と立ち待ち人気者となっていた。
優しく親身になってくれる。それに燈香さんには二つ学年違いの人気のある姉の存在も人気の拍車をかけているだろう。
結構な数の男子から告白されているが、燈香さんは全て断っている。
ん?何故俺が知っているか?それは簡単だ。
それは当人である燈香さんから御願いされ、告白の際には影から付き合っているからだ。
曰く、『告白の返事の際に知らない人と会うのが怖いから陰で見ていてほしい』との事だ。
実際、何度か本校の先輩とかでしつこい輩がいたりした。そう言う厄介な輩には俺の出番という事になる。無論双方に後腐れの無い様に対処する。どんな対処かは……まあ、ピカッと目の前で光らせたりとかかな………
一緒に歩きつつ横目に燈香さんを見る。うん、燈香さん嬉しそうに笑みを浮かべてる。
俺はこの子の笑顔が好きだな。
そう思いつつ燈香さんと歩いて行く。
そして、学園まであと少しの坂道の途中、俺達の後方から親友の声が届く。
俺と燈香は足を止め後ろに視線を向ける。
「おぉ~いっ、蓮っ、待ってくれェ~」
叫びながら走って声を掛けてきたのは、俺の幼少の頃からの親友であり悪友である、草薙光一だった。
全力で走ってきたのか息を整える光一。疲れは見えない。全力疾走してきても体力は万全のようだ。流石バスケ部エースだな。
人懐っこい笑みを浮かべると朝の挨拶をする光一。
「おはっす!一緒に行こうぜ、蓮。あと、燈香ちゃんもおはよう!…ああ、もしかしてお邪魔だったかなぁ俺ってば?」
俺と燈香さんに挨拶をしつつ悪戯っぽくからかってくる光一。
俺はいつもの事と呆れた様に返し、燈香さんも若干頬が赤い気がするが慣れた様に返す。
「おはよ、光一。なに言ってんのかよくわからんが、別にお邪魔なんてわけないから、一緒に行こうぜ」
「お、おはよう、光一君。その、私も一緒で大丈夫だよ……邪魔なんて、そんな…」
(うう、蓮君との一時が…)
コイツの名前は草薙光一。
この心月島にある一番大きい病院、名称を草薙総合病院と言う。光一は、そこの院長の息子なのである。
俺と光一は、親同士が昔から親友という事もあり、同年という事もあってか一緒に遊んだりと仲が良い友達だ。
大事な人間を上げられると、両親やミューを除くと光一が上がるくらいだ。
それくらい俺は光一を友として信用している。
……まあ、昔からやんちゃで色んな事を思い付いては行動したりした。そしてその思惑によく俺を巻き込もうとしたりするのだ。それについては勘弁してほしいが。
光一の身長は確か165くらいだ。赤毛で、中央で分けた様な髪型だ。眉は太目で、子供みたいな目をしている。制服は前のボタンを留めずオープンにしている。
運動神経が良く、バスケットボールが特に得意で、学園ではバスケ部に所属している。
1年からその才能を買われてレギュラー入りし地区大会の優勝に貢献した事もある。
2年ではなんと全国大会に出場するまでに至った。
光一繋がりで俺も偶にバスケ部の助っ人として参加したりする。
2年時には全国大会出場の掛かった試合で俺は光一の『御願い』で参加し一緒にプレイしたりする。
あの時は少しやり過ぎて色々毎ごたごたとしたな。まあいい思い出だなアレも。
あとは、そうだな。運動優秀のその反面、光一は、学業が苦手でテストや休暇の宿題等でよく助けを求められたりする。テストでは赤点、もしくはぎりぎりのレベルである。よく泣き憑かれたりした。その際はスパルタで教えてやった。
坂道を登りながら光一が話す。話題は今日の朝だ。
「いやぁ~妹が気を利かせて起してくれたんだよ。じゃなかった遅刻してたかもな、ははは!」
「朝陽ちゃんが?それは朝陽ちゃんも大変だったね、ぐうたらの兄貴を持つと」
「それ酷くねっ!?」
悪いが酷くない。真実だからな。
燈香さんも若干「あはは…」と苦笑していた。
光一には2人の姉妹がいる。
長女の灯さん。
実家である『草薙総合病院』に所属している医者で、俺も昔からよく接した年上の女性だ。
あと、『鳳蘭学園』の非常勤で保健医も周何度かしている。
俺は、とある理由で月に一度程度、灯さんの世話になっている。それは、俺の秘密を唯一知る人物だからだ。
そして、もう1人の先程話に出てきた朝陽ちゃんは光一の二つ下の妹さんだ。
確か今年、鳳蘭に入学するはずだ。
朝陽ちゃんは、感情表現が苦手な娘で、あまり何を考えてるのか解り辛いとこがある。
まあ、合格した時は頬を赤く染め「合格しました」と報告してくれた。
「おめでとう」と褒めショートの赤髪を撫でると表情は変らずだが頬が真っ赤になった。
俺は嬉しそうだと感じた。
「朝陽ちゃんも今年から入学かぁ」
「そうだな。あいつ、何考えてるか分からんが、嬉しそうだったな。…あと、『蓮さん、家の駄目兄共々宜しくです』とか言いやがるし」
「はは、的を得てる。流石、朝陽ちゃんだね!兄貴の事を理解してらっしゃる」
「アハハ……(嬉しそうに、か…光一君の妹さんも、もしかして蓮君のこと好きなのかな?)」
「おいおい、2人して笑うなよぉ!…まったく、特にこのモテモテ野郎が!」
「相変わらずだね、その呼び方。何処がモテモテなのか?」
「はっ!モテモテ野郎が何言ってんだぁ?この前もお前告白されてたじゃねぇかよ」
「えぇっ!?」
「…なんで知ってるんだ?」
告白の二文字に燈香は驚いたような表情を浮かべた。
確かに卒業する本校の先輩から告白されたんだが、なんで光一は知っているんだろうか。
「……知らねえよなぁ、お前は。…あの先輩、去年の卒業生の中で一番可愛いと評判だった子じゃないか。当然男子から人気もあったんだから…もったいないよなあ?俺だったOKするのに。うぅ、羨ましいぜ!」
「……断ったの、蓮君?」
「ああ、断ったよ。……なんか、こう、この人は違う。って思っちまうんだよ」
(そっかぁ~断ったんだ、良かったぁ)
何だかほっとした燈香を他所に、蓮は頭を掻きながら言葉にできない思いを告げた。
確かに3月の卒業式の日に、本校の先輩の女の子から告白されたのだが。告白されて嬉しいと思う反面、その時も、なんか違う。俺に受け入れるべき人ではない。
そんな風に感じ、結局断ったのだ。
自分でもよく解らないのだ。
「……やっぱり、まだ引きずってんだな…」
「ん?何か言ったか?」
光一は小声で何か呟いたが聞き取れなかった。
俺は何処か普段見ない神妙な表情の光一が気になった。
「いや、気にすんな。…お前を落とすのはどんな女の子かなって言ったんだよ。…そうだなあ、燈香ちゃんとかどうよぉ。仲もいいしな」
「な、何言ってるの、光一君!?」
燈香さんは光一のからかう言葉に頬を染めあたふたする。
俺をからかう様な表情だ。うん、さっきのは気のせいだな。光一に神妙な表情なんて似合わん。いつも馬鹿やってる方が似合ってる!
「お前、なんか失礼なこと考えてねえ!?」
「気にするな、たいした問題じゃないさ」
「お、おう」
「あと、燈香さんもこいつの言う事を気にしない方が良いよ」
「え、そうだよね…はは(うぅ、蓮君は私の事、ただの友達って思ってるのかな、やっぱり)」
「…意外と鈍感な奴だよホント」
そんなやり取りをしながら3人で坂を上る。
ふと光一がある話題を振ってきた。
「そう言えば、蓮と燈香ちゃん、テレビ見たか?なんか何処かの学園で集団失踪が起きたとかってニュースがあったんだがな」
「ああ、そんなニュースしてたな。確か、神隠し事件だとかちょっとした騒ぎになってるんだっけか」
「神隠し?」
「ああ、燈香ちゃんは知らないのか。何でも、4月の頭に教室に集まった生徒と先生が突然消えたんだと」
「なにそれ…怖い……」
ニュースで知ったと言うより父さん経由で知ったが正しいと思う。今から1週間ほど前に本島のとある学園で、新学期初日にクラス内にいた29人の先生と生徒が忽然と消え失踪したらしい。
何かのテロか!とか、現代の神隠しか!とか騒がれていたりする。
「怖いもんだな。いきなりとか…進展もないんだっけか」
「そうみたいだね。家族の人とか、かなり心配してるらしいね」
「そうだよ。私もお姉ちゃん達が急にいなくなったら凄く心配するもの」
親族達は失踪した我が子を必死に捜索している様だが、今のところ進展のないままの様だ。
実を言うと、他のとこでも数人の人間が消える事件が起きていたりするのだが、こちらは特に報道されたりはしていないようだ。
と言うか、神隠し多くないか、日本?
3人でそんなやり取りをしながら坂を上りきると学園の校門に到着した。
そして共に校舎前に向かう。
今年度のクラス表が張り出されているからだ。
さて今年のクラスを確認しに行きますか。




