略奪愛は泥沼の始まり? 荊州おねだり攻防戦!
赤壁の戦いでツンデレ覇王・曹操を大炎上(物理)で退けた劉備連合軍。
普通なら大勝利に沸くところだが、戦場となった一等地「荊州」の所有権を巡り、早くも新たな泥沼の愛憎劇が幕を開けようとしていた。
呉の宮殿では、年下わんこ・孫権が劉備の服の裾をぎゅっと握りしめてウルウルと碧い瞳を潤ませていた。
「劉備先輩……曹操を追い払ったのは僕たち呉の功績だよね? だから、この荊州は僕たちの愛の巣にするんだ。先輩もここにずっと居て、僕のお嫁さんになってよ……!」
「えっ? ええっと、孫権くん、それはちょっと急すぎるというか……」
劉備が困ったように大きな耳たぶを赤く染めていると、その背後からスッと、冷気と共に見覚えのある銀髪が伸びてきた。ヤンデレ軍師・孔明である。
「おやおや、耳の痛い物言いですね。我が君の美貌に免じて少しの間だけこの荊州を『お借り』するだけです。それを結婚だの愛の巣だの、子犬の分際でずうずうしい。……今すぐその薄汚い手を離さなければ、貴方の周りの家臣ごと、呪いの祈祷で呪殺いたしますよ?」
「ひ、ひえっ!?」
孔明の放つガチの殺気に孫権が縮み上がった瞬間、奥の扉がバンッ!と勢いよく開いた。
「うるさいぞ、蜀の貧乏人ども! 我が君(孫権)を脅かすな!」
現れたのは、呉の最高司令官・周瑜と、その後ろから物騒な弓矢をジャラジャラと鳴らしながら入ってきた一人の美少女――孫権の妹、孫尚香だった。彼女は男勝りで、腰に常に刀を帯びていることから「弓腰姫」と恐れられるツンツン格闘系女子である。
周瑜はニヤリと鼻で笑い、完璧な作戦を提示した。
「ならば、こうしよう! 劉備、貴様と我が君の妹、尚香を政略結婚させる! これなら荊州は身内のもの、文句はあるまい!」
周瑜の狙いは、結婚を餌に劉備を呉に監禁し、関羽や張飛、孔明から引き離して無力化する「美人局監禁プラン」だった。
当の孫尚香は、腕を組んでフンと顔を背ける。
「な、何よ! 私がこんな頼りなさそうな、むしろ売りの女(?)と結婚しなきゃいけないの!? 冗談じゃないわ、私の趣味は自分より強い男なんだから……」
しかし、劉備は違った。トコトコと孫尚香に近づくと、その傷だらけの手をそっと握り、きらきらとした瞳で見つめたのだ。
「わあ……! 尚香ちゃん、すごく格好いい! 女の子なのにこんなに重い武器を持てるなんて、本当に素敵。私、ずっと強くて頼りになるお姉ちゃん(?)が欲しかったんだ!」
天然タラシ兵器、呉の格闘姫にクリーンヒット。
「は……!? な、ななな、何を言っているのよ貴女はーーーっ!?」
孫尚香の顔が一瞬でトマトのように真っ赤に染まる。これまで周囲の男たちからは「可愛げがない」「凶暴すぎる」と敬遠されてきた彼女にとって、自分の強さをこれ以上ないほどピュアに肯定されたのは初めてだった。
(な、なによこの子……! 守ってあげなきゃいけないくらい弱っちいくせに、私をそんな目で見るなんて……っ! ズ、ズルイじゃない……!)
「き、決めたわ! 私、この人と結婚する! お兄ちゃん、周瑜、文句言ったらぶっ飛ばすからね!」
「ちょっと待て尚香!? 作戦が違うだろ!」周瑜が顔を青くして叫ぶ。
こうして、劉備と孫尚香の結婚式(という名の、劉備の新たなハーレム勧誘式)が呉で執り行われることになった。
新婚初夜。
劉備を呉に閉じ込めておくはずの計画だったが、寝室では意外な光景が広がっていた。
「玄徳、ほら、私が編み込みをしてあげるわ。……べ、別に貴女の髪が綺麗だから触りたいわけじゃないんだからね!」
「わあ、ありがとう尚香ちゃん! 尚香ちゃんって、実はすっごく優しいんだね!」
完全に劉備の魅力に骨抜きにされ、ただの世話焼きデレツン嫁と化した孫尚香。
しかし、この事態を黙って見ている「元祖・重婚同盟」の面々ではなかった。
呉の宮殿の屋根裏から、ギシ……ギシ……と不穏な音が響く。
「……我が君。やはり呉のネズミどもに我が君を預けるなど、私の胃が持ちません。今すぐ孫尚香ごと、この国を水没(水計)させましょう」
関羽が青龍偃月刀の刃を月光にギラリと反射させる。
「玄徳姉ちゃん! あたし、結婚式の引き出物のブタを全部生きたまま食っちまったぞ! 姉ちゃんを連れ戻しにきた!」
張飛が窓ガラスを力ずくで叩き割ってエントリー。
さらに、寝室の影からヌッと現れた孔明が、不敵な笑みを浮かべて羽扇をパッと開いた。
「ふふふ、呉の皆様。我が君を監禁したつもりでしょうが、実はこれ、我が君の可愛さで孫尚香殿を寝返らせ、さらに荊州の支配権をうやむやにする『美少女連環の計』だったのです。……さあ我が君、夜逃げ(デート)の時間ですよ」
「ええっ!? みんな来てくれたの? じゃあ、尚香ちゃんも一緒にみんなでピクニックに行こう!」
「ちょっと待ちなさい、私も行くわよ! 貴女たちなんかに玄徳は渡さないんだから!」
孫尚香も武器を持って劉備の腕に抱きつく。
「離れなさい、新参の泥棒猫が!」関羽がブチギレる。
「姉ちゃんはあたしの嫁だーーーっ!」張飛が叫ぶ。
こうして、劉備一行は呉のトップたちの包囲網を、「ただの痴話喧嘩の大乱闘」によって強行突破し、荊州の領有権をうやむやにしたまま、ちゃっかり自分たちの本拠地へと連れ帰ってしまったのだった。
遠ざかる劉備の背中を見送りながら、呉の最高司令官・周瑜は、計画がすべて劉備のあざとさによって破綻したストレスにより、
「う、うわああああん! 劉備め、どこまで人の心を狂わせれば気が済むんだーーーっ!!」
と血を吐いて気絶するのだった。
乱世の恋模様は、ついに呉の姫君まで巻き込んで、予測不能なカオスへと突入していく。




