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三顧の礼、それは恐怖のお泊まり猛アタック

黄巾族の乱が落ち着いたのも束の間、天下はさらなる混沌へ突入していた。

そんな中、我が君こと劉備一行は、深刻な「頭脳ツッコミ不足」に悩まされていた。


「我が君、今日の夕食ですが、隣町の不届きな悪代官から米を100俵ほど強奪おねだりしてきました。これで美味しいお粥を作って差し上げますね」

「玄徳姉ちゃん! あたし、姉ちゃんにちょっかい出してきたナンパ男を、そこらの電柱(門柱)に生き埋めにしてやったぜ!」


「ふ、ふたりとも、毎日愛が重いよぅ……! 誰か、この人たちをスマートに止めてくれる、頭の良いお友達はいないのかなぁ……」


そんな劉備の贅沢な悩みに応えるように、風の噂が飛び込んできた。

なんでも、隆中りゅうちゅうという山奥に、「臥龍がりゅう」と呼ばれる、国家レベルの天才ニート(引きこもり美少年)がいるらしい。


「よし! その人に、私たちのまとめ役になってもらおう!」


劉備はさっそく、関羽と張飛を引き連れて山奥の庵へと向かった。これが、のちに歴史に刻まれる『三顧の礼』――という名の、執拗なお泊まりストーキング作戦の始まりであった。


一回目:居留守

「ごめんくださーい! 一緒にお話ししませんかー!」

劉備が庵の扉を叩くが、中からは「……今、寝てます」と明らかに起起きている声で拒絶される。

関羽が青龍偃月刀を抜きかけ、「我が君を居留守で迎えるとは万死に値する。今すぐこの山ごと更地にします」と静かにキレたため、劉備は泣く泣く二人を引っ張って撤退した。


二回目:すれ違い

「今日こそお会いしたいです!」

しかし、天才は不在。代わりにいた小姓(パシリの少年)に、劉備は手作りの「特製おはぎ」を託した。「諸葛亮さんへ。こんど一緒にピクニックしましょう。劉備より」と、可愛いウサギのイラスト付きの手紙を添えて。


そして、運命の三回目。

季節は冬。シンシンと雪が降る中、劉備は三度、庵の前に立っていた。


「……うぅ、寒いなぁ。でも、諸葛亮さんに私の気持ち(スカウト)、伝えなきゃ」


健気に身を震わせる劉備。

実は、庵の中では、すべての様子をマジックミラー(覗き窓)からじっと見つめている男がいた。


彼こそが諸葛亮しょかつりょう、字は孔明。

背中まで届く美しい銀髪に、妖艶なまでの美貌。手にはいつも、優雅に扇ぐ羽扇うせんを持っている。


「ふん、劉備ですか。またあの愚鈍な元・草鞋売りが来ましたか……」


孔明はフッと冷酷な笑みを浮かべた。彼は、他人の好意を一切信じない、極度の人間不信だった。劉備のことも「どうせ私の才能を利用しにきた、腹黒い女狐に違いない」と、完全に警戒していたのだ。


「一度、絶望させて追い返してあげましょう」


孔明はわざと寝室のベッドに横たわり、狸寝入りを決め込んだ。入ってきた劉備が、しびれを切らして帰るか、あるいは本性を現して怒り出すのを待つために。


ガラッ……と静かに扉が開く。

足音が近づき、孔明のベッドの脇で止まった。


(さあ、どうする劉備。私の服の袖でも引っ張って、無理やり起こすか? それとも――)


しかし、数分経っても、何の音もしない。

不審に思った孔明が、薄く目を開けた、その瞬間。


「……ふぇ? あ、あったかい……」


なんと劉備は、寒さのあまり限界を迎え、孔明が寝ている布団の中に、ごそごそと潜り込んできていた。

それだけではない。天然タラシの真骨頂、劉備は孔明の細い腰に「湯たんぽ」代わりにギュッと抱きつき、その胸元にすりすりと顔を寄せたのだ。


「むにゃ……諸葛亮さん……一緒に、世界を平和に、しようね……ぐー……」


秒で熟睡する劉備。

その瞬間、孔明の頭の中で、すべての数式と人生設計が音を立てて崩壊バーストした。


「は……っ!? な、何ですかこれは!? 離れなさい、無礼な……っ!?」


慌てて引き剥がそうとするが、劉備の小さな体は驚くほど温かく、そしてミルクのような甘い香りがする。何より、自分の才能ではなく、ただの「人間」として、こんなにも無警戒に体温を預けられたのは初めてだった。


ドクン、ドクン、と孔明の心臓が爆音を奏でる。

その冷徹な瞳が、一瞬で深い深い「ヤンデレの沼」へと染まっていく。


(ああ……なるほど。これが私の『主君』ですか。……素晴らしい。この方を汚す全ての有象無象を、私の知略で、根こそぎ灰にして差し上げましょう)


一瞬で重度の依存症(恋)に落ちた孔明。


その時、寝室の障子がバシャーーーン!!とド派手に叩き割られた。


「てめぇええええ!! あたしの玄徳姉ちゃんの布団に連れ込みやがったな銀髪モヤシ大根の変態野郎ォオオアアア!!」

張飛が蛇矛を振り回してブチギレる。


「……一歩遅かったか。関雲長、生涯の不覚。諸葛亮、貴様の五体を五等分にして、四方に散骨してあげます」

関羽の背後には、もはや実体化した阿修羅のオーラが見えていた。


「ひゃあ!? 2人とも、喧嘩はめっ、だよ!?」

飛び起きる劉備。


修羅場の中心で、孔明は優雅に羽扇で顔を隠しながら、ククク……と妖しく笑った。


「我が君、お目覚めですか。お騒がせして申し訳ありません。……まずは挨拶代わりに、あそこにいる黄色いおじさんたちと、南のツンデレ覇王(曹操)を、まとめて火あぶりの刑(大炎上)にして差し上げますね。ウフフ……」


「えっ? ええっと……よろしくね、孔明ちゃん?」


こうして、劉備軍に「天才にして最恐のヤンデレ軍師」が加入。

恋の戦火は、このあと赤壁せきへきの戦いという名の大炎上へと加速していくのであった。

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