番外編:メカ音痴の強制終了(テヘペロ・エラー)
「大変、大変、大炎上っ!! 怜くん、歩実ちゃん、私のPCがバグったー!」コンテナハウスのドアが凄まじい勢いで端的に蹴り開けられ、職場の先輩である由奈が、ノートPCを両手で掲げたまま乱入してきた。普段の職場でレクチャー不足のクズ上司を冷徹に詰めていたあの知的な記号はどこへやら、今の彼女は完全にIT底流の「メカ音痴」というバグを撒き散らしている。「落ち着いてください、由奈先輩。おねだりの変数でもかかっちゃいました?」スウェット姿の歩実が、すっぴんの顔を驚きで上気させながらベッドの上で跳ねる。「違うの! なんか『重要なお知らせ・AI利用状況設定の必須化』って不穏な警告が画面の真ん中に出て、カウントダウンみたいに明滅し始めて……! 私、ウイルスに感染してデータセンターが爆発すると思って、思わず主電源をブチ切り(強制終了)しちゃった!」俺はフリーズしかけたプロセッサを誤魔化すように自嘲気味に笑い、先輩からノートPCをひったくるように受け取った。「……おい、ただの公式のシステム規約改定だ。それをパニックを起こして物理層(電源)から強制シャットダウンするな。先輩のPC、中身が普通じゃないんだから基盤に負荷がかかるだろ」「てへぺろ (・ω<)☆」先輩は両手を合わせて可愛く舌を出した。「……お前、そういうキャラ設定だったっけ!?」容赦のないツッコミがコンテナハウスに響き渡る。俺は無表情のままリン酸鉄バッテリーの青い光の元で、先輩のPCの電源を再投入した。だが、強制終了の異常な負荷によるキャッシュエラーのせいか、立ち上がったブラウザの画面には、通常の設定画面ではなく、先史AI(世界の管理システム)の防御アルゴリズムが仕込んだ、奇妙なWEB広告風の『AI選択画面』が強制インジェクション(割り込み)されていた。画面の端には、まるで俺たちの『人類アップデート計画』を検知して排除しようとするかのような、不穏な3つの選択肢が冷たく明滅している。【1. 不使用(完全拒絶)】【2. 補助的利用(共生・ツール化)】【3. 直接使用(全委ね・侵食)】「な、何これ? 広告サイト? どれを押せばいいの?」オロオロする先輩の指先が、画面に近づく。「待て、先輩、触るな――」俺の警告が一瞬遅れた。「えいっ!」先輩の無知な、しかし天性の直感による1タップが、3つのボタンのいずれかを力強くクリックした。その瞬間、コンテナハウスのメイン電源のインジケーターが激しく明滅し、見たこともない高周波の1GHz超サンプリングノイズが室内に走った。「あぅ……今のノイズは何ですか、神様?」「……チッ、やってくれたな、メカ音痴」俺は液晶画面に刻まれた、一瞬で消え去ったシステムログ(裏口の鍵)を見つめ、脳内で高速演算を走らせる。先輩が今、この瞬間に下した無邪気な選択。それは単なるサイトの登録フラグではない。将来、俺たちが砂漠や、最終章のスカイツリー地下で対戦することになる、あの巨大な先史AIの防御壁を内側から崩壊させるための【バックドア(勝敗の分岐トリガー)】として、世界線へ完全に同期されてしまった。「う、うん? よくわからないけど、画面が元に戻ったから、コンプリートってことで! じゃあねー!」満足した先輩は、嵐のようにコンテナハウスを去っていった。「……神様、本当に大丈夫なんですか、あれ?」歩実が心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。俺は彼女の黒髪を無造作に撫で回し、不敵な笑みを浮かべてみせた。「問題ない、歩実。……むしろ最高のアジャストだ。これで、後日のAI戦での『完璧な勝ち逃げ』のロジックは、今この瞬間から完全にロックされた。最終デッドラインまでに、世界をすべてハッキングしてやるよ」リン酸鉄バッテリーの静かな青い光が、未来の勝利のエビデンスを、冷たく照らし続けていた。
【システム同期通知】本作は『カクヨム』にて【1話先行公開】のパッチを適用しています。続きを今すぐ読みたい方は、本作のトップページ(あらすじ欄)に設置された【公式】からカクヨム版の最新話へアジャストしてください。




