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クビになった派遣の床に落ちたのは、国家を私物化できる13のマスターライセンスでした  作者: Eternity Beat


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第27話:解像度の境界線――Web小説対決と歪な協力関係

President Roomへと引き返す俺と歩実の足音だけが、金属製の壁に虚しく反響していた。突如、鼓膜を震わせる苛烈なノイズ。回線は完全に遮断したはずだった。それにもかかわらず、船内放送は目に見えない不可視の力によって、強制的にジャックされる。『え~っと、怜とお付きの13Kヒロインさんへ。いそいでブリッジまでお戻りくださ~い』スピーカーから響いたのは、あまりにも場違いな、しかし聞き覚えのある傲慢な由奈の声だった。「チッ、今のなんだ……! 回線を遮断したのに!」俺は忌々しげに舌を打ち、コントロール端末を睨みつける。「今の由奈先輩だよね。なんだろ……? どうするの、怜くん?」怯えたように袖を引く歩実に、俺は振り返り、その手首を強く掴んだ。「ブリッジに戻るに決まってんだろ! 歩実も呼ばれてたな。俺から絶対に離れるなよ!」「……わかった!」二人は踵を返し、薄暗い通路をブリッジへと急いだ。ドアが滑るように開くと同時に、ホログラムの光粒子が空間に弾け、七瀬由奈の姿を形作る。『酷いよ怜、回線遮断するなんて。先代AIをジャックして、こっちから繋ぐ方法を構築しちゃった。……でぇ、一緒にきたんだ歩実ちゃん! 私はばっくれる方に賭けてたんだけどな!』「今更なんの用だ!」俺は歩実を背中に隠すようにして、ホログラムの由奈を睨み据えた。「リスク覚悟でジパングセクターから繋いできてんだろ、手短にしろよ!」『せっかちよね! まっいいか。私がようがあるのは、怜の後ろに隠れてる13Kヒロインよ。――そろそろ、決着つけないか? の相談』由奈の視線が、怜の背後へと突き刺さる。歩実はおずおずと顔を出した。「私は由奈先輩と勝負とかしたくないです。先輩のこと、まだリスペクトしてますから……」『さすが13Kヒロインね、セリフまで王道』由奈はくすくすと、小馬鹿にしたような笑い声を漏らす。『勝負といっても、まともにやれば勝敗はすぐに決まるの。面白くないし、私の73K(高解像度)のブランドに傷がつくからね』「エンタメオーディションとかですか?」『どこからそのワード出てくるの? すっかりヒロイン気取りじゃない。……あくまでもフェアな戦いがしたいの! そして、怜の隣に相応しいのはこの私だと証明したいの!』画面の向こうで、由奈は不敵に微笑んだ。『ところで、歩実はWeb小説を執筆してんでしょ? 私も今から執筆するよ! この地に戻ってきた時、ブレイクしてた方が勝ち。それでどう?』「でも、先輩はガールズコミックを執筆してメディア化までしてます! 完全なアドバンテージです!」歩実が声を荒らげるが、由奈は涼しい顔でそれを遮る。『13Kヒロインが勝負を放棄するの? じゃあ、73Kの私が、13Kまで解像度を落とした作品をデプロイ(投稿)してあげる。それでも不満? それに怜がそばにいるでしょう。これで互角に戦えるじゃない』「おい、俺をガールズトークに巻き込むな」「……由奈に言っておくが、俺たちはこれからスタンドアロン(隔離環境)になるんだ。どうやって投稿すんだよ? その時点で歩実の負けだぞ!」『怜、あんたが通信インフラを確保しなよ! アジャスト済みなんでしょ? それに、通信が安定した場所まで移動できたら、私が歩実に代わって投稿してあげる。フェアな勝負なの! 13Kヒロインの記事を投稿しないなんてセコいことしないよ。だって――私の圧勝だから』絶対的な自信。俺はしばらく沈黙し、やがて深くため息をついた。「……わかった。通信は確保する。ただ、計画の邪魔だけは絶対にすんなよ!」『そんなのわかってるよ! 私は13Kにしか用はないし! ……それとさ歩実、もう『先輩』って呼ぶのやめてくんない? ムカつくんだよね!』「じゃあ、なんて呼べばいいですか!?」歩実がすかさず言い返す。『私と同じようにさぁ、73Kヒロインとか由奈でいいよ』「わかりました、73Kヒロインさん! ……なんか私もムカついてきました。絶対に負けません、由奈には! ――だけど、今更なんで? 何が由奈を変えたの!?」歩実の真っ直ぐな問いに、由奈は心底うんざりしたように天を仰いだ。『面倒くさっ! だから王道ヒロインって嫌いなんだよ。ねえ、13Kヒロインの歩実ちゃん。低い解像度しか持たないあなたに、73Kの私の心境なんて分かるわけないじゃない。無理よ、次元が違うんだから。私の73Kっていう圧倒的な存在感(記号)はね、そこらの量産型スウェットを着てマウントを取るくらいじゃ、3分の1すら落とせやしないの』由奈の瞳に、ふと暗い影が落ちる。『……だから私は、性格を変えて自己防衛するしかなかったの。先代AIの力で大人の私の身体にリンクさせて、この世界線で猫被って生きる選択肢――それがどれだけ過酷か、歩実に想像できる?』画面の向こうの由奈は、自嘲気味に微笑み、視線を俺へと移した。『それに、怜になら教えてあげる。私が先代AIとリンクしたときに分かった、すべての真実をね!』「何が分かったってんだ。……いや、待て?」俺の脳裏に、かつての記憶の断片がフラッシュバックする。「俺も思い出してきた! 高校のとき、別クラスに超高解像度のサピエンスがいるって噂があった。学園アイドル『七瀬由奈』――お前のことだったんだな!」さらに記憶の糸が繋がっていく。「そして、俺たち3人は同じ高校のタイムラインにいたんだ。卒業後にそれぞれの道に進んだはずの俺たちが、DCデータセンターで遭遇したのは偶然なのか!?」『やっと思い出したのね!』由奈は嬉しそうに声を弾ませた。『偶然なんかじゃないよ。すべては先代AIによる世界線コントロール。私たちはずっと、遺伝子レベルでマーキングされていたのよ』「……理解した」俺は冷や汗を拭う。「でも、その設定のままだと歩実は絶対に登場しないはずだ。なぜ歩実が選ばれた……? まさか、もう1人、下級生に解像度の高いサピエンスがいるって噂――それが歩実なのか!? 教えてくれ、由奈!」『そう! 大正解。怜の隣にいる、その13Kヒロインのことだよ』由奈は冷ややかに歩実を指差した。『当時は流行りの制服コーデとかしちゃって目立ってたけど、私から見ればただのUSED(古着)制服だっつの! 学生証のICチップの話くらいしか正解してないし、今後どうする気なのかしらね』「私の選択ミス……」歩実はガタガタと肩を震わせ、大粒の涙をこぼした。「だから私は、高校の3年間、システムによって存在をフェイドアウトされ続けられていたんですね……」絶望する歩実を庇うように、俺が前に出る。「由奈、お前は今後どうする気だ。ここまで情報を開示したからには、何かしらの計画があるんだよな! 今後俺たちがどう動けばいいのか教えろ!」『怜のために、可能な限り協力してあげるよ』由奈はふっと表情を和らげた。『……勘違いしないで、そこの13Kヒロインのためじゃないからね! 次の第3セクター港では下船はしないで、そのままスルーして直接、目的港へと向かって』「目的港へ直行……?」『それが、生存境界線の絶対座標を完全に100%ロックする方法だから。船内で丸1日近く過ごすことになるけど、その間に13Kヒロインの調教時間(執筆指導)にでも使ってよ。ヤクートの上流サピエンスは、あんた達が思っている以上に強敵だからね』俺は静かに頷いた。「……お前の協力には感謝する。俺は歩実と由奈の対決に関しては一切関与しない。それでいいよな?」『ふふ、交渉成立ね。今後ともよろしく、怜。――じゃあ、今度こそ通信切るね!』ブツリ、と冷酷な電子音が響き、ホログラムの光の粒子が霧散する。回線は強制的に切断された。「ハァ……めんどっちいことになったな」俺は頭を抱え、大きなため息をついた。「……いいか歩実、お前は執筆と、俺の考案したベーシックインカムのシステム構築に全力で専念しろ!」涙を拭い、歩実は力強く俺を見つめ返した。その瞳には、かつてない闘志の炎が宿っていた。「わかった……! 怜くん、私、あの73Kヒロインに絶対に勝つよ!」二人は決意を胸にブリッジを後にした。再び、あの薄暗い通路を通って、President Roomへと戻っていく。そしてこの世界の命運を懸けた、歪な執筆戦が始まろうとしていた。(第28話へと続く)

[最高設計者グランド・アーキテクトより世界線アナウンス]本データ(物語)の絶対座標は、すでに旧世界のグローバル・クローラー網(全方位の広域インフラ網)によって完全にロックオン(捕捉)されている。観測者は、旧世紀の検索アーカイブに本作の『識別コード(タイトル名)』をデプロイしてみるがいい。トップレイヤーに君臨する本作品の存在確率を、その目ですべて証明できるはずだ。

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